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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「ファスター/カルミナブラーナ」:この出会いがあればこそ

残務処理今更時差ぼけです。

新国ファスター/カルミナ・ブラーナのダブルビル。
4月19日、25日、26日と鑑賞しました。
25日はカルミナのキャストが一部違い、サードキャストまであったことになります。

このカルミナ・ブラーナ、ビントレー監督との出会い、新国とビントレーさんとの歴史の一歩であり、結果的に新国が大成長を遂げるきっかけとなった大事な大事な作品です。

前監督は「白鳥」とか「くるみ」とか、廃棄に困るエネルギー滓のようなとんでもない負の遺産を残してくれちゃってますが、このビントレーさんの「カルミナ・ブラーナ」を取り上げようとし、そして取り上げた、という点に関してだけは、素直に評価したいと思います、ホントに。

カルミナ・ブラーナ:Sの女王のMの世界

60人の合唱&ソロがオケピに入る、新国ならではの音楽スケールです。
とにかく合唱だからこその「肉声」の生々しさというのでしょうか。
テーマが愛とか欲とか、とにかく裏側(内面)の世界ですからその効果ときたらすごい。

その肉声とオーケストラの荘厳な音楽とともに登場するピンヒールの運命の女神フォルトゥナ。
踏まれたら痛いどころか刺さるだろう、というピンヒールです。
そのピンヒールの女神が支配する世界で翻弄され、墜ちていく3人の神学生の世界は実にM的です。
世界はSの女王が支配するMの世界かというほどに。

とにかくファーストキャストの湯川さん3回目のフォルトゥナは貫禄。
もはや湯川さん=フォルトゥナという、当たり役です。
世界を操る女神。
長い手足が「運命の輪」を描き、地上の人々を翻弄する。
すべては彼女の手のなかにある。
町のチンピラもスラム街の孕み女も無邪気な娘たちも娼婦も食欲も性欲もなにもかも。

女神に惚れ、墜ち、破滅していく神学生3のタイロンさんは久々のゲストでした。
それでいて、すっかり新国にとけ込んでいるかのような一体感はタイロンさんの人柄故でしょうか。
褐色の肌に白パンツもまぶしいタイロンさん、おそるおそる脱ぎ、墜ちていく様が、なんというか好感度大。
最初の初心なおどおどした様子があるからこそ、翻弄されっぷりが激しい。
クライマックスで裸ボーイズ&裸ガールズが一斉に登場する乱痴気騒ぎのあたりはもう、洗濯機の超強水流でなぶられるシャツのようです。
やっと彼女を手にしたと思ったら裏切られるという駄目押しのような堕ちっぷりといい、やはり本家で踊っている方ならではですし、湯川さんも何度もいいますが、貫禄です、やはり。

これがセカンドキャストになるとフォルトゥナが初役の米沢さんに神学生3が福岡君。
米沢さんがまあ無敵のお嬢様炸裂といいますか、大人湯川に対してガール米沢的なファム・ファタルというのか。
赤ドレスになったときのいたずらっぽい視線は、これはこういうのが好きな男性方にはたまらんでしょうなぁ(笑)
ドギマギしますね。
電撃のようですね。
実にオヤジ殺しです、米沢唯という子は(笑)

対する福岡君、景気よく脱ぎます。
タイロンさんのおどおどに対して、ビビりつつも若者らしい好奇心がそれを凌駕しているかのよう。
女神にアタックし、次第に雄を炸裂させていくこの図々しさ(笑)
掛け合い、殴り合いが激しい激しい。
ひょっとしたら今まで見た米沢・福岡ペアの中では一番波長が合っていたようにも思えます。

だからこそ最後の転落シーンは白いパンイチがかえって哀れだし、勝ち誇った…というよりは最初から勝負なんてしていなかったわよ、といわんばかりの米沢お嬢様の視線がコワイコワイ(笑)
お姉さまもコワイが女の子もコワイですよ、ほんとに。

神学生1はファーストから順に、菅野、奥村、小口君。
堅実な神学生が初めて見る裏の世界に出会い興味津々。
孕み女(麗子像の群)と出会い、チンピラの群と遊びながら娘と恋をし裏切られるという流れ。
でもさわやか青春ストーリーの裏側みたいで、この神学生1のパートは結構好きです。

この役は菅野さんのキャラに合っていますね。
彼も最初に踊った頃に比べるとだいぶリーマン度が上がっていますが、さいとうさんとのカップルがやはりかわいい。
セカンドの奥村君と小野さん、サードの小口君と五月女さんのカップルもそれぞれ味わいがあってよかったですが、小野さんは無邪気な計算高さの感じられる娘でした。
奥村君がそれにしてはあまり懲りてない感じがしましたが…。
また小口君の神学生1が爽やかで、世間知らずの好奇心旺盛な青年っぽくて、彼女に裏切られる時の「えええ??」という表情が妙にリアルで個人的にはツボでした。

