arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「子どものためのシンデレラ」:女性陣だってパワフル

新国立劇場バレエ団「子どものためのシンデレラ」、7月25日マチソワしてきました。 細田奥村組と小野&福岡組。 ほかにもみたいキャストはあったのですが、いかんせん「子どものための」ということでド平日だけのキャストは断念。

しかしながら「子どものための」といいつつ、ストーリーのアナウンスや解説は一切なしの、アシュトン版をベースにした抜粋版で、大人がみても十分楽しい内容です。 しかもプリンシパルクラスを主演に据える本気っぷり。 以前「子どもしらゆきひめ」でも書いた記憶がありますが、「ごまかしのきかない子どものものだからこそ、本物を」というシュタイフの創設者の言葉が思い出されます。 欲を言えばフルオケで…とは思いますが、でもこれでフルオケにしたら大人3500円を切る価格は間違いなく設定できないわけで、そうなると家族連れで劇場体験に来る、というコンセプトからも大いに外れる。 これは致し方なし、というところでしょう。 なにより踊り・演技共々が本物ですから。

またこの子どもシンデレラは新国本公演と違い、義理の姉たちが女性なんですね。 この姉ズが実に素晴らしかった…というか、新しい魅力発見!というのでしょうか。

そういえばバレエの女性は女性はヴァリエーションやコールドとかが多く、キャラの立った役はあまりなかったのですが、この「シンデレラ」の姉ズは最初から意地悪したりダンスのレッスンしてみたり、奇妙なお化粧をしてみたりとまあ弾けっぷりがはんぱない。 それでも決めるところはきっちり決めてくる隙のなさはまさにプロの技です。

新国男性陣の芸達者っぷりはわかっていましたが、女性だってここまでやる、というのが今回の最大の発見であり、楽しみだったかもしれません。 そういえばマズルカ組も「えーなにこのオヒメサマぁ!?」とか「このKYな連中なによ?」って顔してた人もいたなぁ。 作品って何回もやって咀嚼する意義は、こういうところに発揮されるんでしょうかね。

というわけで長くなりましたが公演別に。

●透明で美しい細田シンデレラ

細田さんの透明さ、清涼感、クリアな雰囲気と隅々まで行き届いた丁寧な踊りがため息ものでした。 姉2人が丸くて(体は)小柄系なので、義理姉妹という対比がよろしいです。 パパの貝川さんがいい具合にしょぼしょぼ。

すらっと面長の細田シンデレラのときは丸い系の大和&奥田姉妹、ちんまい小野シンデレラのときは背の高いゴージャスな本島&堀口姉妹という組み合わせもまた絶妙で、いかにも義理の姉です(笑)

大和隊長のこうした前に出てきての演技って、ひょっとしたら数年前の「兵士の物語」以来か?というくらい久々ですが、きれっきれだし、奥田さんものびのびとかわいい妹。 大和隊長が「どーんとこいやぁ!」と受けとめてくれているのか、奥田さんがまた解き放たれたようにのびやかです。 いいです。

このバージョン、四季の精が仙女の申しつけのもと、ドレス等々をプレゼントするので、魔法で変身、というよりはシンデレラがお着替えする感じ? 星の精に男性2人入ってるなー、と思ったら彼らは同時にカボチャの馬車の御者でもありました(笑) 人力車だー。

この日の王子が奥村君でしたが、本編に続き相変わらず持ち前の繊細さが、細田さんの透明感といいハーモニーです。 道化が妙にニコニコしてると思ったらやっぱり原君。 結構な抜擢ですね。 ステップアップ重ねていっそう成長してほしいです。

先にも書きましたが、抜粋とはいえ非常にコンパクトにまとまってていい感じ。

この日の客席はそういう趣旨ゆえお子さまがやはり多くて、後ろの子がマイムのたびに通訳してたのですが、なかなかしっかりわかってるもんだと感心しました。

●鉄板の小野&福岡

同日ソワレ、急遽チケットを買い足したのはパパ役が小口君という情報を得たからです。 で、当日キャスト変更がないか確認した上で、3階席からの鑑賞。

この日は小野&福岡の鉄板ペアで本編も何度も見ているのですが、脇が濃厚でした! 先の小口パパに加え、ダンス教師が古川さん、姉2人が本島&堀口。

小口パパはやっぱり小口君なりに濃ゆいのですが、この「濃さ」は小口色か。

また本島さんはあいかわらず美しいドヤ顔炸裂ですさまじい吸引力を発揮しますし、なにより驚いたのが堀口さん。 こんなお茶目な役もできたのか!というほどに弾けて、でっかいのにかわいい。 カテコで幕からちょこっと顔を出してふざけまくっているところを本島姉にどつかれるあたりはほほえましくて、最後まで楽しかったです。

小柄な絢子シンデレラに対し、大きい4羽の白鳥でお馴染みの方々を持ってくるあたりも実にいい感じです。

またこの日は仙女が千晶さん。 彼女の透明な魅力は役という光の透過で変わるように美しいです。 やっぱりガラスのクレアだわー(わかる人だけわかってくれればいい)。

というわけで、このこどもシンデレラ、地方公演もありますので、お近くの方々はぜひどうぞ。 おすすめです。