arTravel: art × Travel/旅×アート

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「Men Y Men/ラ・シルフィード」(1):2組2様、三者三様の世界

2月6日マチソワ、2月7日の新国立劇場バレエ団「Men Y Men/ラ・シルフィード」のダブルビルを見てきました。 シルフィードはブルノンヴィル版の青ジェームス。 マッジが本島さん、高橋君という男女混成キャストというなかなか新国にしては攻めの配役です。 4組の主演に加えてこのマッジがそれぞれどう絡むのかがとても興味深かったですが、それぞれに味わい違ったおもしろさがありました。

また「Men Y Men」は男性のみ9人のコンテンポラリー。 で男女含めたクラシックの要素も盛り込まれていて、男性ならではの力強さもあってなかなか面白い演目でした。

あとこの公演は11日を残していますが、とりあえず「Men Y Men」と3回分を。

●Men Y Men

男性9人を2キャストで組む、男子の層が厚いこその新国の演目です。 振り付けはイーグリング。 音楽はラフマニノフピアノ曲の弦楽アレンジ(これが結構ゾクゾクもの)。

2つのキャストがそれぞれに味わいが違い、ファーストは白湯スープ、セカンドはデミグラスソースのような、というのでしょうか。 濃さが違う、とにかく(笑)

1曲目は2組ずつ8人が、2曲目はソロ、ペア、3人、4人と交錯し、その後ろを男性が、時折ジゼルを思わせる花束を持って通り過ぎ、最後はライトのなかで9人が踊る、というもの。 結構過酷です。 肉体労働のような振り付け。 「あばらがミシミシ言う」「プロレス技みたい」という事前のコメントを聞いてはいましたが、なるほどなぁと。 それを優雅に見せなければならないというのは、ダンサーってなんて過酷な商売なんだ、と思いました。

ファーストは八幡君を中心に中家、宝満、林田、池田、木下、福田弟、宇賀というメンバー。 江本さんがいないと思ったら、怪我で出演できず、代わりに福田兄、渡部君が入っていたという。 これでもキャスト変更が出ず、クレーム入れたら出たという、相変わらずの新国クオリティなんですが、こういうところはちゃんとしてほしいもんです。

ともかく、ファースト白湯組。 最初見たときは、ちょっともう一度お願いします!という感じでしたが、2回目はより良かった。 なんというか醤油系の方々ならではのシャープさのある踊り。

対するセカンド・デミグラス組はマイレン、輪島、小口(これだけでもう濃厚)、貝川、渡部、福田兄、原、髙橋、小柴。 濃いです、ほんとに。 そしてどん!と力強く、ガンとくる、というのでしょうか。 同じ演目でもこうも印象が違うか、という感じです。

こういう男性演目、トロイゲームも昨年やりましたが、もう一つくらいあってもいいですね。 男子充実の新国ですし、経験を積んでもっとステップアップしてほしいです。 せっかくDTFで振り付けする人もいるんだし、一つ作らせてみてもいいのに。

●米沢&奥村組:いたずら妖精のシルフィード

シルフィード」というタイトルとは裏腹に、登場人物がみんな黒いのがこの演目。 ブチ切れジェームス、結婚式の当日まで友人の彼女をねらってるグァーン、そそくさと乗り換えるエフィに、気難しくてプライドの高い魔女マッジ。 マッジに意地悪したばっかりに、嫁もシルフィードも全て失って息耐えるジェームス、という筋書きですから鑑賞後はぜんぜん爽やかじゃないですね。

でも演じる人が違うとお話のテイストが変わるから不思議。 特に新国はそれが明らかに見て取れるから面白いし、全キャスト制覇したくなるわけです。

して最初の米沢&奥村組。 いたずら妖精シルフとDQNなジェームス。 この2人のペアはかわいらしい。 唯ちゃんが最初から最後まで妖精。 妖精の心で人を誘惑し、恋します。 いたずらで、その恋する心も妖精のそれで、だからいらずらっぽい無邪気さ溢れる気持ちが踊りにも出ている。 人外はさすが、の唯ちゃんです。

