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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ「ドン・キホーテ」(2):主演の後ろの濃ゆい方々

6月23日、新国立劇場バレエ団「ドン・キホーテ」、小野&菅野組です。
初日の熱いカップルとは打って変わって基本形と言いますか、やはりどこかクールなキトリ&バジルです。
理性的に計算して役を作るような小野さんに、個性的な男性陣の中にあって「真面目」「堅実」が個性の菅野君。
生真面目カップルとでもいいましょうか。

この真面目さ、堅実さは、演目によってはすごくツボにハマると思うのですが、「ドンキ」ではいささかおとなし過ぎただろうか。
小野さんはインタビュー等々を見たり読んだりする限りでは、かなり弾ける素質は十分にあるキャラだと思うのですが、今ひとつ理性の殻を破りきれないというのか。

それでも小野キトリはコケティッシュな魅力も持ち合わせたクールで艶っぽいキトリだったし、菅野バジルも菅野君にしてはよく弾けた、優しさを併せ持つやんちゃな爽やかバジルでした(カップルと言うよりは幼馴染の仲良しさんとか、兄妹に見えなくもなかったが)。
いつもなら及第点だと思うんです…が!

その2人の主演カップルが極めて普通に見えるほどに、はっきり言ってこの日は後ろの面々が濃すぎました!(笑)
いや、そういう意味ではいままでに見たことないドンキであるし、今となってはこの後ろの濃ゆい方々がいたからこそ、「普通のドンキの公演」にならなかったのだと思います。
初めて「ドン・キホーテ」を見た人のなかには( ゚д゚)ポカーンって人もいたかもですが…。

とにかく、その濃ゆい面々の筆頭は、何と言っても客席破壊力抜群の福岡エスパーダ。

バジルを踊った福岡君ゆえ、エスパーダは全然違うキャラにしたかったのでしょうが、それにしても付け髭にモミアゲも追加し、髪型もリーゼントってーwww
しかも2幕じゃバラの花咥えるってーwww
白い衣装に、やっぱりまだまだ絞れる腹回りはエルビス崩れというか街金オヤジというか、でも濃ゆいラテン・アモーレとかべサメムーチョとか、とにかく公演後に巷を賑わせたあらゆる評価の全てをひっくるめた、ベッタベタな濃厚さ大炸裂ww

街のイケメン、娘達のあこがれの闘牛士エスパーダ様を、まさかこう作ってくるとは!
今まで見たことないよ、こんなエスパーダ。
誰も止めなかったのか……というより、これでGOを出した新国スタッフの度量の広さを褒めるべきなのか。

いや、これを福岡君自身が考えて作ったのならむしろ止めてはいけない。
自ら考え何かをつかもうとする若者の成長の芽を摘んではならぬのだ、ベッタベタだろうか、狙った挙句滑ろうが…とか、なんだか気分は子供の成長を見守るお母さんというか。

まあ確かにスペインの闘技場にはこういう濃ゆいマタドールはいるよ。
それにしてもこれはバレエだが……いや、バレエは陳列ガラスケースに飾ってある絵画や壷とは違う、生きた芸術だ。
どこかでガラスケースを破ることも芸術だ、そうだ爆発だ!!雄大は爆発だ!!客席も爆発だーっ!
……ってな感じで、相当に唖然とさせられ、同時に笑いが止まらなくなりました。
今でも止まりません。

それに加えて、何もしなくても濃ゆいマイレン父ちゃんが、この日はまた濃くて熱い、娘大好きパパ。
カスタネットのヴァリエーションで、闘牛士達に負けじとテーブルクロスを振っちゃったり、かと思えばバジルに騙されてがっくりと座り込む顔の怒り・諦め・呆れ・でもまあいいか、が混ざった表情が絶妙です。
濃くて上手い。

さらに何考えているんだかわからない、不思議な内股の輪島ガマーシュ。
恍惚の人」とでもいうような、でも飄々とした、しかし重量級の鎧を身に付け重力感までどこかにいってしまったような古川キホーテは、高貴な山本キホーテとはまた別の意味で、完全に別次元に生きている爺さん。
そんな爺さんに無邪気についてく、素顔は淡白なのに小芝居の濃さはすでに中芝居か、という八幡サンチョが加わるわけです。

もうカオス。
新国のドンキって一体どこに行くの、この子たちどこに行くの、どこまで突き抜けてくの…!?

そんな超ドタバタの1幕と2幕始めなもんですから、森のシーンがホッとすることったら。
恍惚の老人の夢ですから、ただただ、美しい。
小野さんは彼女の魅力炸裂の、透明な美しさ。
キューピッドの五月女さんがまたふわふわで、軽くて愛らしい。
眼力の本島女王は流石の貫禄か。

とにかくそんな濃ゆいドタバタを経たこの舞台前半のインパクトが強烈すぎて、主演の小野&菅野さんたちがどんどん普通に見えてしまうのです。
小芝居も大事だが、主役を薄めてしまっては舞台が成立したといえるのか。
果たしていいのかこれで………と、思えども!

なーんか大人しくて優等生っぽくて、こぢんまりまとまって殻を破りきれずにいるのもまた新国バレエの側面の一つ。
あの濃ゆい方々がいなかったら、小野&菅野さんたちが卒なく踊った「普通のドンキ」であったろう。

だから思うのであります。
後ろで存分にやればいいと。

で、ヴァリエーションでも主演でも、そういう濃ゆい連中に観客が目を奪われないほどに、「俺/私を見ろ!」という自己主張を身につければいいのだ。
何も一緒になって濃くならずとも、観客の目を惹きつけんばかりの美しさやエレガントさでもよいし、かわいらしさでもいいのだ。
ジュアニッタもピッキリアも「あんなオヤジ達じゃなくて私たちを見て見て!」とばかりに、猛烈にお客さんにアピールすればよいのである。
そういう意味では、この日はやはりステージと客席の間に薄皮が一枚あったようにも思います。

ともかく、こうやって試行錯誤を繰り返していくうちに、新国スタイルってのがまた磨かれて行くに違いないよ(と勝手に言う)。
そのうち新国バージョンのドンキを、新国のダンサーさんの誰か将来改定して作ったっていいんだ、せっかくコリオグラファーのグループもあることだし。
いいじゃないか、舞台の登場人物が存分にはじけまくる、そして最後まで賑々しい新国版ドンキだ。
もちろんドンキでなくたっていいのですけどね、新国ダンサーによる改訂全幕なんて、実現したら素晴らしいよ。

というわけで、次はいよいよ川村&厚地組。
厚地君の(とりあえず)サヨナラ主演ですが、後ろの方々がこの日の面子と同じ、破壊力抜群の福岡エスパーダ様御一行である。
さらに町の踊り子になりきり度抜群の米沢さんも加わるぞ!

でもダイナミック・ビューティーの川村さんにこれまた情感爆発度の高い長身王子の厚地君である。
濃ゆい御一行に喰われることはまずないと思うが、逆になんかこれはこれでスゴイ舞台になりそうな予感!
とにかく、厚地君は思いっきり拍手して、送り出してあげようと思います(T_T)