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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場「ラ・バヤデール」(2):げに奥深き人の業

新国立劇場「ラ・バヤデール」21日、22日分です。

●「女」の戦いと「リーマン残酷物語」

長田ニキヤ、菅野ソロル、本島ガムザッディというベテランキャストに、輪島大僧正、ラジャがマイレンとこちらもベテラン。
じわじわ来る大人の熱演と申しましょうか。

長田さんのキャラはニキヤに合うだろうなと思いましたがやはり合いますね。
菅野さんは「上司と恋人との板挟み」的シチュエーションが妙にリアルです。
なんというか、予想通りの(笑)リーマン戦士。
24時間戦えますか?

また輪島大僧正が、エロ全開のマイレン大僧正とは打って変わって、聖職者なのに道を踏み外してしまった感ばっちりの生真面目僧正。
仰業なアクションこそないものの、毛穴からにじみ出てくる演技が実に味わい深い。
なにより輪島さんの美しい筋肉が、坊さんの緋衣の下からチラ見えする辺りがまあ何ともエロくてドキドキしますね、これはこれで。
なんて罪作りな坊さんなんだw

そして本島ガムザッディはやはり美しい。
貫禄の美しさに大人の余裕というのでしょうか。
私にひざまづかない者がいないはずないでしょうとばかりに、動き一つひとつに余裕と品があるのに、鬼気迫るものも同時に感じます。
大人の女…ベテランの意地。
貫禄女優です、やはり。
もうソロルはひれ伏すしかない。

マイレンのラジャといえばもう本気の王様で、鼻息でフンととばすようにニキヤのヴェールを「俺を誰だと思っている」と投げ捨てる辺りなど、下賤の者のことなど知らぬわ的で、やはりこれもへへぇ~~っとひれ伏すしかない。

すごい父娘です。
そしてその父娘に全力で体当たりしていくような長田ニキヤがすごい。
想像以上に激しくてびっくりですが、これくらい激しくないと対抗できないでしょう。

こういうこれまた貫禄十分に濃ゆい方々相手に、初役リーマンソロルはただただ翻弄されます。
洗濯機のワイシャツどころじゃありません。
本来洗濯機にかけてはいけない携帯用の紙シャツでした。
溶けてしまいます。
ただただ、幻影の中にのめりこみ、贖罪の思いとともに幻影のニキヤのもとへと走ります。

4幕のクライマックスにソロルがニキヤを追いながら幕が降りたのは、菅野さんが初演ゆえタイミングがあわなかったのか、それともニキヤに殉じたかったのか(まあきっと前者でしょう)。
いずれにしてもじわじわくるバヤデールでありました。

この日は黄金仏の福田君が力強くてキレキレでした。
壺娘の細田さんも実に表情豊かで暖かなおねえさんでした。
細田さん、本当にいいわー。


●女にはそれぞれ2面ある

22日、米沢ニキヤと長田ガムザ、そして雄大ソロル
米沢&長田は今度はそれぞれに役を変えての挑戦です。

雄大君は3人の中では一番戦士らしいソロル
八幡マグダヴェヤにニキヤ呼び出しを告げる前の演技がこまかい。
見られてないかな、誰もいないかな、とあちこち覗き込んで念を入れるあたりがいかにも「密会」といういや~んな、そう、2人とも実はホントはイケナイのよねぇ、という状況がよく伝わってきます。

そして米沢&福岡はこの日もちゃんとカップルに見える。
思えばこの2人が初めてカップルに見えたのは先のDTFでしたが、そこに何か契機があったのだとすれば、宝満師匠様々ではなかろうか(笑)

唯ちゃんのニキヤはピンと筋の通った、でも恋する娘でもあるニキヤです。
ガムザが地かな、と思いましたがこの筋の通り方もやっぱり彼女ですね。

対する長田ガムザはやはり大人…というかお嬢様としての落ち着きと余裕があります。
腕輪を渡そうするところ、最後に首飾りを突き出すところといい、動きがゆっくりだからこそ滲む本気と品というのでしょうか。
米沢、本島とも違った味わいで、むしろニキヤよりこちらの方が印象に残ります、長田さん。
そして少し身体を斜めにした「コ・ロ・ス」ポーズが、これはこれで実に美しく怖い。

そして彼女のガムザは「キレイ」です。
つまり、この後2幕で続く蛇のことも、お父ちゃんの企みも知らないガムザですね。
悪いのは全部パパで、そしてそれを受けて立ったかのようなマイレンパパの悪党っぷりといいますか、ふてぶてしさがまたすごい。
21日の共犯的パパとはまた違う。
マイレンはこういう相手の空気を読んで役を作りだす反射神経が本当にすごいんだなぁ。

米沢ニキヤはまた生身の人間と言いますか。
恋する娘で、しかし本質的には筋が通った娘さんゆえ、大僧正の申し出もきっぱり拒否。
でもソロルは好き、という矛盾、あらがえない思いでしょうか。
恋する娘の業。

