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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ「パゴダの王子」:日英折衷の華やかなりし世界

11月6日、新国立劇場バレエ「パゴダの王子」、世界初演の日本のバレエを見てきました。
でもこの日は最終日だったのですが(^_^;)
ファーストキャストで、主演のさくら姫は小野絢子さん、兄である王子は福岡雄大さんです。

振り付けは芸術監督のデヴィッド・ビントレー、音楽は英国のベンジャミン・ブリテンで、このブリテンの「パゴダの王子」が日本で全曲通して演奏されるのも、この公演が初めてだったとか。
いろんな意味で「世界初」の、記念すべき公演最終日でした。

お話の舞台は日本…というか「菊の国」。

浮世絵風&英国世紀末風の舞台セット、平安の衣冠束帯のような着物にチュチュ、バリ風衣装にキュートな着ぐるみ妖怪や魚やモンスターたちが登場という、斬新でカラフルでめまぐるしい、華やかなウルトラミックスな世界。
突っ込みどころも満載ですが、まずは舞台として純粋に、ファンタジーの世界を楽しませてもらいました。

舞台セットや衣装など「外国人が見た日本だ」という意見もごもっともですが、それでもビントレー氏はじめ英国人のスタッフたちは浮世絵や着物、能楽師を招いての振り付けなど、「日本」に対してとても真摯に、尊敬を持って向き合ってくれていたのは、新国立劇場の特設サイトをご覧いただければわかります。

何より、日本がとてつもなく大変な問題を抱えている時期に、この作品の上演が重なったというのは、やはり巡り合わせだとしか思えない。
「日本」「日本人」への、思いとエールが詰まった作品にもなりました。

だからこそ、東京でだけの公演なんて、いかんですね。

全国ツアーをするなど、たくさんの日本人に見て欲しいと、今回ほど思ったことはありません。

もっと「新国立劇場バレエ」を広く知ってもらうべきだし、「国立」である以上、地方の人たちも見る、知る権利はあるはずです。


というわけで、前置きが長くなりました。

「パゴダの王子」自体は、著名な振り付け家により過去にも何回か制作されましたが、脚本のわかりにくさなどから、今一つぱっとしなかったこの作品を、ビントレー氏は「アジアのどこか」から「日本」とし、「恋人話」を「兄妹と父親の家族愛」に置き換えることで、話の筋をまとめあげたとか。

つまり話の大筋は主人公のさくら姫、兄である王子と皇帝(堀登さん)が、二人の兄妹にとっては継母になる魔女皇后エピーヌ(湯川麻美子さん)から国を取り戻す、というもの。

あらすじは特設サイトがありますのでそちらも併せてみてください。
http://www.atre.jp/11pagodas/intro/index.html

開演前にバカ殿かオバQだか、とにかく「うしろー!うしろー!」と言いたくなる道化(吉本泰久さん)が登場し、観客とじゃれているところで音楽が始まります。

王子が亡くなり葬られるプロローグから数年を経て、舞台は東西南北4人の王を招いての…見合いでしょうか。
継母皇后エピーヌはさくら姫をとっとと嫁に出し、いよいよこの国の実権を握ろう、というところ。
皇帝は、どうやら病気がちのご様子。
開演前から観客とじゃれる道化といい、弱々な皇帝といい、ちょっと「リア王」的なとこが、英国テイストです。
ちなみに宮廷官吏の厚地さん、平安直衣に烏帽子がばっつり似合ってて、凛々しいことこの上ない~vv
さすが新国立劇場のアラミスであります(すごく勝手に言ってる)。

東西南北4人の王は、東が中国、西がアメリカ、南がアフリカで、北がロシア。
それぞれ阿片(麻薬)、銃(武器)、象牙(財宝)、石油(資源)という意味深な貢ぎ物を持って現れます。
狙いは姫というより、国であり、実際の権力者である妖艶な皇后に取り入ろうという感じ。
湯川エピーヌ、威圧的で「大きな」皇后で、すごい存在感です。

対するさくら姫は可憐でかわいらしい、でも一本芯の通った、大和撫子的なお姫様でしょうか。
麻薬、武器、財宝、天然資源。
下心付きの贈り物&結婚を拒絶する姫に、皇后ったら平手打ちですー。
ほんとに音がしてたんですがー…(^_^;)

そんな折り、まるで黒鳥&ロットバルトの登場を思わせる怪しいファンファーレ。
5人目の来訪者は、妖怪を連れた、トカゲの王
このお供の着ぐるみ妖怪が、水木しげるチックで、とってもキュートですvv
かわいすぎます。

またトカゲの王と南の王のメイクというかペインティング(?)が、あのウルトラマンの怪獣、ダダなんですよ(笑)
サラマンダダと、南の王は宝塚みたいな羽背負ってるから、ヅカダダ?