そしてプライド高く、どこぞのボンボンなんでしょうか。 すぐブチ切れるジェームス。 デフォルト通りThe DQNです。

エフィに恋する福田グァーンがジェームスとエフィの間で一応揺れている。 まだなけなしの友情が残っているのか、ジェームス宅の長年の使用人か何かなのか。 とにかくジェームスに対し一歩引いている感。

寺田エフィがちゃっかり者というのか、とにかく結婚したい娘。 お金持ちでハンサムならなおよろし、という感じです。

高橋マッジがまあ見事に婆さん。 男性だから女性に成りきろうとするのでしょうか。 迫力あります、演技でかいし、奥村ジェームスとのやりとりも年の近い男性同士故か遠慮がない。 マッジも相当に気難しい婆さんですが、ジェームスも負けず劣らずDQNのガチンコ勝負です。

コールドにいる小口君が入ってくるなり「ううう~さぶっ」とばかりに暖炉に駆け寄るから笑う。 この人がいると、後ろが締まります。 奥田さんとのペアが微笑ましいです。

シルフィードに誘われ結婚式をすっぽかし森へ。 この迷いの間が絶妙。

そしてマッジに騙され魔法のショールをもらうわけですが、この「あ、金がほしいのか」という間も絶妙。 踊りもいいけど役者だなぁ!

ブルノンヴィル特有の足捌きや踊りも奥村君はクリア。 よく踊れる、ほんとに。 奥村君はここしばらく真ん中を踊る機会がなくて心配していましたが、やっぱりすごく踊れる人だと思います。

なにが起こったのか、わからないままのシルフィードの死。 妖精故、死、というよりは消えゆく感じがすばらしいです。 見えなくなったシルフィードのうつろな目。 唯ちゃん、さすがだなぁ。

そしてマッジに憎々しげに引導を渡されるジェームス。 眉間に縦皺の死に顔がいいです。 そして鑑賞後のどんより空気。

正当派シルフィード+αのお見事舞台でした。

細田&井澤組:人間になりたかった?シルフィード

この舞台が本公演では初主演の細田さんです。 待ってました!という舞台。 そして足音のない千晶ちゃんならではの踊り。 いつもの透明感にちょっと足りない感じがしたのは、やはり初主演の緊張でしょうか。 2回くらいチャンスがあれば……と思いましたが、踊りこなしたのは見事です。

なにより体重を感じさせない踊りは本当に見事。 真ん中のシルフィードにこれやられたら、もともと そんな音の立たない新国の皆さんとはいえ、コールドだってポワント音たてるわけにはいかないから大変です。

ジェームスは井澤君。 デフォルト王子ですから、農民にしては高貴な感じもしますが、それもまた若さ暴走の鼻持ちならないイケメン的なキャラになっており良かったなぁと。

木下グァーンが最初から虎視眈々とエフィを狙っています。 このジェームスとグァーンの間には友情はない。 堀口エフィはちゃっかり……というよりは、やっぱり娘らしくジェームスが好きなお嬢さん。

そして圧巻本島マッジ! 美女は魔女メイクをしても美女です。 ですからプライドの高い、危険な魔女感が一層募ります。 しかも元から女性ですから、酒飲んでぷっはぁー!の演技とか、なんというかオトコマエ。 実にカッコいいマッジです。 さすが女優本島美和。 天晴れ。

この組の男性コールドは小口君がMen Y Menに出てるため不在で、ちょっと淡泊。 彼はコールドを締めているんだなぁ、と改めて思います。

面白かったのはこの組はシルフィードの死の時、井澤ジェームスはずっと目を逸らしているんですね。 悲劇を直視できない。

だからこそ無邪気に、可憐にジェームスを見つめるシルフィードが哀れです。 最後の指輪をジェームスに渡し、さよならを告げるところは思わず涙出そうになりました。 「ああ、千晶シルフィードは人間になりたかったのかもしれない」と思いました、この瞬間。 「妖精と人間の報われない恋」というキャッチに、すごく近い世界だったかもしれません。

そんな余韻もつかぬ間、キョーフの本島マッジで思い切り現実に引き戻され、エフィの結婚式、天に昇るシルフィードの姿を目にし、苦しみながら息耐えるジェームス。 井澤ジェームスは顔を舞台に向けずに死にました。 最後まで現実を直視しないしさせないジェームスでした。

