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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「アラジン」(1):やはり新国の宝物

新国「アラジン」、5年ぶりの上演です。 6月11日、12日、18日、19日の4日間見てきました。 どの日もとても熱が入っており、この演目がダンサーさんにとって実に大切なものだという思いがひしひしと伝わってきます。 特に初日は振付の前監督ビントレーさんも登場し、お帰りなさいの盛大な拍手。 大切にすべき、宝物のような演目を残してくれたなぁとつくづく思います。

思えば「アラジン」、2008年の初演時は八幡・小野ペアで見ました。 その時は2人が1日のみの初主演ということもあり、「一生懸命やってるなぁ」ということと、「アラジンの原作は、実は中国が舞台だった」ということだけがやたら印象に残るにとどまりました。

続く前回2011年公演、初演時に振付家だったビントレーさんが監督となり、また主演ペアも経験を積んだことから、初演時とはまるで違う出来。 そしてその時に収録されたDVDを見るほどに、この作品の奥深さ、脇を含めた登場人物、振付に至るまで、これが新国のダンサーのためにつくられた、実に愛おしい作品だなぁと思っておりました。

して今回はアラジンはもとより、ビントレー作品自体を初めて踊るダンサーも半分くらいいたので、相対的な完成度は前回と比べるとどうか、という点はもちろんありましたが、それでも今回アラジンとプリンセスを踊った福岡&小野、奥村&米沢、そして八幡&奥田ペアはそれぞれの持ち味が出ていましたし、ジーンの福田、池田、井澤、マグレブ人のマイレン、菅野各氏も、人によっては想像以上の面白さと新しい扉を開いて見せてくれたと思います。

それぞれ主演別に。

●6月11日福岡&小野:実は日本初公開ペア

新国の看板ペアの2人ですが、実はこのペアで日本でアラジンを踊るのは初めという。 バーミンガム・ロイヤル・バレエでこの演目を上演したときに初めてペアを組み、英国で先に踊ったという、英国デビュー作品でもありますから思い入れもひとしおでしょう。

[caption id="attachment_336" align="alignleft" width="350"]araddin 2008年初演時パンフレットの解説より[/caption]

して1幕。 アラジンは中国人、という原作設定をアラビアの町に置き換えた世界は、まるでどこかのシルクロードの国を思わせられます。 ありますよ、こんな町。 なんとかスタンとか、さらに西の方、オアシスの町とか。

そしてアラブ人街の移民か華僑の息子である福岡アラジンは、そこでたくましく生きている。 福田・木下の友人を引き連れた、暴れん坊アラジンでガキ大将です。 また町の人たちの演技も実にいい。 初日で結構生き生きと動いていますから、これは千秋楽までに素晴らしくこなれそうです。 砂漠の風の踊りがこの日は非常に臨場感があって、いかにも過酷な熱風に翻弄されている感じ。 そして同時に美しい。 この踊り、こんなに味わい深かったのかと、今回改めて知ります。

福岡アラジン、印象的なのはプリンセスの幻影のシーン。 もうあの瞬間魅了されているというのが表情から伝わってきますし、小野絢子姫のプリンセスが実にたおやかで美しいです。 さすが元祖プリンセス。

1幕のハイライト、宝石の洞窟。 初日ですから多少ブレとズレはあったものの、やっぱり見応えのある場面です。 エメラルドの小柴君、前回のドン・キホーテの時にエスパーダデビューしたときはどうよ、と思いましたが、あれで何か得たものがあったのでしょうか、今回は堂々たるエメラルドです。 一緒に踊ったのが寺田・細田という前回もエメラルドなお姉さまたちだったのもよかったのかもしれません。 本島サファイアがさすがの美しさと存在感。 主張しつつ立ち位置を抑えるその存在感が絶妙です。 女優本島、もっと見たいです。 ルビーの長田・中家が実に大人。 今シーズンから加入の中家さんはすっかり馴染んでいて、アラジンの友人の木下君共々、もう5年くらい新国にいるみたいです。 ダイヤモンドの唯ちゃんは卒なく決めてます。

地味に好きなのがアラジンの帰りを待つ母のシーン。 今回は前回に続き、福岡・小野ペアの日のみ楠元さん。 母慣れしていて、盤石の滑らかさです。 砂漠の風、宝石の洞窟の音楽のフレーズを使いながら、どんな冒険をしてきたか語るこのシーンは実によくできてるなぁと、しみじみ。 コミカルな親子漫才みたいでもあり、でもなんだか親子の情が伝わってくるのがいいんですよね。

そして路地裏の洗濯物がどーっと落ちて魔人ジーンの登場。 この池田君の何者!?感がすごいです。 メイクのせいもあってソフトな池田君の面影が感じられない、完全別人の雰囲気。 仰天しました。

そしてリアル・プリンセスとの出会い。 プリンセスは実は寂しいんですね。 お輿から降りるとみんな下を向いてて、花をくれる娘もすぐに去ってしまう。 アラジンだけがじっと姫を見つめている。 この出会いのシーンは実にドラマチックですし、沈黙と空間ですごく気持ちが行き交います。