とにかくさくら姫、継母の言いなりになるくらいなら…なのか、あるいはサラマンダダに何かを感じたのか、トカゲの王の手を取り、雲に乗って旅立つところで、1幕終了。

そして、圧巻の2幕、「さくら姫の大冒険」が始まります。
これは是非写真も見てくださいな。

http://www.nntt.jac.go.jp/nbj/blog/2011/11/02/%e3%83%91%e3%82%b4%e3%83%80%e3%81%b8%e3%81%ae%e6%97%85-%e3%80%90photo-%e3%82%ae%e3%83%a3%e3%83%a9%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%80%91/

空、海、炎の国を抜ける旅は、さくら姫の試練であり、また「心の旅」のようです。
それぞれの場で皇后エピーヌが、圧迫する心の試練、心の棘のように、登場します。

空の国ではチュチュをまとった雲や星がきらきらと交錯する世界。
海の泡の妖精たちのスピーディーな踊りが、水流の激しさ、速さを感じさせます。
そして海にはは今回大人気のタツノオトシゴたちが登場。

この作品、男性ダンサーたちは、一人何役だかわかりませんが、入れ替わり立ち替わり、いろいろな役を踊ってて、本当に大変だったでしょうが、その分経験値上げているのだろうなぁと思います。
なんだかワクワクします(^o^)

さらに、深海では、深海魚というか半魚人というか、半魚どん&タコに姿を変えたエピーヌ皇后の登場。

この日の湯川エピーヌ、本当にニコリともせず、表情は常に威圧的で、眼力座ってて、実に存在感がありました。
ガラスの仮面」じゃないですが、皇后とさくら姫、2人の女性それぞれが対等な存在感を持たないと、このバレエは崩れちゃうんですね。
またエピーヌ、この連続早変りは本当に大変だったでしょうし、大役でした。

泡の精に翻弄され、半魚人に追われ、妖怪たちに導かれながら、次にたどり着いたのは炎の国。

姫を襲ってくるのは炎の精と、炎の化身となった4人の王、そして紅蓮の火柱のようなエピーヌ。
ブリテンの音楽がまたすごい。
ロックのようなジャズのような、ノージャンル多国籍音楽。
この炎の国のクライマックスでは泡も半魚人もすべてが登場して姫を襲ってきます。
バレエというかコンテンポラリーというかモダンダンスというか、とにかく迫力満点!
鳴り響くパーカッションの響きが迫力3倍増。
音楽とバレエの、見事な共存です。

そして暗転の舞台で静かに響くガムラン…というか、ガムラン的音色、といいますか。

この「パゴダの王子」の音楽的ポイントの一つが、オーケストラによるガムランの再現です。
ピアノやヴィヴラフォン、シロフォンなどを使っての再現ですが、これがまた違和感のない音色。

とうとうパゴダの国にたどり着きました。
バリ島のダンスを踊るバリニーズとともにトカゲの王が登場し、自らの過去を語ります。

というか、目隠しをされて何も見えないさくら姫は、それを心で感じます。
さくら姫&王子とそれぞれの子役との、4人のシンクロによる記憶の旅です。

子役が演じる、幼い頃の、幸せな思い出を心に呼び起こしながら、継母にトカゲの姿に帰られた兄の悲しい過去を知り、そして兄が生きていることを知るシーンは、先の炎のクライマックスも相まって、一気に静かに優しく、切なく、また清らかです。
国へ帰り、真実を告げ、継母と戦おうとする姫の、静かな決意が伝わってきます。

そしていよいよ第3幕。

皇后は4人の王と酒池肉林の大宴会。
宮廷内は乱れ、皇帝は姫まで失ってますます弱り、家臣にまでバカにされる。
唯一皇帝に付き従い涙するのは道化のみ。
やっぱり「リア王」。
道化、いい奴だ~・゚・(つД`)・゚・

そこへ姫が戻り、トカゲもといサラマンダダが現れ、皇后の正体をあばきます。
サラマンダダVS皇后。
バリニーズやパゴダ人、妖怪たちも加わって皇后を倒し、魔法が解けたサラマンダダは王子の姿にもどります。
美しいです。
当日は奈良帰りゆえ、髪型が阿修羅のような髷(?)ならもっとカッコイイのに、と思ってはしまいましたけど。

王子、姫、皇帝は力を合わせて4人の王を追い出しますが、このバトルシーンはまたおもしろい。
姫も戦っちゃいます。
兄様とのパドドゥで跳び蹴りまでやります。

4人の王もそれぞれ戦いますが、スターズ&ストライプスの西の王、銃が勝手に暴発して戦わずして果てるあたりは、ツボでした。
てか、西の王役のマイレンさんのパフォーマンスがとても達者でゆえの魅力でしょうか。

まあこの4人の王…夷狄を追い出す下りはいろいろ意見のあるところで、私も正直手放しでブラボーと言っていいものか考えるところではあります。
鎖国継続より、開国すべきだと思いますし(^_^;)
皇后が倒れたのだから、平和理に、許し、仲良くするという展開もありなんじゃないかとも思いますが。

ともかく国に平和が戻り、兄妹のグランパドドゥからフィナーレへ。
「どっこい、めでたし。とんぱらりぃのぷぅ」と道化が締めて、物語は幕。

きっとこの作品、手直しを加えつつ、またお目見えする事になるのでしょうし、是非見たいです、もう一度。
その時はカーテンコールでぜひバリニーズや妖怪たちに登場して欲しいし、なんならバリニーズは迦陵頻迦に、妖怪たちは地霊となって国を見守ってくれるのもいいなとか、勝手に思ったりもしていますが。

また「皇帝なら“皇子”だろう」とか「パゴダ(仏塔)って、そもそもバリじゃなくてミャンマーじゃね?」とか、土台から世界を破壊するような、無粋な突っ込みも言ってみたくはなりますが(^_^;)

でも、それらを横に置いておいても、とにかく文句なく楽しい作品でしたし、ビントレー氏はじめスタッフ&ダンサー一同には声を大にしてお礼を言いたいです。
日本発のバレエとして、しっかり育てていかなければならない作品だと、つくづく思いました。

ブラッシュアップした再演をぜひ、ヨロシク。