arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「Men Y Men/ラ・シルフィード」(2):四組四様とMVP

2月11日、新国立劇場バレエ団「Men Y Men/ラ・シルフィード」の最終日です。

最終日とあってMen Y Menはより完成度が高い濃厚な舞台。 そしてラ・シルフィードは小野&福岡鉄板組に本島マッジだったのですが、実にこのマッジが圧巻。 脇の木下グァーンも細田&井澤組とはまた違ったアプローチで、人によって脇のキャストまでここまで変わるかというおもしろさを見せていただきました。

結果的に四組四様で実に楽しかった。 役者揃いだわ、ほんとに新国さんは。 キャスト表→http://www.nntt.jac.go.jp/ballet/news/1516_La%20Sylphide.pdf

●Men Y Men

デミグラスソース組(こちら参照)。 それぞれの動きが二回目とあって一層パワフルで、寄り完成度の高い踊りになっています。 小口・輪島の並びがこれまた濃厚。 小口君は動きから首の振りの一つひとつに「小口節」が効いていて、それがとても独特の味わい。 こういうコンテの中でそういう動きを出せて、一種世界を作り出せるというのは、いいなぁと思います。

そういう意味ではこの組には貝川、マイレン、福田兄、小口と振り付けをする方々が揃っていましたが、そういう方々ゆえの、コンテ作品ならではの踊りの相乗効果というのもあったかもしれません。

こうした作品をいろいろ踊ることで、また次の創作に生かせればいいなぁ。 もっと現代作品増やしてほしいわ、ほんとに。

ラ・シルフィード

最初に登場した絢子シルフィードが、まるでティンカーベルのように小さくてかわいいこと。 この組は原典解釈を突き詰めて取り組んできているなぁというのがよくわかります。 そうしたなかで雄大ジェームスが彼なりに(笑)、ジェームスの行動に説得力を持たせようと努力しているような。 幕が上がった時点でシルフィードにとりつかれ、「このまま結婚していいのだろうか」という、自分の心に迷いを持っているように見受けられます。 そこに本島マッジ登場で一気にイライラやらモヤモヤやらの思いが炸裂してしまったかのようです。

木下グァーンは井澤ジェームスの時は堀口エフィに堂々たるアプローチで、ジェームスに対して遠慮も何もなかったのですが、雄大ジェームス相手だとなんか一歩引いた、しかしエフィへの熱い思いはしっかりと感じられます。 相手が違うとこうも違うのか。

それでも何よりも光るのが本島マッジ。 先の井澤組より一層演技は大きく、存在感がすばらしい。 シルフィードが残酷な無邪気さも含む「白」の世界の妖精だとすれば、光を知るからこその「黒」のようなマッジの存在の対極感がくっきりと浮き出ているようで、そこにわかっていてもハマってしまう人間の心の弱さや迷いなどが絡み合い、お話に深みが増すかのようです。

天罰が下るよ!というマイムなんか、マッジは魔女であり、森を統括する妖精の如きなにがしか、という感じもします。 デフォルト美女の本島マッジにしかできない、美しい恐ろしさです。

結局全キャストを見ましたけど、今回の公演通してのMVPは本島マッジだったですね。 本当にお見事でした。 すばらしい女優。 こうした濃厚な演技のできるベテランは、新国さんは大事にしてほしいです。 「物語バレエをやりたい」という大原監督の弁ですが、ならばこういう人はなおさら必要です。 大人の物語、大人の舞台を作り上げるためには欠かせない人ですね。 次に彼女が何をやってくれるのか、ぜひ適材適所の配役をお願いしたいものです。

というわけで、新国の舞台は、次回はDTF。 ダンサーによる振り付け作品の発表です。

過去の映像動画→https://www.youtube.com/watch?v=1hQx1NkP9FI これは普段前に出てこないダンサーさんなども見られるので、毎回楽しみにしています。