arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「ニューイヤーバレエ」:質実濃厚満員御礼

1月9日、10日の両日、新国立劇場バレエ団「ニューイヤーバレエ」を見てきました。 今年初新国。

バランシンのセレナーデ、パリの炎、海賊、タランテラのパドドゥに新国ダンサー貝川さんの振り付け作品フォリア、ライモンダの3幕丸ごとという、質実ともにかなり濃い内容。 想像以上に楽しめた2日間でした。

いろいろなダンサーを見ることができ、これはバレエ団としても結果的にいろいろなダンサーさんに経験を積ませることができたということで、非常によい試みだったと思います。 いろいろなダンサーさんに経験を積ませる、というのは過去のトリプルビルがそうした役割を持っていましたが、コンテンポラリー作品が多くなるためか、(私は大好きなんですが)なかなか集客に苦戦していたようですが、今回はほぼ満席(2日目に至っては完売)。 やっぱり古典の方が一般的に食いつきはいいのかと思えども、徐々にコンテ作品を増やすなどしつつ、こうしたプログラムは続けていいのではないかと思います(後日発表された来シーズンはヴァレンタイン・バレエとして継続の模様。よかったです)。

以下両日プログラム順に。

●セレナーデ

新国のバランシンはとても評価が高いのですが、その期待を裏切らない、感動的な舞台でした。 世界に見せても恥ずかしくない…というより、世界の人に見てほしい、新国のバランシンです。 すばらしいです。

「セレナーデ」は久々。 音楽に振り付けが付いている、いわばシノプスレスの多いバランシン作品ですが、この作品は物語も垣間見えておもしろい。 すごく詩的な作品です。

音楽はチャイコフスキーの弦楽セレナーデ。 キャストは両日同じで、メインは寺田、本島、細田の女性陣に菅野、中家の男性陣。 寺田・本島の色香(本島さんにいたってはダークエンジェルの役柄にふさわしい存在感)に妖精のような透明な細田さん、サポートに安定感のある菅野・中家という組み合わせが絶妙。

特に細田さんの透明感あふれる存在感(相反しますが)には感動で涙出ました。 きちんきちんとしっかり踊る人ですが、どこか一歩引いたところがあって押しが弱いのかな、と思っていたのですが、そうか、こういう魅力なんだと納得させるご本人の持ち味が発揮されてて、素晴らしいの一言。

まるで風の妖精というのか、精霊というのか。 無音で跳んでいくその姿の向こうの景色が透けて見えるようで、なんというか、やっぱり「ガラスのクレア」なんですよねー。

すごく透明で、でも濃厚な本島さんと組んでもひけをとらない。 ちゃんとそこに「細田千晶」がいる。 いや本当に両日とも彼女の姿を見るたびに目が熱くなりました。

細田さんの2月のシルフィードが俄然楽しみになりましたし、彼女でジゼルなんて見てみたいです。 (と思ったら来シーズンの発表でジゼルが演目に入っていました。ぜひ細田ジゼルを配役してほしいもんです!ほんとに、これは切にお願いしたい!!)

中家さんは安定のサポート。 サポート要員として新国に移籍したのか。

コールドはしっかりまとまって、本当にきれい。 本家のような肉体的パワフルさはありませんが(というか出せませんが)、それに負けず劣らず詩的で繊細な描写ができているのではなかろうか。 指導にいらしていたパットさんも感動されていた、というお話ですが、バランシンが生きていたらこれを見てどう思ったか、聞いてみたいです、ほんとに。

●フォリア

新国バレエ団ダンサーの貝川鐵夫さん振り付け作品。 ダンサーは丸尾、玉井、益田の女性陣に、輪島、池田、中島の男性陣。

古楽で、暗闇の中で6人のダンサーが1人、2人、時にはペア、男性、女性、全員で踊られます。

初演はDTFで小劇場だったのですが、そのときは照明効果で6人が群衆に見えるといった絶妙さにも感動したのですが、オペラパレスの今回でも、フォーメーションと照明を変えてきたのでしょうか。 暗闇の中のライトがまたいい光を作っていて、背後の壁に移る陰が効果抜群。 1人の人間の陰だけが大きくなるという、小劇場ではできない効果もあって、貝川さん、これを照明さんと一緒に計算したのだとすれば、すごいです。 1日目は先輩についてくのに必死感のあった中島君も2日目は合わせてきていて、よく頑張りました(笑) 玉井さんが想像以上にコンテがしっかり踊れる人だとわかりびっくり。

惜しむらくはカーテンコールで貝川さんが出てこなかったことです。 新国ダンサーの、本拠地オペラパレスでの振り付け家デビューなのですから、ここは(仮に本人が辞退しても)スタッフが強引に押し出すべきところでした。 なにより客席はやはり、貝川さんに拍手をしたかったと思います。

●パドドゥ「パリの炎」「海賊」

9日10日の両日で質の違いがくっきりと分かれたのがこのパドドゥでした。 プロとしての実力がここまで赤裸々に出るとは…というプロのダンサーとしての根本的な部分で違う、というのでしょうか。 こういってしまうと9日に踊った八幡君を巻き込んでしまって申し訳ないですけど(彼はちゃんとプロでした)。

つまり、きれいに踊るだけなら発表会。

プロとしてパドドゥだけを見せるなら、キャラ、個性、やり過ぎなくらいのけれん味など、見せ方にも技術が必要なんだと改めて気づかされました。 観客としては、普段海外ダンサーのすごいパドドゥをたくさん見ているわけですから、とはいえ海外のすごい人たちと同等なものは求めていませんが、プロたる新国のダンサーとして相応しいものを見せられるかどうか、は大事なことだったかと思います。