姫を見送るアラジンの背中。 恋した背中を追いながら1幕終了。 この時の音楽がまたドラマチックです。

2幕。 プリンセスの湯あみの場に忍び込むアラジン。 「大胆」とか言っている場合じゃなくて、立派に犯罪なんですが、しかしアラジンに惹かれちゃう姫(笑) しかし侍女に発見されてつかまります。 このときの裁判官に訴える侍女の「家政婦は見た」マイム、今回は誰だったんでしょう。 DVDにも収録されている大和さんの名演にはまだ遠くとも、頑張った感いっぱい。

プリンセスの父が菅野さんなんですが、これがまた腹に肉襦袢まいてゆっさゆっさ、ファンキーに登場します。 菅野さんと絢子姫って、以前「マノン」の時のレスコーとマノンでも感じましたが、血縁役が妙にハマりますね。 前世で家族だったんじゃないかと思うくらい(笑)

あわや斬首のアラジンを止めようとする母、そしてプリンセス。 母がこっそりランプを渡して、ジーンの登場です。 ああ、母も逞しい(笑)

このジーン登場のトランス状態かという踊りが2幕の見せ場のひとつで、ノリがいい分、踊っている方は本当に倒れるんじゃないかとヒヤヒヤです。 しかも池田ジーンは振付が少し変わっている。 後の公演を見て振付変更は池田君のみだったので、池田ジーン仕様だとわかりましたが、今回の3人のジーンのなかで1人だけ、体格が少しむっちり系(でもちゃんとダンサー体型)の池田君にすごく合っていたと思います(単に最初の連続2回転ができなかっただけかもしれませんがw)。

そもそも振付したビントレーさんはジーンのキャラをは「小柄で一番動ける奴」という指定をしましたが、動けるが小柄じゃない池田君は、従来のデフォルト吉本ジーンとは別タイプの新しい魔人を生み出したかもしれません。 して、池田ジーンを見つめる楠元母が、「よく踊り切った」と言わんばかりの拍手(笑) どっちの母ですか(笑) 池田君は翌日の奥村&米沢ペアの日も踊りましたが、2日目はたった1日で進化させ、見事に場を魔法にかけました。 この感覚を忘れないうちに、もう一度、早いうちに再演してほしいものです。 いいジーンができるよ、きっと。

というわけで、結婚式のパドドゥ、そしてライオンダンス。 この中国獅子舞、特にアラジンが獅子舞の中の人に気付いて、最後一緒に踊るところがすごく好きですね。 「アラジン」の三馬鹿の友情が見えていいなぁと。 宴の後に登場のマグレブ人。 さすがのマイレンさんは、歩くだけですごみが伝わってきます。 この財宝は本来俺のもんだろうが!と欲丸出しのあとに、さてどうしたもんかと画策を練るところで幕。 この余韻! さすがです。

3幕。 アラジンが友人と狩りに行った隙に変装したマグレブ人が「ランプいらんかねー」と現れ、プリンセスが魔法のランプを渡してしまいます。 姫は敵となったジーンに連れ去られ、囚われの身に。 マグレブ人のハーレムに忍び込んだアラジン、そして姫との再会です。 この時の再開のパドドゥがとても好きです。 しかもこのペア、絢子姫がジャンプして雄大君の肩に乗る時に、まるで磁石で吸い付くかのように自然に乗ってってびっくり。 まさに息の合うペアの真骨頂というのか。

マグレブ人の盃に眠り薬を仕込んで脱出しようとするシーン。 この眠り薬の仕込み、飲ませる前にプリンセスがご丁寧にちゃんと盃回して混ぜる所が芸が細かくて好きですねw そして魔法のランプを奪還し、マグレブ人をやっつけ、空飛ぶ絨毯で帰還。

帰還の大団円は祝祭感あふれて幸せ感満載。 アラジンの友人、アラジン母、プリンセス父にジーン等々、キャラクターへの愛情が溢れてて、みんな愛おしいなぁと思わせられる場です。 プリンセスとアラジンの「大事なもの」を確認し合うパドドゥのあと、アラジンはジーンを開放します。 ランプの魔人は自由の身に。 このあとどこへ行くのでしょう。 「ご主人様」もなく、心のままに、ひょっとしたらアラジンたちをどこかから見守ってくれているんじゃないかと、そう思わせられます。 ドラゴンダンスも登場して華々しいハッピーエンド。

最後にビントレーさんが登場し、この日一番の盛大な拍手とともに、カーテンコールが延々と続きました。 絢子姫が緞帳前にビントレーさんを連れ出してきてくれたのが実にツボです。 雄大・絢子・ビントレーさんの3人が肩を組んで並んでいる姿を見たら思わず涙。 いろいろ最近のバレエ団の謎の動きを見るにつけ、どうしてもビントレー時代を懐かしく思ってしまいます。 宝物のような昨比を残してくれたことへの感謝とともに、願わくば帰ってきてほしい……そんな思いも感じられた拍手でした。

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