arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国「エイフマンの『アンナ・カレーニナ』」:鬼才・エイフマン×世界名作不倫文学

新国立劇場バレエ「アンナ・カレーニナ」です。
振り付けはかのボリス・エイフマン!!キタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━!!

エイフマン・バレエ団自体は日本には1996年以降ぱったり来なくなってしまったので(多分アホな興行会社が無理に、しかもゲストに草刈なんか呼んでジゼルとか古典をやらせたのが一因と推測)、実質上日本でエイフマンの全プロが公演されるのは実に14年ぶりです。
完全なエイフマン・バレエ団ではないものの、エイフマン振り付けの全幕物が日本で上演される日をどんなに待ち望んでいたことか…・゚・(つД`)・゚・
とにかくエイフマン・プロをやろうと決めた新国にまずは大感謝!

で。
ボリス・エイフマンと言えばソ連時代からロシア激動の時代を経て、今やサンクトペテルブルクを中心に世界各国で名だたるモダン・カンパニーの一つを率いて活躍する、現代のコリオグラファー
ソ連時代初のモダン・カンパニーを立ち上げたものの、あまりに斬新な振りや解釈で反体制レッテルを張られましたが、ペレストロイカ以降は国を代表するバレエ団の一つとなり、サンクトペテルブルク300年祭は彼が舞台監督を務めたと聞きます。
その時の評は「時代がやっとエイフマンに追いついた」だったとか。

ペレストロイカ以後は「カラマーゾフ」「かもめ」などロシアの文学作品をテーマにしたものが多くなったあたり、世界を巡りつつも魂はロシアに帰ってくるという、まさにロシア人そのものという人でもありましょう。

そして本日初日&日本初演のエイフマンの「アンナ・カレーニナ」。
言うまでもなくトルストイの名作というか世界名作不倫文学(爆)。
破滅的に重そう、というのは席に着いたら思い出したことで、それまでは「エイフマンがまた見られる!」という嬉しさで浮かれてました(^_^;)
てかまた“不倫”かい…。
なんか最近このキーワード多いなぁ…(ぼそり)

ストーリーはアンナと役人であり社会体面を気にする堅苦しい夫・カレーニン青年将校ヴロンスキーとの三角関係。
原作はヴロンスキーとの愛というか不倫で「社会に挑戦状をたたきつけ」、弾き出され、全てを失い破滅していく女性・アンナを軸に世紀末ロシアの病を描き出したものです。
エイフマンのすごいところは「カラマーゾフ」にしても、あのクソ長いロシアの超大作文学を上澄みではなく、ちゃんと内面の底のキモの部分までしっかり掘り下げ抽出して、2時間の舞台に仕上げるところにあります。
ですから今回のエイフマン版はもう一人の主要人物レーヴィンは一切出ず(これってすごいよ)、ただアンナの不倫を中心に、「妻であり母」「欲情のために全てを捨てられる破滅的性格」という女の二面性や社会体面、世間体、ダメと分かっていても堕ち破滅していく人間の業が大胆な振りと演出で語られていくわけです。
「分かっていて堕ちていく」なんて、どっかの人形劇のレビューにも書いた気がするが…まあいい。

主演のアンナ、カレーニン、ヴロンスキーはエイフマン・バレエ団の生え抜き3人が務めます。
てか、あとはみんな新国の日本人ダンサーだったんだよな…。
これはこれですごいことだったと、今にして思います。

幕が上がると暗い舞台のピンスポットの下、汽車のおもちゃで遊ぶ子供。
真円の線路の上を汽車がくるくると回り、役人の夫の良き妻・子供の母として体面を繕い、エンドレスな画一的生活を送るアンナの乾いた心情と、またラストの悲劇を同時に予感させます…。
しかも音楽は世紀末ロシアでおそらく最もロマンチックに病んだ作曲家・チャイコフスキー中心。
のっけから「弦楽セレナーデ」と来る辺りがエイフマン…!
あなたはホントにすごい人です…(T_T)

そして大胆かつダイナミックな振りと、めまぐるしいほどにスピーディーに交錯し、時には立体マスゲームのようなアクティブなコール・ドなど、「肉体」をもって空間全てを使った三次元的構成で人間の感情や苦悩を表現し、心理の奥底を深く深くえぐりだす、エイフマンならではの舞台が展開されます。
これだよ、これ!!(ダンダン!!)

アンナとヴロンスキーが社会からはじき出されののしりそしりを受ける舞踏会の場面はチャイコの「悲愴」第3楽章。
ここでこの曲持ってくるか!と仰天しつつも、どこかでナルホドと思うから不思議。
やっぱりこの人、鬼才であり天才。
そしてまた容赦ないわ、ホント…(T_T)

圧巻はやはり鉄道投身のラストシーン。
汽車の走音を否が応でも思わせる音楽と規律的に画一的に踊る黒の男性群舞。
ドライアイスの白い煙。
破滅し、全てを失い、生気も失せたアンナがうつろに、しかし「すべてが終わる」という“希望”のもと、群舞たる汽車に向かって身を投じるこの一連のシーンはもう心臓潰れそうでした。
どの辺から滂沱してたか分かりませんがもう、幕が下りたときには目鼻ボロボロで、なんか口もぽかーっと開けてたようで…。
このエイフマンならではの人間劇、本当に圧倒されます…・゚・(つД`)・゚・

カーテンコールにはエイフマン御大が登場!
白髪多くなったけど、こうして御尊顔を拝見できるのはうれしい…!!
願わくば、この新国への作品提供を機に、また日本に来てほしいものです。
今度はちゃんと「エイフマン・バレエ団」として。
何度も見た「チャイコフスキー」や「カラマーゾフ」、以後の新作「ロシアのハムレット」「かもめ」「オネーギン」などなど、また&まだ見たいものはたくさんあります。
エイフマン、再び!
Please! 頼むよ!!