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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

マリインスキー・バレエ団「愛の伝説」:久々の「再会」の伝説

●来日!再会!スメカロフ!

11月27日マリインスキー・バレエ団「愛の伝説」鑑賞。 女王がロパートキナ、妹姫シリンにシャプラン、二人の姉妹に思いを寄せられる画家フェルハドにアスケロフ、そして女王を支える宰相にユーリー・スメカロフ!

このスメカロフ、前所属のエイフマン・バレエ時代から大好きでした。 エイフマン・バレエ団自体が日本に来なくなってからソウル、上海、北京等々へと出かけて見ていましたが、気がついたらエイフマンの主だった作品はほとんど彼がファーストキャストの主演で踊るようになっていたという。 特に何度も見ていた「チャイコフスキー」が、「こんなのあり??」と思うような作品に見えるほどに、彼特有の動きや解釈、掘り下げは強烈な印象を残し、延々と忘れられずにいたわけです。

マリインスキーに移ってからは(当方の事情も含め)見に行く機会が減り、動画やストリームで踊る姿を眺めながら、いつか日本に来てくれないかと心待ちにしていた人だけに、もう今回は待ちに待った機会。 テンションもハナから最高潮。 キャスト発表があってから待ち望み、ボリショイシネマで予習し、指折り数えて待ち望んでおりました、本当に!

そしていよいよの上演当日は芸術監督のプレトークがあり、このバレエの見所を語ってくれました。 1960年代初期に、若い振り付け家や音楽家たちが制作に望んだ意欲策であること。 マリインスキーからあまり外に出ない作品で、今回の日本での上演は非常に珍しい。 古典のマイムは使わず、振り付けですべて表現する。 主人公は4人おり、また作品中3つの重要な「愛」――女王と妹姫の画家への愛、画家と妹姫の愛、そして宰相から女王への愛、があるということ。 そして宰相を演じるのはマリインスキーが誇るキャラクターダンサー、ユーリー・スメカロフ。

キャラクターダンサー……(笑) エイフマンで主演張ってもマリインスキーではキャラクターダンサーって、わかるけど、でもアーティストじゃだめ?(;´∀`) いや、いいけどね。

その辺のニュアンスはともかく、やっぱりエイフマンはエイフマンであり、コンテンポラリーであって古典上演のバレエ団とは一線を画する。 でもスメカロフはそのエイフマンならではの、人間性の、特に精神面を痛いほど深くえぐり出すという踊りの表現や、物語と人物の掘り下げ、さらには人間3Dみたいな身体表現MAXの鬼振り付けの数々を主演でこなしてきているわけで。 「キャラクターダンサー」というのであれば、世界最強のキャラクターダンサーの一人であることは間違いない、と見る前から確信しておりました。

そして、その期待はやはり間違っていなかった! 長い手足が刃物のようにダイナミックに空間を切り、しかし同時に立ち姿、視線、首の角度一つひとつが実に繊細。 「宰相の愛」がひしひしと伝わってくる。 泣きそう。 振り付けもやる人ゆえ(フィギュアスケートプルシェンコの伝説作「ニジンスキーに捧ぐ」は必見!)、ダイナミックかつ緻密に計算された(であろう)動きは、のめり込みつつもどこかドライで、異なる二面性が調和し、実にクレバーです。 熟してるよー…! マリインスキーに移ってさらに幅が広がったのだなぁ(考えてみたらエイフマンにいたら、エイフマン作品しかできないし、自分の振り付け作品を発表する機会を得るのもなかなか難しいだろうし……)。 あの大股の大きな動き、手の振り、(マリインスキーでは)オーバーアクション気味の「言葉」と同時に、その向こうの感情があふれ出てくる。 ダンサーにして役者魂の塊でありアーティスト。 ああああスメカロフ節! こんなに幸せでいいのか自分……!

●スメカロフ宰相の圧巻!

というわけで、「愛の伝説」。 シルクロードが舞台のファンタジー+(時代的に)ソ連テイスト、というのか。 ざっとあらすじを述べれば、

1幕 病気の妹姫を救うため、女王は自身の美貌と引き替えに、妹姫を助ける。 醜くなった女王と完治した妹姫はともに宮廷画家に恋心を抱き、しかし妹姫と画家は相愛に。

2幕 苦しむ女王を見守り続ける宰相だが、その思いは届かない。 妹姫と画家は駆け落ちするが、宰相の密告で連れ戻され、女王は画家に渇水に苦しむ村に、岩山を切り拓いて水を引けと命じ、画家は山へ向かう。