そういう意味では9日はセレナーデがすばらしかった分、「あー……」というがっかり感とともに盛り下がるパドドゥ、10日は「おおお!」と盛り上がるパドドゥでした。

・「パリの炎」 9日が柴山&八幡、10日が奥田&福田。 9日はお教室の発表会に男性プロがヘルプで踊った、という印象。 10日は奥田さんが粗いところはあり、グランフェッテが途中からピケになたりしましたが、でもこの切り替えは音楽とあっててその音感はすごいなと思いましたし、何よりジャンヌとフィリップの世界を出そうという気持ちがみられたのがよかったです。 また福田君の仕切屋的けれん味もキャラが出てた。 勢い余ってよろけたけど、それはご愛敬。

・「海賊」 9日木村&井澤、10日長田&奥村。 貫禄の差というか、舞台経験の差というか、お教室とお手本というのか。 井澤君もこれまで抜擢でそこそここなしてはいましたが、相手が米沢、本島、あるいは小野というベテランがあってこそだったかと。 新人&ほぼ新人同士では、やっぱりこうなるかー、という感じ。 ぶっちゃけおもしろくも何ともない海賊。

長田さんはさすがの貫禄です。 しかも大人。 さらに奥村君が愛の奴隷感たっぷりで魅せる魅せる。 プロのパドドゥってこれだよね!!と膝をバシバシ叩きたくなるものを見せていただきました。 いやーさすが!!

●タランテラ

バランシンの超絶技巧てんこもりの小作品。 9日の米沢&奥村、10日の小野&福岡それぞれ、キャラの出た演目で楽しかったし、踊ってる方もすごく楽しそうでした。 2組ともしれっとやってるところがまたすごいです。

9日はさわやか系でとにかく楽しそう。 キャラがかわいいです、このペア。 超絶技巧と音楽とのマッチは大変なんだなやはり、とは思わされましたが、テクニシャン同士のさわやかなキャラがよく出ていました。

10日は雄大君、9日ライモンダの王子ではなくこっちに照準を合わせてきたのか!というノリ。 とにかくノリノリ。 やっぱり雄大君はこういう方が好きなのね。

絢子さんがとにかくお茶目でコケティッシュで(くるみのネズミに入るとか)遊び心があって、また彼女は今や日本トップのプリマであるのにどこか「うぉりゃぁっ~!」ってところもあるせいか、表情もすごく豊か。 タンバリンもバシバシ叩いてオケとの一体感というか、ピアノさんを煽るような巧者っぷり。 このピアノが連日すばらしくて、特別に拍手したい気分です。 ともかく音楽と踊りがどんどん一体化して、もうこっちも体が動き出しそうで、押さえるのに必死でした。 さすが絢子姫。

9日目になかったパドドゥのカテコが10日はありましたが、この辺、新国側の不備ですね。 先の貝川さんの件を含め、担当者はほかの公演見て、このガラに限らずカテコの見せ方を研究…というか勉強した方がいいと思います(憮然)。

●ライモンダ3幕

グランパ・クラシックだけかと思っていたら、3幕丸々の上演でうれしい誤算。 貝川王様に本島女王様、式典官輪島さんというゴージャスな配役はこういうガラだからでしょうか。

チャルダーシュが堀口&マイレン。 相変わらず濃ゆい表情たっぷりに魅せてくれるマイレン、こういう人がガラのパドドゥで盛り上げてくれるべきなんだよなぁと見ておりましたが。

それにも負けず劣らずに濃かったのが、後ろのコールドで踊っている小口君。 「ハッ!ホッ!」とか明らかに口が動いているんですけど(笑) いいのかねwと思いつつも笑い止まらず小口君に釘付け。 マイレンが登場して、マイレンも見たいが小口君からも目が離せず、なかなか大変なチャルダーシュでした。 しかも抜粋ガラとはいえ、小口君はちゃんと後ろでこちょこちょ演技もやってて、嫁さん目で追ってるがな、睦まじいな、いいなぁ、などと思いながらほっこりしもしたり。 いいねぇ、小口君。 このキャラが。

さて。 グランパに入り、男性4人、やっぱり新国男子はスタイルいいなぁ~。 白タイツが似合います、ここの男子は。 きれいな爪先の人がいるなぁと思ったら江本さん。 やっぱり、さすがです。

ライモンダとジャンが9日小野&福岡、10日米沢&井澤組。

9日小野さん、登場した瞬間放つ主役のオーラ。 一気に視線を集めるこの存在感。 決して主張しているわけでもないのに、でも輝きはまさしくプリマ。 場数を踏んで、いよいよ円熟期に向かってこれからいっそう駆け上がっていくのか…。 すばらしいです、絢子姫。 翌日のタランテラに向けて?抑え気味の雄大君は、しかし役割はきっちりこなす。

10日の唯ちゃんは高貴な姫であり、しかしヴァリエーションはどこか夢見がち。 ライモンダ、お話などあってなきような演目ですが、ジャンを待ちこがれ、やっと晴れの日を迎えた姫のストーリーが伝わってくるようで、3幕だけとはいえ、見終わった後は全幕見たかのような感覚でした。

見応えたっぷりのニューイヤーバレエ、先日新国の来シーズンの発表がありまして(新制作なしでほぼ古典。ライモンダをやるかと思ったらやらないとか豪気。てかそんなに台所厳しいのか)、先にも書きましたがヴァレンタイン・バレエ(苦笑)として来シーズンもやるようです。 発表等々のタイミング的に日にちは増やせなかったのかはともかく、内容を変えつつ、毎年何らかの形で続けてほしいもんです。

というわけで、新春から楽しませていただきました。 ありがとうございました。