この神学1、孕み女のところで神学生の黒服を脱ぎ、白シャツに着替えるんですが、この着替えの間で雰囲気が全然違う。
じっくり観察して着替える菅野さん、さっさと着替えちゃう奥村君、ちょうどその間くらいだけどやっぱりゆっくりな小口君。
こういうところはさすが菅野さんといいましょうか。

この神学生1の場面から出てくるチンピラ軍団も日程が進むに連れてどんどん尻上がりにパワーアップしていくのですよね。
というかテラテラのスーツとか、いつの時代だ的ヤンキーの衣装がみなさん似合いすぎるんですけど(笑)
テラテラ緑のスーツのマイレン親分なんか、紳士役の時はすごくかっこいいのに、カルミナではどうしてここまでどっから見てもチンピラになるのか、本当にこの人はすごすぎます。

神学生2はソロ部分がハードで長く、テーマは食欲・肉欲。
喰われるローストスワンが長田さん、本島さん。
神学生2は八幡、福田、古川さん。
八幡君は本当に滞空時間が長い。
空中静止してるんじゃないかと思うほどです。
体は小さくても欲…というより渇望のような喘ぎが炸裂しそうな熱の入った踊りがすごい。
福田君はキレと鋭さです。
古川さんは身体も大きいだけに先の2人とはタイプの違う神学生2。
解釈の違いなのか、「欲」の上にさらに「暴」が付くようで、エロ欲も一番強かったかも。

クライマックスは男も女もすべてが黒ワンピースにピンヒールという、フォルトゥナのクローン。
クローンというよりはフォルトゥナの手下かとも思う。
世界はフォルトゥナで満ちている…。
ピンヒールの女神に踏みしだかれ、世界は彼女の回す気まぐれな輪のように回る、まわる…。

とにかくパンイチで文字通り体張って踊るタイロンさん、雄大君共々、みなさんどの日程も体当たりの踊りが迫力でした。
鬼気迫るものを感じましたね。

この作品はやはり新国の宝物の一つだと思います。
これきりにしないで、ぜひまた上演してほしいと切に、願いますね。

●ファスター:東京の時にもやるといい

ロンドンオリンピックを機に作られた、スポーツをテーマにした作品。
東京の時に東京オリンピックバージョンを作って上演してほしいわ(笑)
てかダンサーがスニーカー履いて最後は疾走するんだから、本当にお疲れ様です。

とにかく細かいことは考えず、笑いどころ突っ込みどころで楽しむ作品だというのは最初に見たときにわかった。
楽しかったですよ。

フェンシング組、シンクロ組、バスケ組、八幡君、福田君たちがやっていた「投げる」はアーチェリーも含めた投擲でしょうかね。
「跳ぶ」という瞬間の空中跳躍を男性リフトのスローモーションで表現するところがさすがといいますか。
しかも男性が腕だけで倒立する女性を支えるとか、地味に結構大変なことしています。
体操姿の輪島さんの筋肉にまた目が行きます。
ヤヴァイです(//∇//)

細かいこと考えずに…といいつつ、アスリートの苦悩を表す中間部分で踊るのが「闘う」のペア。
ファーストキャストは小野&福岡組、セカンドが奥田&タイロンさん。
特に奥田さんはパゴダの主演は発表されていたものの、急遽のキャスト変更で実質上これが真ん中デビューです。
しかもゲストのタイロンさん相手にという、かなり大変なところもあったんじゃないかと思いますが、すごく健闘したと思います。

特にソロの部分なんかは思いがとても素直。
アスリート(ダンサーもアスリートといえるかも)の孤独な戦い、思うところを目指して戦う苦悩なんかがストレートに表現されていて、それがとても真摯な分とても好感が持てました。
彼女が彼女なりに解釈し、考えて踊っているというのがわかるし、この短い期間によくぞタイロンさんと合わせてきたのだから、相当に練習したのでしょうね。
これはパゴダのさくら姫も楽しみだなぁ。

タイロンさんもカルミナのときにパンイチ姿を見ているはずなのに、ファスターではえらい筋肉ムキムキのアスリートに見えるのは不思議。
筋肉も演技するのか。
八幡君とタイロンさんがジャンプしながら交差する瞬間は絵のように美しかった。
なんかあの瞬間だけ切り取られたように今でも文字通り脳裏に焼き付いちゃっています。

話題を呼んでいたのが謎の競歩選手(笑)
確か初日に見たときはキャップを被っていたと…?と思ったのですが、そのあとハチマキだったり、バンダナだったりだったので、ダンサーは複数いるのかと思いきや、なんと小笠原君のシングルキャストだったという。
ヤラレター!

プログラムに名前を載せてくれればいいのに、と思いつつ、新国のように半端なキャスト表じゃ逆に競歩選手に目が行っちゃいますから仕方なかったとはいえ。
いっそのこと全役の名前を出せばいいんですよね。
牧なんて三銃士の時は馬の足に至るまでキャスト表に名前載っけていたし。
新国もこういうところは見習うべきだと思います。

というわけで。
いよいよ12日からビントレー監督での最後の作品で、そして今シーズンの終わりです。
気合入れて見に行く。
というか、見届けます。