arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

清里フィールドバレエ:2年越しの幻想舞台と「唯一無二」の価値

ゲストの出演者。豪華です

7月30日、清里フィールドバレエ初日に行ってきました。 今年は26回目。 実は昨年新国立劇場の江本拓さんが王子をやるということで出かけていったのですが、雨天による唯一の公演中止日となってしまい、今年リベンジの舞台でした。

●「清里唯一無二」の価値

このフィールドバレエ、自然の本物の森の野外ステージで行われるフィールドバレエがこれだけ長い間続いてきているというのは、ひとえに地元関係者の努力の賜です。 実行委員長の船木上次さんにお話を伺う機会が今回得られたのですが、お話によると初回第1回目は全日程で観客350人だったとか。 それが今や国内外含め約1万人が訪れ、またシャンブルウエストの方々をはじめ、新国立劇場バレエ団のプリンシパルという大物ゲストもこぞって参加する夏の風物詩へと成長したわけです。 これは実にすごいことです。

もちろんお天気に左右される、というリスクはあります。 泊まったペンションのお母さんも「この(バレエの)時期になるとお天気ばっかり気になっちゃうのよね」というとおり、準備に準備を重ねても、最後に上演を決めるのはお天気です。 でも「東京と同じことをやっても意味はない」という船木さんのお話の通り、これに雨天用のテントなど付けたら舞台は死ぬわけです。 このフィールドバレエは舞台を殺して都会人の利便性に合わせ観客をがっしがっしと呼ぶ…というイベントではありません。 「地元の子どもたちの心の財産のため」「地元の人たちが文化に触れる機会」という、地元のためのイベントが大前提にありますから、首都圏から行く人間は、この「天の思し召し」を受け入れまた次の年にリベンジするのが、このフィールドバレエの参加の仕方ではないかと、改めて思います。

そして実際に雨で涙をのんだお客に対するリカバリーは実にお見事でした。 公式発表前にチラシが届き、オルゴール博物館音楽コンサートの無料招待券とカフェの無料チケットも同封され、電話での対応も非常に丁寧で、座席の見え方など細かく説明してくれました。

清里唯一無二」という価値は、これは清里の人たちのものでもあり、だからこそ我々外部の人間は素晴らしい舞台が楽しめるのです。

●「自然」の中でこその演出効果

3時頃からリハーサルが見られます。自由に入れます

前置きが長くなりましたが、このフィールドバレエ、「地元のため」とはいえ、実にクオリティの高い舞台です。 田舎のイベント公演なんて思ったら大間違い。 …というか、クオリティが高くなったのでしょう、四半世紀をかけて。

今回の演目は「白鳥の湖」。 上演回数のもっとも多い舞台故に今井&川口夫妻が緻密に練り上げ、隅々まで目が行き届いた舞台です。

音楽は録音、開演、休憩後の開演前にはあらすじのアナウンスは入ります。 しかしストーリー的には休憩含め約2時間と短縮されていますが、非常によくできた抜粋版で、1幕はワルツ、乾杯の踊りはなく、パドトロワが終わると2幕へ。 しかし2幕はがっつりと、カットなしに全て見せます。 休憩を挟み3幕は宴の始まりとともにリアルに打ち上げ花火が上がり、ディベルティスマンはスペインとチャルダーシュのみ。 そして4幕へと続きます。

とにかく抜粋ではありますが、ストーリーに破綻がありません。 王子とオデットの和解のパドドゥから一時は2人の愛の力で一時はロットバルトが弱まるかと思えどやはり太刀打ちできず、オデットは湖に身投げ。 王子もそれを追って身投げ。 悲劇エンドですが自然の森の背景と照明効果が実に美しく、夜空に吸い込まれて昇華していく永遠の愛です。

またステージの背景は森。 ステージ自体はそれほど広いわけではありませんが、左右舞台袖と背面の奥行きが深いので舞台中央奥から左右に至るまでもがダンサーの出入り口として十分な奥行きを持った演出に使えるわけです。 素晴らしい奥行き空間です。 また私が見た日は休憩を挟んだ3幕から雲が切れ、満月が煌々と浮かんでいるんですね。 これは実に見事です。

こうした自然演出は室内の舞台ではまずできません。 やはり唯一無二の清里スペシャルとしかいいようがない。

またダンサーさんたちもお見事でした。 江本王子は、新国ではなかなか王子として見る機会はないのですが、「ザ・基本!!」という踊りの丁寧さと途切れのない音楽的な動き。 そして妙な色気(笑)

山梨出身でABTに入団した相原さんが期待の星としてパドトロワで登場でした。 コールドがまたよく揃ってる。 コールドが揃うのはもう日本では珍しいことではないかもしれません。 日本人の特性的に、揃って当たり前的なところがあるかもです。

王子の友人とチャルダーシュに今は新国の先生となってる吉本さんが登場されたのも私的にはうれしいキャスティングでした。 ロットバルトの存在感といい、3幕宴でのふんぞり返り方といい、なかなかふてぶてしくて、オデットと二人で「ヒャッハー!ばっかでぇww」と言わんばかりに去っていく姿は今でも目に焼き付いています(笑) 余談ですがこの「ヒャッハー!」のシーンはぜひ本島さんで見たいと思いましたし(想像するだにゾワゾワします)、儚く身投げするオデットはぜひ小野さんでも見たいと思いました。

サイン会色紙。ダンサーさんと言葉を交わせるいい機会です

終演後は主要ダンサーさんのサイン会がありました。 特製色紙500円購入でサインをいただくわけですが、これが運営費の足しになるなら買いますわ。 ダンサーさんにお声をかけながらサインをもらいまして、あるダンサーさんに「(野外で踊るのは)気持ちよかったですか?」と聞いたところ、「もう病みつきになります」というお答えが(笑) ダンサーさんにとっても素晴らしく気持ちのいいものなのでしょうし、この夏に猛暑の東京を脱出して涼しい高原で過ごす、というのは確かに願ったりかなったりかもです。

そういえばザルツブルクに行ったとき、夏のザルツブルク音楽祭は音楽家たちが避暑地でバカンスを過ごしながらの演奏会だと聞いたことがあります。 今やザルツブルクの風物詩として世界的に有名なイベントとなり、また世界にそうした音楽祭はいくつもありますが、清里もまた、ダンサーさんたちが避暑をかねて訪れたいイベントとなれば、また新たな展開が起こるのかもしれません。 そしてますます素晴らしい「清里のための清里スペシャル」となることを願ってやみません。 応援したく思いますし、またお邪魔したいと思います。 バレエ好きさんは一度は絶対一度は見ておいていいですよ。

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