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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「アラジン」(2):元祖アラジンの「ing」

6月18日、新国立劇場バレエ団「アラジン」はこの日一日だけの八幡・奥田ペアです。

そもそもアラジンは八幡・小野ペアのために振り付けられた作品です。 今回はペアがバラバラになり、八幡君のプリンセスは奥田さんになりました。 でも奥田さんはビントレー前監督の退任公演となる「パゴダの王子」でプリンセスに抜擢された、いわばビントレーっ子であり、置き土産のようなダンサーさんです。

して、この奥田さんは身体能力はもちろんのことですが、頭の柔軟性と機転が素晴らしく良いのでしょうか。 踊っていくうちにどんどんプリンセスになっていくんですね。 しかもその変わっていき方が半端ない速さ。 「打てば響く」というのでしょうか。 絢子姫や唯ちゃんとは違い、登場したときは「なんて庶民的なんだ」と思いましたが、湯あみ場での再会、さらに結婚式と場が進むにつれどんどんキラキラしてきて、3幕再会のパドドゥはもう本当にかわいらしい。 「アラジン大好きっ!」って感じが全身から満ち溢れていて、きゅっとなりますね、心臓(笑)

そしてやはり「アラジン」を仕切る、アラジンたる八幡君がすごい。 主演が話を作るとはこういうことかという、元祖としての、プリンシパルとしての意地と誇りが炸裂しています。 踊りはもちろん、振付や動き、空間の構成一つひとつに至るまで、すべてが八幡基準でできている作品なんだというのが実によくわかりますし、八幡君の動きやマイム、表情一つひとつで、場に色が醸し出されます。

またさすが回数を重ねているだけあってか、音楽との一体感も見事です。 そもそもこの「アラジン」の音楽、作曲者のカール・デイビスさんがバレエ音楽として作曲したもので(イングリッシュ・ナショナル・バレエで過去に上演されています)、音楽自体も非常に雄弁です。 砂漠の風、宝石などそれぞれのテーマがモチーフとして場面説明で使われる上、登場人物の感情も音楽で表現されていて、これだけでもかなりお話の世界が想像できる。 さらに緻密な振付に、ダンサーさんの演技が加わるわけですから、そりゃあ濃厚。 そして踊るのは誰よりもこの「アラジン」である八幡君です。 一つひとつの場面が実にわかりやすく、気持ちが伝わってきます。

またこの日はアラジンと友人青以外の主要キャストはプリンセス、母、プリンセス父、マグレブ人とほとんどが初役なんですが、そうした方々をベテラン・アラジンが実によくリードしていて頼もしい。 もう見事としか言いようがない。

これが成長であり進化であり、作品を育てるということか。 初演、再演、再々演と八幡アラジンを見続け、まさに作品が進化していく「ing」を見ている気分でした。 バレエ団が育て、またダンサーも育てられ成長できる作品があるということがどれだけ幸せで貴重なことか。 本当に素晴らしい作品を手に入れていたんだなと、改めて思います。

して、洞窟の宝石、ゴールドに小口君が入ると実に締まります。 初日、2日目とジーンをやった池田君は後半はうってかわって、ゴールドで登場。 タイプの違う踊りをこなしていました。

エメラルドの林田君が実に楽しそう。 また細田千晶ダイヤモンドが美しいです。 透明な気品に溢れ、またコールドがどんどんよくなっています。

ジーンはこの日は井澤君です。 イケメンというのはどんなメイクをしてもイケメンなんだなと思えども、イケメン過ぎてスタイル良すぎて、魔人というにはなんだか奇妙で魔人らしくないというのか。 脇役なんだから少し気配消したらどうなんだろうと、やはり感じてしまいました。 しかもやっぱり身体固い。 煙の魔人なんだから、柔軟性は大事だし、床にへばりつくくらい「へへーっ」とやっていいんですけどね。 なんつーか、頭が高いんですよ、ジーンにしては。 いろいろ経験を積ませたいんでしょうが、今回ばかりはキャラ的にもジーンは無理に井澤君にしなくてもよかったような気がします。 悪くはないけど、特別いいわけでもない。 もっと適役がいそうだなーと思いながら見ていました。 そういえば高橋一樹君はどこに行ったの? 今回出ていなかったようで心配なんですが、彼は前回の「パゴダの王子」で道化をやっていましたし、彼がジーンかと思っていただけに、どうしたのか気になります。

アラジン母は丸尾さんです。 実はすごく楽しみにしていたのがこの丸尾母です。 そして期待を裏切らない母っぷり。 1幕の行方不明になった息子を待つシーンでは、悲し気に探しながらも「えいこんちくしょう!」と怒り、やっぱり寂しそうなのがいいです。 別日では気品あふれるシルバーを踊っていたのに、この日は腰曲げた母ちゃんで、息子大好き。 2幕ジーンのダンスでは一緒に踊っていたりと、可愛いです。 とってもチャーミングです。

裁判官が付け髭をつけちゃうと誰が誰だかわからなくなってしまうんですが、一番右側にいた裁判官は、18日以降の後半からは身体ゆっさゆっさとゆすって登場。 何かしら頭使って考えて工夫してきたのだとすれば、結構頼もしいです。

マグレブ人の菅野さん。 これが最初はえっ?と思うキャスティングでしたが、ホフマン物語でやっぱり演技者としてなにかきっかけをつかんだのでしょうか。 いい人キャラを封印して完全に強欲で厚かましパワハラ上司です。 新しい扉を開いたのでしょうか。 最近演技にも磨きがかかってきて、ここにきてますます面白くなり始めている人です。

八幡・奥田ペアのほんわかと優しい空気に包まれながら、感動的な大団円。 八幡アキミツここにあり。 そういわんばかりのアラジンでした。

願わくば、もう一度彼で見たいですね。 この感覚を忘れないうちに、再演を望みたいところです。 あの豪華なセットもお蔵入りはもったいないし。