arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「トリプルビル」(2):いつまでも浸っていたい3つの世界

新国立劇場バレエ団「トリプルビル」の続きです(1回目はこちら)。
3月19日と22日千秋楽はセカンド、サードキャストの方々ですが、どれを見てもそれぞれに味わいがあります。
特に千秋楽の3作品は1つ終わるたびに、いつまでも見ていたいのにもう終わっちゃう、トリプルビルが終わっちゃう~・゚・(つД`)・゚・ という寂しささえ感じてしまいました。

いつまでもこの世界に浸っていたい。

そう感じさせてくれる踊りを見せてくれた新国のみなさんには本当に感謝です。

●愛と哀の、テーマとヴァリエーション

19日は長田&奥村組、22日は米沢&菅野組。
女性がどちらも素晴らしかったのに対し、男性がどちらもいまいち調子悪い?
それでも千秋楽の米沢&菅野組は、千秋楽とあってかコールドの方々ももうハンパなく全力投球の素晴らしさで、この日は女性コールドからして感涙ものの出来です。

また千秋楽は指揮者バクランさんの顔がよく見えた席だったのですが、舞台とコンタクトをとりながらの、なんだかダンサーさんたちに対する愛情のあふれた視線がとても印象的。
いまいち調子の良くない感じの菅野さん(ゲネプロを見たバレ友さんによると、足をさすっていたとか…?)を気遣っているような感じにさえ見えましたし、聞こえました。

でも舞台は本当に素晴らしく男性が登場してくるあたりからテンションマックス。
新国の男の子たちは粒ぞろいでなにより品があるので見栄えがする。
煌めいているじゃないか、音楽に乗って…(*´꒳`*)

曲がいよいよ盛り上がり、華やかになるにつれ終わりが迫っていることをひしひしと感じ、チャイコフスキーってそうだ、きらめきや華やかさの中に「夢、宴はいつか終わるもの。永遠ではないのだ」という哀を潜める人で、だから身のよじれるようなロマンなんだよなぁ…と改めて思い出したり。

フィナーレ間近、男性主演1+4に続き女性1+4が登場して客席に迫ってくるようなクライマックスは鳥肌ものの迫力すら覚えて、感涙止まりませんでした。
間違いなく、新国のバランシンは絶品です。

●「いきもの」の遊ぶ不思議世界、ドゥエンデ

セカンドキャストのドゥエンデ。
本島&丸尾というコンテならこのお姉様よね、というベテランに男性は小口君。
これがまた、ファーストキャストとは違った味わいと世界を描き出してくれる。
落ち着いた輪島さんに対し、エネルギーに溢れる小口君。
力強く美しいお姉さまたちに見守られながらいのちを発する、見守られて育ち、でもしっかりと大地で支える「いきもの」です。
(殊に19日はドゥエンデ、トロイ・ゲームと大活躍で、個人的には小口祭りでした(笑))

また(個人的に)ドビュッシーの音楽ってすごく色彩的、絵画的で、特にオケは曲とともにいろいろな色彩が溢れてきて聞き入ってしまうのですが(だから仕事BGMにはならない)、そうしたドビュッシーの色彩感にダンサーさん個々の個性を交えたダンスが加わることで、世界の奥行きがぐっと深まってきます。

それは「ある深くてくらーい森のなかに、ふしぎないきものがすんでいました」という絵本のようにも思えます。

「ある人はそのいきものを妖精とよびます。
精霊とか、いたずら悪魔とか、こびとともいう人もいますし、それは野ウサギかゆれる木の葉を見間違えたんだろう、とわらう人もいます。」


2つなのか1つなのか、五月女さんと八幡君の踊りはまさに個でありシンクロしてもいるかのような踊り。
福田、福岡、池田の男性3人は目にも止まらぬ早さと若い力強さもを感じさせてくれます。
踊り巧者の福田・福岡となんら遜色のない池田君が見事すぎ、また3者の一体感が小気味いいほどです。

暗くて深い森はグリーンとブルーのコントラストが次第に透明感を持って輝きはじめ、最後はまるで深い沼の、でも水鏡のようでもあります。
女性陣が軽やかに跳んでいったあとにはいくつもの丸い水紋が見えるよう。
ハープの音色がまた幻想的で、しんと静まり返ったなかにいつまでも、見えないのに気配を感じるような余韻がまた味わい深いこと…!