●長田&菅野組:妖艶シルフィードと生真面目菅野ワールド(笑)

マッジキャストを聞いて、予定していた東バの白鳥チケットを売って、こちらに乗り換えたキャスト。 前の菅野ホフマンの時も予定外なのに見に行ってすごいものを見せられましたが、今回も独特の菅野ワールド……というのでしょうか。 菅野さんの(舞台を見る限り)生真面目なキャラならではの、シルフィードの世界を見た気分です。 菅野さん、ホフマンで何か掴んだんでしょうかね。 実にいろいろ噛み合って面白い舞台でしたし、これは見て良かったと心底思います。

つまり菅野ジェームスは非常に生真面目、潔癖性というのか。 「こういう人いそうだよな」と思わせられる、等身大という感じです。 打算でなく、きちんとエフィが好きみたいですし(前の2人は村一番のかわいこちゃんだからという打算もありのような)。 潔癖ジェームス、隅々まで掃除して埃もチリひとつ許さん!という感じで、マッジに対しても、結婚のめでたい日にこんな巨大なゴミがぁっ!!という感じ。

また長田シルフィードが妖精に妖艶テイストを掛け合わせたような魅力で、バレ友さん曰く「美魔女」という言葉が非常に腑に落ちます。

そんなシルフィードに誘惑?されたら、生真面目すぎな人ほど惑わされ、それゆえ本気でズブズブはまっちゃうのかなぁ……という、妙な説得力がある。

さらに福田グァーンが、よりファニーなテイストで、結婚式の当日までエフィをあきらめ切れずにいるにしても、好き合ってるからしょうがない的に引いている。 シルフィードにたぶらかされて(笑)森へ行ってしまったあと、エフィが投げ捨てたヴェールを拾って「ひょっとして……チャンス!?」という漫才のような表情がとってもツボります。

こんな余韻を残して森で戯れる第2幕。 夢の別世界で妖精に愛を誓っちゃうジェームスなんて、うっかりぼったくりバーのゼロひとつ隠された請求書にサインしちゃうような感じすらあります。

マッジにショールをもらうところなんて本当に純朴。 そしてシルフィードの死。 え、何が起こってるの……???という感じの表情。

シルフィードの死と共に魔法が解けて、結婚行列で現実世界に舞い戻り、再び「何が起こってるんだ??」状態になっているかのよう。 さらに追い打ちをかけるようにマッジに怒られ(婆さんだって女なんだから優しくしてやらんといかん、ということか)、天に召される愛を誓ってしまった美魔女シルフィードに魂を持っていかれてしまった……。

こんな感じでしょうか。 愛の誓いが最後に効いた、というのか、請求書に隠されたゼロに仰天、そして昇天というのか。

いわゆる「ラ・シルフィード」のジェームスとしては白寄りで、ぜんぜん違う話のようにも思えますが、これはこれでありだという説得力。 菅野ワールドですね。 実に面白かったです。

また長田さんはやはり安定のクオリティ。 安心してみていられる技術です。 そして唯ちゃんの少女(というよりは妖精)、千晶ちゃんの年頃の娘に対し、大人の女性という感じでした。

●おまけ:クラスレッスン見学会

7日は午前中にクラスレッスン見学会がありましたが、これはやはり楽しいです。 コールドの女の子たちは別室でしたが、その分男の子たちを満喫できました。 本島、井澤、小野の並びが美女、美男、美少女の惑星直列でまぁまばゆいこと! 張り切る男の子たちを見ていると若手、中堅どころが確実に伸びてきているんだなぁと頼もしく思います。 渡部君、彼はやっぱり上手だし、ちょっと小さめですが末頼もしいです。 彼には大昔の八幡君がよぎる味わいがありますよ。 イルギス先生が丸くなってて笑いましたが。 小口君の積極性に感心しました。 雄大君があまりにスリムで気づかないほどでしたが、なんで衣装着ると肥大化するんだろう。

というわけで、このダブルビル、あとは11日の最終日、小野&福岡組を残すのみです。 マッジが本島さん。 VS福岡との容赦ないガチンコ勝負が見られるのではないかと、期待しております。