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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「ホフマン物語」(2):「あのとき、もう一歩」の後悔

ホフマン物語、10月31日昼、11月1日の菅野ホフマン&貝川悪魔の回です。

特設サイト http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/hoffmann/

キャスト表 http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/news/upload_file/1516_Hoffmann_cast.pdf

白状すれば前日マイレンの強烈な悪魔を見た後で、また菅野&貝川両氏となんとなくぼやけた(失礼)輪郭線の方々だけに、大丈夫かなー?という思いがあったのですが、まったくの杞憂。 それどころか菅野&貝川2回目の11月1日(通算4回目)の公演がすばらしい出来映えで、実に感動的でした。 もちろんこちらの目も、後ろで踊る方々もこなれてきたというのもあるのですが……。

この「ホフマン物語」、後ろで踊る方々も一部ホフマンの友人や幻影のキャストで人が変わる意外は皆さん、毎日毎回同じ役を早替え出ずっぱりという超ハードなフル回転状態でしたので、そりゃあ4回ともなればこなれてこよう、というもので。 だからこそ雄大君の初日&2日目という日程は気の毒だなぁと思うのですが。

ともかく菅野ホフマン、最高の出来だった4回目を中心に。 この4回目、本来私は見に行く予定ではなかったのですが、なーんか虫の知らせというのか、見なきゃならないような気持ちに駆られて行った回でもありました。 いやあもう、見といて良かった、に尽きます。

プロローグ このプロローグでうまくしょぼくれホフマンになれるかどうかが、この作品のポイントの一つです。 その点菅野さんは全然おっけーで、しかも持ち前のリーマン的なキャラのせいか、トゲトゲしくなく、人はすごーくいいんだけど窓際の中間管理職みたいで、若い学生たちも放っておけないというか、「ついいじりたくなる、なんか面白い話持ってそうなオジサン」という感じもある。 繊細そうな「なぁ~んかほっとけないのよねぇ」というダメンズ的なところにほだされた、とすれば、この日の堀口ステラも惚れるかも、とも思う。 堀口さんのステラ、本島さんほどのスターオーラはないものの、品のあるかわいらしさ、というのでしょうか。 高貴な高嶺の花的本島さんに比べ、すごくそばにいる感じがします。 彼女も実は芸達者でお茶目というのが先の「こどもシンデレラ」でよくわかりましたので、そうしたところも見ていて楽しいですね。

貝川リンドルフ。 この人は背が高くて立ち姿がきれいで、アンティークな世紀末マントがベタはまり。 静かに佇みながらも、「あーいるわー……絶対あそこになんかいるわー……」という存在感を放ってます。 いやぁ~んな感じの。

この日面白かったのがフルフォードさんのステラの付き人。 登場時から仏頂面で「みんなあの女の本性知らないんでしょ」とか、複雑な野心すら見えたりしてなかなか面白いです。 化けの皮はがしたときの乙部のりえ@ガラスの仮面を思い出しました。 そして貝川リンドルフの握らせた小銭2枚であっさり陥落。 そのまま遊びに行っちゃいそう(笑) 今村さんの付き人は後ろめたさを引きずってて、それはそれで良かった。 今回のこのステラの付き人2名はそれぞれに味わいがあっていい存在感を放っていました。 ホフマンの若い友人。 ファーストキャストの八幡・福田・奥村のゴールデントリオはもう別格ですが、それにしても今日の原・小笠原・木下も若々しくて良かったです。 しかも彼ら、実はみなさんそこそこ身長があるんだなと、単独で踊るとわかるという。 そしてこの若い3人だからこそ無邪気に、変なオジサンにも好奇心かき立てられて寄っていきそう。 原君、イケメンというのとは違うんですが、ああいう素朴なスマイル炸裂の笑顔は本当に和みます。 こっちまでニコニコ顔になっちゃうよ(笑)

1幕 貝川スパランザーニに助手が八幡・福田という弾け演技ならコレだ、という黄金ペア。 この助手が盛り上げてか、ノリノリの貝川さんです。 いやぁ、こんな演技できる人だったのね。 このスパランザーニ+助手ズのキャストも今回はそれぞれに絶妙でした。

