arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場「くるみ割り人形」:ダンサーさんが素晴らしければこそ…

新国立劇場くるみ割り人形」、今回は12月22日米沢&ワディム・ムンタギロフ、26日ソワレ米沢&井澤組を見ました。 本当は19日小野&福岡組も予定してたのですが、こちらの眼球事故で断念。 でも今回の公演、合計8回7キャスト、全日満席とかおそろしや「くるみ」の威力。

そして毎回同じことを書いておりますが、トホホすぎる演出と相まって、素晴らしすぎるダンサーさんたちの熱演で、この演出のトホホっぷりが一層際だつという(どこかの白鳥でも同じことを書いておりますが)、それくらい残念な演出のくるみです。

ただダンサーさんたちにしてみれば、自団のプロダクションを踊るよりほかなく、なれば最高の踊りを見せようという「プロ」としての意気込みが十分に感じられ、そしてその結果をちゃんと舞台で見せてくれるから、こちらも足を運び、拍手を送るわけです。

あくまでもダンサーさんたちが素晴らしくて応援したいから行く。 これに尽きます。

そして今回も立ち姿だけで圧倒されるベテランさん、ますます勢いを増す中堅さんに、先輩に学びながらも自分色を出そうという意気込みが感じられる新人君など、いい具合にメンバーがかみ合い、また隅々まで目がいくらあっても足りない新国ならではの舞台です。 渡部フリッツがいいです。 じっとしてられない、おとなしく座っていられないやんちゃ坊主。 本島ママが美しく、輪島パパはホストとしてお客様に気配りしながら息子にハラハラする、細やかな気遣いのお父さんです。 初役奥田クララは表情が豊か。 ボーイとして息を潜めながらも独特の脇オーラを放つ小口君。

こういう踊りはもちろん、演技達者な方々が集まっているカンパニーだからこそ、もっとストーリーとドラマ性の深いプロダクションをやらせてあげたいし、お客としてもそういうものが見たいと思います。 日本有数の踊りはもとより演技力もあるみなさんが、こんなトホホなプロダクションしか踊ることができないなんて、これほど不幸なことってないですね。 悲劇としか言うよりない。 現実でもぼっち、夢の世界の家族は美しいけど王子は雪の女王のサポートもして、おとぎの国でも座ってるだけのお客さんクララ……。 こんなんだったら、昔のワイノーネン版の方がよっぽどよかったと思います。

素晴らしいプロダクションを持ちながら、ダンサーさんの体型がやっぱりアレでトホホだなぁと感じるカンパニーもあるわけで、それを思うとやはり新国のダンサーさんたちは踊り、演技、スタイルともども粒揃いです。 だからこそ、こんな悲劇のようなプロダクションしか踊れないというのは、最悪の悲劇だと思います。

年末の「くるみ」であれば(内容はどうであれ)お客が入る威力を、今回もまざまざと感じましたが、ならばせめてもっと回数を増やして、いろいろな人に経験を積ませてあげたいなぁとも思います。 (見てはいませんが、クララ、雪の女王金平糖とオール初役相手に王子を勤めた菅野さんは、今回のMVPではなかろうか)

●12月22日:お見事なり、ワディム王子

この日の王子はゲストのワディム・ムンタギロフ。 いやもう安定のサポートとはこのことで、特に奥田さんがかわいらしく、実にきれいに見えます。 さすがだなぁ。

この日は渡部フリッツが実によくて(ホフマンでは3幕のお小姓)どうしたって目がいきました。 小さめではあるんですが、昔の八幡フリッツを彷彿させる存在感で、彼は先々楽しみですね。

1幕の家族が実に幸せそうだっただけに、お話が進むほどにぼっち、放置のクララが切なくなるんですが、ワディム王子とのクララが実に幸せそうだったもんで、その切なさが倍増するというこの大いなる矛盾の演出。

ダンサーは最高の力を出して踊る。 しかし演出がダメすぎてよけい切なくなる。 ああ、やるせない。

貧乏臭いスペインの衣装とか、これがかっこよければ池田君だってもっとかっこよく見えるのに。 葦笛だって、昨今のお教室の方がもっと振り付けはまともだよなぁとため息ばかり。 フェッテ合戦とか、頭悪すぎる。

金平糖はまあ実に幸せそう。 安定のワディム王子と唯ちゃん、もうすっかり馴染みまくったペアです。 というかワディムの馴染みっぷりが見事。 今までゲストでココまでふつうにとけ込んでた人、いないよなぁと見入りました。 また来てほしいものです。

●12月26日:スリリングな王子(笑)

ほぼ22日のキャストと同じですが、フリッツが小野寺君。 彼もなかなか元気者のフリッツで、このあとトレパックでも登場でした。

この回はやはり井澤王子でしょうか。 いや、ドキドキ、ヒヤヒヤというのか(笑) 井澤君、静かに貫禄を付けてきて、やはりルックスやオーラはどうしても王子です。 いろいろプレッシャーのある中で増長せずがんばって、舞台で結果を見せる、という真摯な態度はやはり好感が持てます。 今後どう成長していくか、見守って行こうと思う人です。

して、今回のくるみですが。 女性キャストはクララが広瀬さんですがPDD、やっぱりワディム王子とは違う(比べてはいかんが)。

この回最もスリリングでドキドキした雪の女王絢子姫とのPDD。 どうしたってホフマンのあのリフトミスが頭をよぎるんでもう本当にドキドキでした。 やっぱり危なっかしいは危なっかしいのですが、それでも前回のホフマンのリベンジを果たすべく挑んでいるのはよくわかる。 固唾をのんで見守るとはこのことで、最後のピルエット、絢子姫回った!よっしゃ!はー終わったー…(ぐったり)という気分(笑)

金平糖の唯ちゃんとは、やはりワディムのアンダーとして踊り慣れているだけあって、奥田さん、絢子姫よりは安心して見ていられます。 でも姐さん金平糖というのか、尻に敷かれた王子というのか(笑) 終始金平糖がリードするPDD。 もうちょっとお姫様きれいにみせてあげてよー、と思ったりもしますが、今後の課題ですねぇ。 昔厚地君が初めてくるみの王子で主演した時のことを思い出してしまったわ。 …きっと井澤君も成長するに違いないよ、うん。

この日は終演後に握手会がありました。 遠巻きに眺めていたんですが、せっかくなので最後の方で並んできましたが、腰が低いですね。 で物腰柔らかい。 こりゃあお姉さま方にかわいがられるなぁ、と思いながら「がんばってくださいね」と声をかけて帰って参りました。

というわけで、これにて今年2015年のバレエは終了。 特に新国さんにはたくさん楽しませていただきました。

来年は早々にニューイヤーバレエ、そして2月には「ラ・シルフィード」に男祭り「Men Y Men」です。 来年も新国舞台を楽しみに出かけたいと思っております。