arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ「ジゼル」ゲスト組:魂は静かに、昇華する

2月20日新国立劇場バレエ「ジゼル」、ゲスト組を見てまいりました。
ジゼルがチェコ人のダリア・クレメントヴァ、アルベルトがロシア人のワディム・ムンタギロフで、2人ともイングリッシュ・ナショナル・バレエで踊っています。
2人とも昨年、「コジョカル・ドリーム・プロジェクト」で来日し、素敵なガラを見せていただきましたが、全幕は初めてです。

このペア、派手さ、華やかさというより、しっかりした表現力で堅実に踊るというのでしょうか。
特にクレメントヴァは熟練の味わいで、ムンタギロフのほうは端正なイケメンさんで気品にあふれた王子。
何より2人のパートナリングが素晴らしく、それだけでもうため息が出ます。

ペザント・パ・ド・ドゥの米沢&福田組や、「こうくるかー!」って感じの古川ハンス、本当におっかない堀口ミルタ、なんかどうしても目が行くマイレン伯爵に渾身の演技のお母様等々、それぞれに素晴らしい、また初日とは違った味わいのある舞台でした。
本当にステキでしたよ。
特にクレメントヴァの2幕の、ヴィリとして登場したジゼルの最初の踊りなんてもう、白い魂がふわふわくるくると回ってるようで、未だにその残像が目に焼き付いてるってくらい感動的。

また1幕の狂乱のシーンなんて、静かに病んでいく様子が逆に痛々しくてジワジワくるっていうのでしょうか。
こういう静かな切ない狂乱は初めて見ただけに鮮烈です。
またジゼルは最後に一瞬正気に返ったものの、結果的に心臓の病が襲ってきて命を落としてしまう…という、余韻というのでしょうか。

2幕はとにかくもう、体重を感じさせない、ヴィリとなってしまったジゼル。
しかも終幕が近づくに連れて、ただでさえない表情が、どんどんなくなっていく。
それでもその体全体、その踊りの全てから、アルベルトへの思いがヒシヒシと伝わってきて、最期の別れの瞬間にありったけの想いがあふれだすんですね。
無表情なのに。
まるで1幕最期の余韻を思い出します。
ロウソクが消える前の一瞬の輝きというのか。
そして静かに消えていく、永遠の別れです…。
すごいわー。

初日の長田さんを見て、最後は観音様のようだ、と思ったのですが、さすが西洋人というのか、昇天して消えていくような解釈がやっぱり西洋的ってのか。
面白いなぁ、こういう違いも…。

またこの日のヴィリの女王・ミルタがベテランの堀口さんだったのですが、彼女はまた力強く怖い。
容赦ない。
融通の聞かない、NOといったらNOの女王様。
ヴィリ達を呼び出すシーンなんてもう、本当に地の底からオーラが沸き立つようで、隣の席のおじいちゃんが「すごいなぁ…」と思わずつぶやいてました(笑)

また古川さんのハンスもいい味というのか。
たくましい、熱く一本気で、でも純粋な森番ってのか。
踊り的にも息ぴったり!素晴らしいパートナー同士のお2人の間に割って入るのは大変だったろうと思いますが、それでも一本気丸出しで食って掛かるハンスが良いですね。
1幕最後の、ジゼルが死んだ時なんて、逆ギレして剣をかざすアルベルトに「俺も殺せ!さぁ、殺せ!」と腕を広げ胸を突き出す辺りなんてもう、彼なりにどれだけ真剣にジゼルが好きだったかというのがひしひしと伝わってきてもう、不覚にも泣きそうになりましたわ。
「ジゼルのいない世界に生きてたって意味ねぇよぉぉぉっ!」ってのか。
「いや、そこ泣くトコじゃないからw」って我ながら思うんですけど(苦笑)

そんなハンスですから、2幕のトボトボ感がまた哀れ。
でも「わけのわかんねぇ化け物に殺されてたまるかよっ」と必死で抵抗するわけですが、いかんせんもう堀口ミルタがパワフルに怖過ぎでww
あれは折れます、どうしたって。
命乞いしちゃいますよ。

そういう意味ではやっぱりムンタギロフのアルベルトは貴公子です。
毅然と、でも必死に自分の真実の想いを伝えようとするんですね。
彼はジゼルに殉ずる気持ち満々でした…。

というわけで、本当にいい舞台でした。
ただ欲をいえば、全員の演技力や小芝居がかけ合わさって感動的な舞台を生み出すのが新国バレエの味わいゆえ、ゲストさんと短い時間で合わせるというのは大変だったかもしれません。
細かい場面によっては「疎通足りない???」と感じられたところも正直ありましたが、まあそれは今後の課題でしょうか。

そういう意味ではゲストを呼ぶことも大事かと思います。
ザハロワ時代のような、固定外国人は今の新国には不要だと思いますが、今回のダリア&ワディムのように、超ビッグネームでなくても、きちんと新国に合う人は、いい刺激になるのかと。
新国自体が外に出る道はおろか、最近ようやく地方公演を始めたような感じですし、そういう状態だからこそ、たまにはゲストを呼んで外の空気をいれるのはやっぱり勉強になると思うのですが。
気心の知れた者同士の、一種「小さな殻」で収まって欲しくない、というのが一番の思いです。

というわけで、明日23日はいよいよ米沢&厚地組です。
楽しみ!