人形オランピアが奥田さん。 花純ちゃん、かわいいなぁ。 長田さんのカクカク人形(バレ友さん曰く、おみくじ持ってくるからくり人形…w)と違い、彼女は少し人間らしさを残しています。 最初違和感を感じつつも、慣れてくるといい感じ。 それゆえにホフマンとの踊りは、ホフマンが人間の女の子に恋している、という感じがいっそう伝わってきて、ほんわかします。 ほんとに恋しちゃったのねぇ~、と。

その菅野ホフマン、ピンクが厳しいのは予想通りですが、黄色い眼鏡をかけた姿がのび太君みたいでかわいいかもw 眼鏡万歳。

後ろのお客の演技も初日に比べて4日目はさすがに大きくなっていて、お人形を「彼女です~!」と紹介するホフマンに対するどん引き加減がとても分かりやすくなってる。 人形が壊れた後の嘲笑も(気の毒ですが)大笑いしている。 なによりホフマンが笑われてがっくり、ではなく「恋破れて悲嘆にくれる」という感じさえしたのが4回目の一番大きな特徴でしょうか。 やっぱり1幕ってすごく大事なのね! なんてピュアなんだ、このホフマンは。

2幕 ピアノレッスン。 アントニアは米沢唯ちゃん。 この組1回目のときはあまりに元気すぎて病気持ちに見えなかったのですが、2回目はちゃんと病気持ちのお嬢様です。 それでいて病気以外は苦しいことは知らない無邪気さに溢れています。 カワイイ。 そして菅野ホフマンともラブラブです。

パパが中家さんですが、この組1回目のときは、マイムは仰業なのにそこに全然心が入ってない、前所属バレエ団臭満載で異質な感じがしていましたが、たった1日で演技が変わって馴染んでいて驚いた。

幻影シーンは池田君、林田君、小柴君という若手組。 池田君のジャンプがいいですねー。 女性はやっぱり細田さんがキレイ。 図抜けて上品で「幻影」という場に一番合う。 彼女の控え目で透明な魅力は個性派揃いの新国にあって、これはこれでひとつの味わいではないでしょうか。

菅野さんはサポートは今回配された3人のホフマンでは一番見られるはず……ですが、それでも怪しいところがあったのは、地味に難しいところがあるのかな。

そして2幕クライマックス、踊り狂うアントニアとピアノを弾かされてしまうホフマン。 ここがね、もう切なくてもうやめてぇぇ~と半泣きモードになるくらい苦しくて痛々しくて……(T_T) 心臓を雑巾の如くぎぅぅぅぅぅぅ~~っと絞られてる気分。 ホフマンの絶叫が聞こえてきそうなシーンで、見ていて辛くて「ああああもうやめてぇぇぇ~」と心がよじれそうでした(ノД`)・゜・。。

振り払えるんじゃないか?ひょっとしたら、もう一踏ん張り、最後の力を振り絞ればあの悪魔の手を振り払えるんじゃないか??という壮絶な葛藤。 ああ、ここにホフマンの悲劇……「もう一踏ん張りすれば」があったのかなぁ……などとも思いました。

しかしここの曲(オペラではトリオで歌われる)は実は(悲劇のシーンでありますが)すごく好きなんですが、まさかこの曲で絢子姫や唯ちゃんが踊り狂って死ぬことになろうとは……。 しかも聴く度に心臓雑巾絞りされる気分になっちゃうというおまけ付。 貝川悪魔め……(泣笑)

3幕 ……と、壮絶な2幕の後の3幕。 ここで導入が「ホフマンの舟歌」ですが、この緩やかな曲が、相思相愛の思い人を失って、心の癒しを求めてさまようホフマンを思い浮かべさせられます。 信仰生活に入った……って、それで本当に救われるんでしょうか??

なんて思ってるところに幕が開くと、そこは魔窟。 相変わらず怪しいスキンヘッドやパンイチ、お小姓がうようよと、私は文字通りすっかり「妖怪ウォッチ」(笑)。 ええ、もう彼らは完全に妖怪というか物の怪というか人でない、という認識になっております。

なもんで、魔窟には双子の妖怪おさわり―ず、妖怪パンイチ、妖怪はげ坊主、妖怪あらびあ~ん等々(ひねりなしでスイマセン)がうごめいているのです。

そしてこの組のジュリエッタは本島様。 いやぁ、文句なしの魔窟の女王。 ジュリエッタだって娼婦という人間の姿を借りてはいるけれど、落とした男の影とって精気吸って生きてても不思議ないわー。 妖魔が人間より美しいって、絶対ありだし、本島さんにはその説得力があるわ。