3幕 美貌を取り戻し画家との幸せな時を夢見る女王。 そこへ妹姫が画家を呼び戻すよう懇願し、2人は山へ。 画家に帰還命令が下るも、彼は水を渇望する人々のために岩山に残ることを決意し、2人から離れていく――。 幕。

衣装が女性も全身タイツで、なんとなくシルクロードの壁画に出てくるペルシャ風を思い出さないでもない色彩や模様。 さらに原色テラテラ。 踊りも中欧アジア風?の手首上向きや指を繋げたアジア的な手の動き。 ソ連という時代にあって、この衣装はさぞや斬新だったろうなと思います。

ロパ様の女王はやはり華麗で優しい孤高の女王。 ボリショイと比べるのもどうかと思いますが、ボリショイシネマで見た女王が男性的に力強かっただけに、ロパ様のはたおやかで華麗。 でもこれがロパ様の味わい。

醜くなった女王をそれでも支える宰相。 女王の外観ではなく、国を治めるという、孤高の心まるごと愛していた。 だからこそ1幕、醜くなった女王が最初に登場するシーン、兵士たちの群舞が圧巻です。

音楽がだんだんと大きくなり、それに伴い兵士たちが次々と増えていき、それだけでも圧巻なのに最後に真打ち!とばかりに登場した宰相1人でその群舞すべての迫力と対等に渡り合う、スメカロフの渾身の踊り。 「我が女王をここにお迎えするのだ!」という気概と忠誠心(愛情)に圧倒されます。

妹姫のシャプランは線が細くて清廉で、でも「妹」ならではのワガママさと無邪気さと、「白」ゆえの残酷さを持ち合わせた姫。 アスケロフはアゼルバイジャン人だけあって、こういう物語の「イケメン」にはぴったり。 なにより前日見た「ジュエルズ」でのシャプランとのパートナーシップがいいなあと思っていたけど、やっぱりいい。 気持ちが通いあってるって感じがします。

それでもお話的には恩知らずな妹。 「それでも彼が好きなの」という、恩義より愛を悪びれなく取る娘です。

画家は女王は眼中にないし、思いを寄せられているとも気づいていないでしょう。 それを見つめる宰相スメカロフ。 ロパ様と、そして彼をみているだけでもう気持ち、感情があふれてきます。

●心に焼き付く絵巻風景

2幕圧巻の宰相の密告から、秘めた思いを……女王にぶつける宰相ですが、足蹴にされます。 蹴られます。 …悲しそうな顔に泣ける…そんな顔しないで…

でもロパ様の蹴りは、やはり優しいです(ボリショイはもっと容赦なかった)。 彼女もわかっているのでしょう、支え続けてきてくれた宰相の、男女の愛は受け入れられなくても、見守り支えてきてくれたという「愛」は。 宰相を受け入れてくれればいいのに、と思いますが、そうは簡単にいかないのがやはり「愛」です。 難しいわね、ほんとに…。 女王、画家、妹姫だけにライトの当たる空間なのに、後ろで立ち尽くす宰相の表情と気持ちが放つオーラが見えるようです。 押さえていてもわかる、その存在感……。

2幕ラスト。 画家に岩山行きを命じる女王。 ハンマー(笑)を握りしめて山へと向かう画家に、泣き崩れる妹姫。 そしてただひたすら、女王を見つめ、それでも愛と忠誠を誓うかのような宰相……。 泣けます、もうどうしたって。 無粋な言い方すれば情報がこれでもかと溢れかえった、言葉と心に満ちた空間。 まるでシルクロード絵巻の一場面のような絵図。 心に焼き付く、おそらくまた何年も忘れられないワンシーンです。 また忘れられないシーンができた……。

スメカロフの出番はここまで。 あと3幕は終幕へ向けて、女王と画家のパドドゥ。 スーパーマンカラーのとてつもない衣装がなぜここに、的なところもありますが、まあ……意欲作なのだろう、と。

2人の愛を振り切り民衆のために生きることを決意する画家。 ソ連だ……共産だ……。 しかし、4人の主人公の気持ちと愛が交錯する圧巻の舞台でした。 なにより生スメカロフとの記念すべき再会の舞台。 彼のファンで本当に、よかった……! ここまで心の底から思えるダンサーさんはそういないです。 アニキ、やっぱり最高だ!

というわけでマリインスキー祭り……というかスメカロフ祭り、次はアニキがティボルトで登場する「ロミオとジュリエット」×2回分です。

でもこの公演をきっかけに、スメカロフのすごさが広まったのがうれしい。 公演が始まる直前まで、彼に関するツイートしてもRTや「いいね」してくれるのはほとんどスケオタさんとおぼしき方々だったし(笑) でもね、やっぱり「ニジンスキーに捧ぐ」は今見ても名作ですもの。 アートの力。 すごいわ。

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