もう一度見たい。
でも同じものは二度とない…。
……舞台の醍醐味です。

●いろいろ気づくトロイ・ゲーム

そして3つ目は若手組によるトロイ・ゲームです。
19日はファーストキャストがベテランの技や音楽性、個を全面に押し出す見事な演技性で、初日よりさらにパワーアップした力量を存分に見せてくれました。
対する22日の若手組は、15日の巷の評価がさまざまで心配していましたが、課題を修正して頑張ってきたように思います。
「踊る」だけでなく、音楽を身体に取り込んで、さらにキャラクターを出さないとならないこの演目は、真ん中はもとより、サブキャラ経験も少ない若手陣にとってはすさまじくハードで、またハードルの高いものだったのでは。

でも、彼らなりによく頑張った!

特に高橋君、林田君、小柴君、八木君とカテコでは清水君も。
高橋君はファーストキャストの八幡君とは違う、一樹なりの色を一生懸命出そうとしていたように思え、がんばれー!とエールを送りたくなりました。
「し――っ(*^b^)!!」の小柴君、「止まらない~!」の八木君も何かを掴もうとしていたのではないかしら。
カテコは「もうやめとけ…(;´∀`)」と思わず言いたくなるくらいの大サービス(笑)
八木・清水は体力無尽蔵ですか(笑)
でも彼らはここでアピールして名前覚えてもらわなきゃいけない!
何度も出てきてくれてありがとう!

●トリプルビルって大事

またこのトロイ・ゲームで強く思ったのは、舞台経験は大事だ、ということ(当たり前ですが)。
こういうトロイ・ゲームのような演目があったからこそ、普段後ろで踊っている子たちもいろいろ考え、キャラを出す、という命題に挑戦し、(見てはいないけどおそらく)15日よりいいものを作り上げてきたのでしょう。
これは私が言うまでもなく、ダンサーがステップアップするうえでも、とても大事なことです。

ベテラン組、若手組の実力の差というのは痛感せずにはいられませんでしたが、さらに若手組のなかでも新加入の子たちと、何度もコンテを踊る機会のあった先輩との差がこんなにも大きいとは!と思い知ったり。
新加入組は私が見ても、スタミナも足りず、やっぱり身体がまだ全然堅くて、プロダンサーのそれになり切っていないような。
然るべき人が見たらその差は歴然でしょう。
これはもう個々の精進も必要ですし、やはり古典もコンテも含め、いろいろ幅広い演目を踊ることも大事なわけです。

ダンサーさんの寿命は短いです。
50になっても踊っているすごい人を最近見ましたが、それはかなり希有な例で、40歳過ぎて踊れればいい方。
また全幕規模の踊りを作り上げようと思ったらカンパニーは大事ですし、できるだけいい環境で、できるだけ大勢のお客様の前で、身体が動くうちにいろいろな演目を踊りたいでしょうし、踊らせてあげたい。

そういう意味も含め、トリプル・ビルのようなプログラムはとても大事ですし、我々観客にとっても若いダンサーさんたちを知るという絶好の機会でもあります。

昨今、海外カンパニーの公演だってよほどのビッグネームでない限り満席があまりお目にかからなくなっているなかで、こういうマニアックな演目を満席にするのは大変でしょう。
ハンガリーハンガリー国立バレエ団のトロイ・ゲームを見たときの抱き合わせがラ・シルフィードだったのですが、「古典とコンテを組み合わせることで、コンテをあまり見たことのないお客様にも見てもらえる」という広報の方の言葉を思い出します。
コンテを売るのに大変なのは日本だけじゃないのでしょうね。

でも、やっぱりバレエ団のレベルアップのためにも続けなければならないし、満席になり切らないのは折り込み済みと覚悟してでも(でも席を売らなくていいというわけではありません、念のため)、その分他の公演で取り戻すなど、いろいろ考えるところはまだまだたくさんあるなと思いました。

何よりやはり、今回のトリプルビは全日程通して、普段後ろで踊ってる男の子たちがニコニコと楽しそうに踊っていたのが一番印象的です。
だからお客も楽しくて、シアワセなのです。