arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場「シルヴィア」千秋楽:天晴れ、新国

新国立劇場「シルヴィア」最終日を観てきました。
結局全キャストを観ましたが、本当にどれも質の高い素晴らしい舞台で、実に楽しい1週間でした。
英国的な笑い&芝居のセンスに、すさまじい、鬼だのドSだのといわれる振り付けをものともせずにきっちり踊りこなす、あるいは演じあげる新国立劇場バレエ団の層の厚さ、クオリティの高さは天晴れです。
本当にすごいバレエ団になったものです。
感無量です。

今日の最終日は米沢&菅野組。
米沢さんは昨年「パゴダの王子」のさくら姫を踊ったとき、妖怪たちに囲まれた場面でニコッと微笑んだ、あの瞬間の演技がすごく印象に残っているんですよね。
「ああ、ここで笑える子なんだな」と思ったのですが、今日見て、彼女は理屈と言うより感性で役を捉えることのできる人なのかも、と思いました。
一種「なり切り系」っていうんでしょうか。

今日のシルヴィアも笑顔も振りも動きもいちいち自然。
清楚な小野シルヴィア、凛とした佐久間シルヴィアに対し、米沢シルヴィアは実にかわいらしい。
それゆえか、生真面目そうな家庭教師スーツがすごくミスマッチな雰囲気で、それがまたいい具合にギャップ萌えになってるんですよ。
こりゃあオライオン伯爵、堪らんだろうなぁ~、とか思ってしまいましたよ(笑)

そのオライオン伯爵、今日はマイレンだったのですがまあ、期待通りのマイレン節炸裂で嬉しいったら。
この人は本当に踊りはもとより、この彼にしかできない、マイレン・オンリーの表現力が好きです。
ワイルド炸裂でターザンみたいな古川オライオン、一抹の哀愁が見え隠れする、でもワイルド萌えな厚地オライオン、そして2幕洞窟のシーンでも、シルヴィアと対決しつつ、どこかそれを楽しんでいるようなマイレン・オライオン。
生粋の遊び人で、ちょっとMっ気も見え隠れする味わいが堪らんw
もう萌えどころ満載で楽しいですよ、このキャストも。
唯ちゃんに蹴られるシーンなんか、心なしか嬉しそうに見えたんですが(笑)
でも米沢シルヴィアになら蹴られたっていい!(え?)

八幡エロスは本当に芸が細かい。
「あらら」「おろろ」「やれやれ」の小さな積み重ねがすごく目を引き、でも舞台全体を邪魔しない味わいがあって、それがラストシーンの飄々とした登場で、魔法のように、ほわほわほわ~~~っと劇場中に漂っていく。
まさに愛の神・エロスか。
それでいて、目玉の一本足義足の海賊踊りは実にお見事。
海賊踊りに入る直前、顔が一瞬「八幡」に戻ったけど(笑)
それだけ気合いを入れないとならないんでしょう、あの踊りは。
義足の方を軸にして回るんだから、ホントにスゴイわ、何度見ても、誰のを見ても。
そういや、海賊のお尻に付いてるネズミは何のジョークなんだろう?
いや、ジョークだから考えちゃいけないんだろうけど、でもなんでネズミw

3幕のグラン・パドドゥはもう圧巻。
米沢スマイル炸裂で、もう全身これ、笑顔って感じ。
彼女は本当に踊ることが好きで好きでたまらないんだなぁ!
実にキラキラとしていて、観ているこっちまで思わず顔がほころんでしまう。
それでいて、しれっと難しい振りをこなすんだから、いやもう恐れ入ります。
ぜんぜん力が入ってない、やはり自然体。
ナチュラルな魅力。
草原の野の花みたいです。
かわいいです。
唯、かわいいよ唯。

菅野アミンタ、グラン・パドドゥのアダージョが終わって唯ちゃんを舞台袖に見送るときの名残惜しそうな顔が印象的(笑)
どんだけシルヴィア好きなんだ、アミンタww
彼もここ数演目、主演が続いていますが、着実にステップアップしているのがわかります。
本当に新国、層が厚い。

ダイアナの堀口さんは、3キャストのなかで一番パワフルなダイアナだったでしょうか。
「力」が感じられるダイアナで、力の限り矢を振り絞って狩りをしそうです。

また今回の公演を通して注目していたのが「シルヴィア」の音楽。
チャイコフスキーが「これを知ってたら白鳥は書かなかった」と言ったという話ですが、正直、ストーリーが退屈なオーソドックスなものが頭にあったときは「そうかぁ?」と思っていました。
でもこうしてお話がちゃんとして、またキャラが生き生きと舞台上で踊っていると、実に壮大で魅力的で神々しい。
コミカルなところはコミカルに、華麗なところは華麗に。
しかもぶつ切りではなく、淀みなく、大河のようにゆったりと流れていく。
それとともに、お話も自然に流れていく。
いや、これなら確かにチャイコフスキーの評価も頷けるところがあるわ。
というか、バレエ音楽って、やはりお話や踊りなど、舞台上のあらゆるものが一体となってこそのバレエ音楽だし、バレエなんだと、しみじみ思いました。
そんな魅力もあったからこそ、こうして今回3回も劇場に足を運んだのかもしれません。
頭の中は今でも序曲やらなにやらと、音楽が駆け巡ってますよ。

本当に、たっぷり堪能したシルヴィア。
うれしいことに、この舞台はTV放送もされるとかで、実に楽しみです。
放送日がいつなのかはまだわかりませんけど、永久保存版だわ。

なにより新国立劇場バレエのすごさを、全国に知ってもらえる。
というか、新国ももっと全国ツアーとか、してもいいんじゃんないか?
地方の人にはこのバレエ団の存在すら知らない人もいるし。
日本が誇っていいクオリティを持つバレエ団ですから、もっと日本全体に知られていいはずだし、知ってもらわなければならないと思います。
そういう働きかけを、バレエ団は総力を挙げてすべきです。
こんな素晴らしい作品がレパートリーにもなったことだし。

新国、次の公演は12月のシンデレラです。
むぅ~、もう待ち遠しいよ。