さて。 迷い込んだホフマン、舟唄でさまよっているうちに呼ばれちゃったのでしょうか、魔窟に。 女王様につい手を伸ばして挨拶してしまいハッとします。 この時点ですでに落ちてる。 拒絶や「いかんいかん」というよりはもう引き付けられてしょうがない、という感じで、これがまたいい。 本島女王様の魔力も、ダーパテュートとグルではあるけど、抑えた色気と目力で、じわじわと責め立てられる感じです。 大人の魅力だなぁ、妖艶だなぁ……。

それでも本人は壮絶な葛藤があるわけで、でも影を失った時点で我に返り、十字架で悪霊退散! 結構この葛藤から十字架ビーム、悪霊退散!のクライマックスが壮絶で、見てる方は息をのんでました。 追い払った後の虚脱感……。 疲れた……。 そしてまた「舟歌」。 流れていきます。 心の安らぎは来るのか……。

エピローグ (おそらく超大急ぎの早替えの後の)酒場の前。 酔いつぶれて寝てしまったホフマンとステラのすれ違い。 最初から目を合わせず後ろを向いているフルフォードお付き。 知らないもーん、を決め込みたいけど、なんかドギマギしている? でもホフマンを4度目のドツボに落とした原因だー(笑)

また一人取り残されるホフマン。

4人の女性たちが幻影のように現れ、消えていきます。 ここのお人形と女の子を行き来するような奥田さんの踊りがいいです。 もちろん長田さんのパーフェクトドールもこれはこれでホフマンにとっては辛いことではありますが、この花純ちゃんの女の子を思わせるところに、1幕のホフマンのピュアさを思い出しました。 唯アントニアの無邪気な笑顔、本島ジュリエッタは妖艶な女性。 ホフマンにはやっぱり女性に見えていたのかな……。 そして優しく美しいステラ。 ……優しい、と見えました、私には。 たぶん菅野ホフマンに惚れるステラは、スターのその向こうの顔で惚れているんじゃないでしょうか。 4日目の菅野ホフマンだったら、そう思えます。

考えてみればいちいちピュアに本気で恋して、ぼろぼろに打ちのめされても、結局立ち上がって生きている。 もちろん無情の連鎖を打破するところはあったのではと思うのですが、それをできない、あるいは機会を逃しているからのホフマンクオリティですが。 でも失うたびに強くなる……そんな静かな「強さ」がこのぼろいオヤジにはあるのだろうかと、そんな思いもよぎってしまいます。 単に鈍い、ともいえるんですが(^^;

カーテンコールの幕が開き、やりきった感いっぱいの菅野さんの顔が印象的です。 あんなにぼろぼろだったのに、幕が開くと菅野さん。 そして舞台上の全ての人たち一丸となっての、すばらしいひとときでした。 新国がこういう演目をやってくれる限り付いていきます、なんて思っちゃうほどに、この4回目(菅野2回目)は大満足でした。

●ダンサー丸投げの難しさ

4回見てなんとなく思ったのは、ダレルの「ホフマン物語」は、主演ダンサーの行間補填の部分が実に多い……というかほとんど丸投げ的なんじゃなかろうか、ということです。 振付はあるけれど、肝心の登場人物の心情とか個性なんかはダンサー自身が掘り下げて掘り下げて考えて向き合ってキャラを作という、そういう部分がとても多い感じがします。 特に主演男性は当然上っ面のあらすじを追って演じる、だけじゃあ絶対に全然ダメで、ともすれば大元の振付の上にお話を上書きするくらいの創造力さえ要求されているのではなかろうか。 さらにそれを軸に、周りの方々を引っ張っていかないといけない。 その辺の掘り下げが浅かったり、しれっと終わってしまったりすると「可哀想なオヤジだねー」しか印象が残らないのかもしれません。 わかっていたけど、主演男性に対する要求度がホントにめちゃくちゃ高い。 実に難易度高く、ホフマン役は責任超重大な作品だなぁと、つくづく思いました。 大原さん、どえらい課題を提供したわ、男の子達に。

というわけで。 千秋楽の井澤ホフマンはまた後ほど。