ですから身分の高いガムザ姫に対して、最初はお行儀良くしているものの、この諍いはどんどん激しくなりど突き飛ばしあい、最後は思わず刃物。
そのときの自分の手を見つめるその間が役者。
自分にこんな恐ろしい心があったのか、これほどまでにソロルが好きか、という思いがズンと伝わります。

そして2幕の反狂乱の駆け込み、目を合わせてくれないソロルへの絶望でその場を去ろうとしたら花籠。
にわかに信じられない、という表情は至極当然だ。
そうだろう、もう何を信じていいのかわからないでしょう。

だからこそ、花籠の踊りは唯一の自分の心の真実、ソロルへの想いがひしひしと溢れる。
切ないです。
泣けます。

その雄大ソロルですが、プログラムでは「ソロルは結婚式の時点で後悔している」とあったのですが、これは単に私がそう見えただけなのでしょうが、なんだか現実を受け入れ結婚する気があったように見えました。

諦念というのでしょうか。
男が本能的に持つ出世欲?

ラジャに対する無意識の無条件降伏っていうんでしょうか。
ある意味ガムザが美しい、というよりむしろ将来の隊長の座、元帥の座といった出世欲的男の業(そんなものあるのかわかりませんが)のようなものが感じられました。
それこそ、すまん、ニキヤ、出世したら迎えに来る、くらい考えていたかもしれません。
雄大ソロルは戦国武将的に妻と側室とか使い分けそうです。
でも、さすがにニキヤの「死」のインパクトはでかかった。

自分の甘さ、愚かさに気づいた3幕以降は急降下、後悔しかないわけですね。
3幕の影の王国、なんだかこれまで見たのとは違う、男…というかオスのロマンというのか身勝手さというのか。
考えてみればこの新国のバヤデールの3幕はニキヤ亡き後はもうソロルの思い、ソロルの幻影、ソロルからみたニキヤで話を進めても全然いいわけですから、完全に「ソロルによって作り出された」の夢の世界でいいわけです。
ニキヤが優しく、許してくれている、と思いこんでもいいわけです。
そして唯ちゃんのニキヤは目は合っていないのに笑ってるみたい。

2人でどういう話し合いをしてこの3幕をつくってきたのかわかりませんが、話し合ったって舞台は生物(ナマモノ)。
役として生きていくうちに当初と違ったものになっても不思議はないのかな、とも思います。
というか、先の花籠にしても、ソロルのこうした解釈にしても、指導陣がもし自由にやらせているのだとしたら、それはそれですごいことです。
自由にやらせる、のと放置するのとはまた別でしょうし、果たしてこの場合はどっちだろうとも思いますけど(笑)

ともかく。
もう終幕なんて、ヴェールを持つのが「ニキヤの影」だろうがニキヤだろうがソロルにとってはどちらでもよくて、彼的には「ニキヤが赦してくれた」という(ある種勝手な)思い込みだけでもう十分なわけです。
果たしてこういう意図があったのかもわかりませんが、身勝手でヘタレだけどオスを通したソロルは面白かった。
実に業の深いドラマです。

多分これ、ニキヤが絢子姫だったら、普通の、プログラムのコメント通りソロルでありバヤデールだったのでは、と思います。
最初から最後までニキヤのことが好きでしかない、よくあるソロルに終わっただろうと。
絢子・雄大はバラしたほうが面白いですね、絶対。

あとやはり、輪島大僧正が非常に味わいがありました。
2日目はキャラがより明確、というのでしょうか。
基本表情を変えないポーカーフェイスではあるのですが、ニキヤのヴェールを取ってじっと佇むところなどもう「ドキドキがとまらない…落ち着け自分(滝汗)」といった焦燥感や「いけない、私は聖職者…」というオーラが立ち込めています(笑)
1幕のニキヤとソロルの密会での「大僧正は見た!」シーンでは(誰も見ていないからこそ)欲情丸出しで「うぁぁぁ~!!」と悶絶するから「コ・ロ・ス」のポーズも迫力満点。
1人で聖道俗道を右往左往しているような初々しさすらあり、聖職者とはい人間味もあって、赴任してきたばかりの新米大僧正かいな、と変に妄想したりで実に楽しかったですね(笑)


またマグダヴェヤの八幡君は黄金仏よりこっちの方が生き生きしている。
彼は演技したいのかな?
また八幡君が入ると修行僧の一団がすごく締まる。
「アキミツに続けー!!」とばかりの団結力。
八幡君は愛されキャラだなぁ。

またこの日の仏像は奥村君ですが、スリムでタイ辺りの仏様です。
奥村君は王子から仏像まで、役幅が広いなぁ。

それから(1)で言い忘れましたが、2幕のGPDDの時の男子、江本さんが素敵でした。
彼の踊りは途切れなくよどみなく流れるようで、歌みたい。

ともかくたっぷりと楽しんだバヤデールでした。
こんなに面白くてすごいんだから、広報にもっと頑張っていただきたいとホントに思います。