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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ「シルヴィア」ゲスト組:「永遠のハンター」オライオンと「シルヴィア」なアミンタ

10月31日新国立劇場バレエ「シルヴィア」、ゲストの佐久間奈緒&ツァオ・チー組を見てきました。
初日の小野&福岡組では見え切れなかったものとかが見えて、実に堪能しましたよ。

というか、もちろんシルヴィアとアミンタの話ではあるんだけど、「オライオン」のキャラに深みというか味が増すと、一層面白く見えるのかもしれない。
今回の佐久間&チー組はビントレー版の「シルヴィア」本家のバーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)でこの役を踊っているだけあって、やはり特に踊りの面での見応えがありましたが、さらに厚地オライオンが加わったことで、かなり深いものが感じられましたね。

実際、キャストが発表されたとき、スリムでノーブルな王子系の厚地さんが、ワイルドで粗暴なオライオン…というのに、大丈夫かな??なんて思ってましたが、完全杞憂。
逆に厚地さんのソフトクールでイケメンの部分が相乗効果になっていたのか、オライオンの心情の後ろっ側が覗けたような気さえしました。

「シルヴィア」のキャラだけに関して言えば、個人的には小野さんの方がぶっちゃけ好みなんですが、やっぱり佐久間さんは踊りこんだだけあって、役にすっかり入り込んでる。
何よりチーとのコンビネーションがお見事すぎます。

で。
佐久間&チー組バージョンと小野&福岡組バージョンの決定的な違いは、小野&福岡組のは最後までシルヴィア&アミンタ。
ゲスト組のはシルヴィア&アミンタで、かつシルヴィア&オライオンだったのかと。
もちろん、シルヴィア「&」オライオンというのは結構な語弊があり、正確な言い方ではないのですが、でもやはりこう言うのがいいのかな、と思います。
また、だからこその佐久間&チーであり、オライオンは佐久間さんとがっつり合わせることのできる、元BRBの厚地さんである必要があったのかも。

キモになるのは2幕の、オライオンのアジトです。

特に洞窟でシルヴィアの白ドレスを手にしつつも、一抹のやるせなさ、やり場のない憤りや哀愁といったごった煮の気持ちがにじみ出ているようなオライオン。
そして意識のない、朦朧としたシルヴィアと踊るシーン。
追っても追っても満たされない、何かを置いてきてしまったような「砂漠の心情」ってのでしょうかね。
オライオン=オリオン。
「永遠のハンター」ゆえの業とでもいうのでしょうか。
ひょっとしてビントレーさん、厚地オライオンでコレが言いたかったの??って思ったくらいです。
いやいや、なんという配役の妙。
面白すぎる。

そして人間誰にでも多かれ少なかれある「黒シルヴィア」の部分も、主人公・シルヴィアの味わいっていうのでしょうか。
朦朧とした無意識下の「黒シルヴィア」の部分が、一瞬たりともオライオンの業と繋がりかけたのだとすれば、あのパドドゥは文字通り「エロス」だし、イヤーン(//∇//)で然り。

優男でダンディで、いわばチャラ男な伯爵っぷりと、ワイルドだけど、実は寂しがり屋さん(笑)のハンター、厚地オライオン。
というか厚地さん、最初のタキシード姿で登場した時点からもう、萌え~♪だったのですが、ワイルドも良いよ(笑)

「永遠のハンター」たるオライオン伯爵、でも子供二人はかわいくてしょうがない感じだし、やはり女房もそれなりに好きなんでしょう。
めちゃめちゃ燃え上がっていた時期ももちろんあったでしょう。
でもなーんか、冷めてしまった。
やっぱり「倦怠期」なんですな。

凛とした家庭教師の、清純清楚の裏の「黒シルヴィア」があの2幕の小悪魔っぷりだとしたら、もうこれは萌えますわ(笑)
百戦錬磨のハンター伯爵は見抜いていらっしゃったのか??

だから2幕の黒シルヴィアは、アミンタを目にして、逃げます。
恥じ入ります。
潔癖な彼女は、やはり自分が許せないんですな。

でもアミンタはシルヴィアを追い続けます。
盲目のアミンタは魂でシルヴィアの存在を追い求めているわけです。
それはシルヴィアの見てくれではなく、彼女の魂を丸ごと、白も黒も含めて、追い求めているわけです。
見えてはならんのです。
心で追うのですから。

アミンタは、ただ、エロスの放った愛の矢に導かれるままに、彼女の魂を追い彷徨います。
黒のズボンの裾が、白くなるほどに。
2幕のアミンタなんて、最後の一瞬だけ出てくるだけなのに、なんだこの、チーの神々しいまでの存在感は。
「シルヴィア」とは「純潔」の意味なり、とはプログラムにありましたが、いやいや、もうどっちが「シルヴィア」。
アミンタ、天晴れじゃ。
てか、ビントレーのこのアイロニー的な仕掛け、すごいわ。

そして3幕。
「潔癖」「純潔」が誓いである、女神ダイアナの神殿に、もちろんもうシルヴィアは帰れない。
シルヴィアを追ってきたオライオンは、この高潔高慢な女神に殺されるわけですが、このとき、ダイアナとオライオン、視線に会話があったにちがいない。
2幕が濃厚だからこそ、そう思えます。
女房そっくりの女神に殺されゆくなかで、彼女の冷酷な瞳の中に、愛してやまない気持ち、愛情を求めても得られぬ、「砂漠の心情」を見たのかもしれないよ。

だからこそ、現実世界に戻り、彼女と自分が互いに持つ、「砂漠の心情」に気付き、めでたく元サヤ…ということでしょうか。
素直に受け入れる女房も、おかげですごく納得がいく。
初日では「??」だったラストシーンが、今回は本当に自然に、腑に落ちました。
駆け寄ってくる子供たちと、彼らをヒシっと抱きしめる夫婦がとっても心に残りますよ。

主演とか一人のダンサーだけじゃ、当然ながらお話は成立しない。
特に演劇要素の強い、こうした脇まで人が生きてる…というか、生きなきゃならない作品じゃ、あらゆるキャラがかみ合ってこそ、舞台に深みが増します。
というか、言葉のないバレエから、踊りや視線から溢れ出す「言葉」をキャッチする、「言葉」が、見えない会話が伝わってくる瞬間が堪らない。
だからやめられない、バレエ。

ダイアナ伯爵夫人の本島さん、視線がとにかくおっかなかったです。
冷たい怖い目で、特に1幕の、「浮気の現場を見た!」シーンは、ほんとに凍ってましたね。
だから一層、馬上のダイアナは冷酷で、切ない気さえしました。
福田さんのエロスは飄々としてチャーミングだったし、やっぱり海賊踊りはすごいし。
あの踊りを吉本さん、八幡君共々、3人も踊り切る人がいるなんて、新国、すごいわ。
ってか、八幡君のはこれから、千秋楽に見ますが、彼なら間違いないでしょう。

ニンフの群舞も相変わらずビシっと決まっててカッコイイですよ。
たおやかなアマゾネス。
踊りや振りについてはツイッターなどで「鬼振り付け」「どS」とかかなり語られていますが、それを踊りこなせる新国の方々は本当にすごい。

スキンヘッドのオカマツインズが、野崎&江本ですが、これもまたいい味出してました。
初日の福田&八幡組にしても、みんな楽しそうに踊ってるなぁ!
というか、このオカマツインズに「ゴグ&マゴグ」なんて名前を付けるセンスがまたよいわ。
ホント、英国的ってのか。
そういえば、あのオカマツインズが2幕で足でブドウを踏んでブドウ酒を作るシーン。
一瞬オライオンが飲むのをためらいますが、「そうだよな、足、臭そうだもんな」なんて思ってはいけないのよね、そうよね(笑)

というわけで、結局最終日、千秋楽の米沢&菅野組も行ってきます。
やはりこんな楽しいもの、全キャスト見なければ!
本当に新国、いいプログラムを手に入れました。
ブラボーです。