arTravel: art × Travel/旅×アート

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「アラジン」(3):顔芸細やかな奥村アラジン

 

[caption id="attachment_356" align="alignright" width="295"]レストランの「アラジン」メニューにこの日の主演2人のサイン レストランの「アラジン」メニューにこの日の主演2人のサイン[/caption]

6月12日、千秋楽19日と2回見た、奥村アラジン&米沢プリンセスです。 12日はジーンが池田君、マグレブ人が菅野さん、アラジンの友人が福田&木下ペア。 19日は同順に福田、マイレン、江本&宇賀。 今回はキャストが微妙にシャッフルされていて、それもあってこのペアを2回見ることになりましたが、感想は千秋楽を中心に。

なんといってもまず、奥村アラジンです。 以前男子バレエ雑誌のインタビューで「ぜひ踊りたい役」として、このアラジンを挙げており、私的にも膝を叩いてぜひ見てみたいとずっと思っていました。 また奥村君は演技も達者でノリがいいので、同じく素晴らしい演技力を持つ米沢唯ちゃんとのペアはとても期待できるものがありました。

して、奥村アラジン、1回目12日は踊りがクラシック的に上品なところも多々あり、バレ友さん曰く「どこかのスルタンの御落胤のようなアラジン」。 逆ジゼルかい(笑) 踊りはハードですからスタミナ面も心配でしたが、やっぱり最後はヘロヘロ(よく踊り切った)。

でも千秋楽はあっという間に成長して、やんちゃ炸裂です。 細っこい身体を目いっぱい使って、舞台が狭すぎるくらいにのびやかに跳びまわり、踊り回ります。 もうそれだけで楽しい。

また奥村アラジンは本当に表情が豊かなバカ息子です(笑) こまかい顔芸やしぐさの一つひとつが笑いのツボを突いていて、とくに千秋楽は客席のノリもよくて奥村君が何かするたびに笑いが起きます。 ホント、おバカです。 バカな子ほどかわいい、というのはこの奥村アラジンのためにある言葉ではなかろうか(笑) そして千秋楽はそのおバカアラジンを見守るような江本兄さんと宇賀兄さんという友人が、またいい感じです。

江本兄さんは特に時期は登録ダンサー移行が発表されており、この日が(ひとまず)最後ということもあり、踊りの一つひとつを心底楽しんでいるようでした。 江本さんの踊りは派手さはないけど堅実で滑らかで、リズム感もあって歌うようです。 ライオンダンスはいつもより尻尾がぴこぴことよく動いていて、宇賀君もよく頑張ったなぁと。

アラジン母の丸尾さんもまた、奥村君と組むと関西系のノリが一層炸裂するんでしょうか。 この丸尾&奥村親子は一事が万事漫才。 ノリツッコミの呼吸が最高で、丸尾母さんの見えないハリセンがビシバシ飛んでいるようでした。

顔芸も細かい奥村アラジンは、でも時々思わぬところでほかの2人(八幡・福岡)のアラジンとは違ったアプローチをしてきます。 プリンセスの幻影を見つめるシーンは顔芸すら忘れて?ただただ口をあけてぽかんとする表情。 考える、感情を抱くということすら忘れて、プリンセスを見つめる無の表情なんて、思いつかなかった…。 こうすけ君…こわい子…!

また斬首になりそうなアラジンを助けるため母が命乞いをするシーン。 「私のかわいい息子何です」って母がアラジンに頬を寄せるシーンで「にーっv」って笑うか、そこ(笑) とんだバカ息子なんですが、本能にせよ計算したにせよ、そういう表現に行きつくところがただ者じゃない(笑) ほかの2人は母の愛を改めて知ったというシリアス顔なのに。

唯プリンセスもまた表情が豊かですから、お話の世界により深みが出ます。 またやはり小野・米沢はプリンシパルとして場数を踏んでいるだけあって、「姫」という高貴なオーラを出すのが見事です。 これは一朝一夕にできるものではないのだなぁ。

プリンセスの孤独感と、湯あみ場の覗き小僧との再会のパドドゥでただただアラジンを見つめるプリンセスの凝視の眼差し。 そしてあわや斬首のアラジンを助けるとき思わず飛び出し「この人が好好きなんです」と言ったあと「えっ、私何を言ったの」という独自のリアクション。 プリンセスがだんだんと惹かれていく様子がわかります。

そして誘拐後の再会。 ブルカを脱いだあとの奥村アラジンの助けに来たぜ!の跳躍の高さときたら(笑) てかブルカを脱ぐとき、3人のアラジン全員もれなく一度足を引っかけるんですが、偶然なのかそういう振りなのか??(笑)

それはともかく、3幕の再会のパドドゥ、あれよあれよと結婚した姫が、この誘拐と再会を通して本当に自分の気持ちに確信を持つような、そんな愛情と喜びにあふれているようで、本当に目頭が熱くなります。 泣けます。 ここは音楽も素晴らしくて大好きです。 「アラジン」で一番好きなシーンですね。

千秋楽の福田ジーンは再演時のセカンドキャストで、元祖吉本さんの流れを汲む、小柄(細身)系のすばしっこいジーン。 回数を重ねてきただけあって、存在感が断然違います。 そしてやはりジーンの踊りはスペースも振付もその立ち位置も、大柄ではない人がやるように計算されているんだと、改めて唸りました。 でかいジーンじゃ、やっぱり邪魔臭いんですね(それを邪魔臭いと感じさせなかった池田ジーンはさすがでしたし、彼はやはり新しい、もうひとつのタイプのジーンです)。

2幕のトランスダンスも福田君はキレッキレです。 丸尾母さんはもちろん、千秋楽は裁判官も踊り出していました。 いいですね、楽しそうで。 またこのジーンのダンスはどうも子供の心を鷲づかみにするらしく、この4日間を通して客席で一緒に踊り出してしまった子供もいました(絶対やってほしくはないですが…)。

動きが鋭い福田君ですから、マグレブ人の手下になった時は怖さも感じますし、アラジンが奪還したときは(どのジーンもそうですが)うれしそうに「お呼びでしょうか、ご主人様」と出てきます。

そのマグレブ人が今回はマイレン。 このマイレンもまた江本さん共々、来シーズンは登録ダンサーに移行してしまうため(ひとまず)最後の舞台になります。 初演からずっとマグレブ人を演じ続けてきた人ですからもう、演技についてはもう何をいうことがあるかというものですが、そのせいでしょうか、この日は冒頭のマグレブ人がランプを求めるシーンで、なんだか永遠に手の届かないものを求める切なのようなものも感じ、ドラマチックな音楽共々ハナから目頭が熱くなる思いをさせられました。 そしてマイレン・マグレブ人の最期はいつも脳内で「ぶゎ~かぁ~なぁぁっっ~~!!!」という若本ボイスが再生されます(←わかる人にしかわからない。すいません)。

千秋楽はいつも一抹の寂しさが漂います。 冒頭の序曲から、そして再会のパドドゥ辺りからはもう切実に、「アラジン」の日々の終わりが切なくて泣けて泣けてしょうがなかったのですが、大団円の祝祭感がまたその思いを一層こみ上げさせます。 幸せで泣けます。 愛おしくて泣けます。 舞台の上にいるキャラクターすべてが、本当にチャーミングです。 そして、これを最後に登録ダンサーに移行するマイレンと江本さんがいるから、また寂しくて泣けます。 鼻水止まらなくて大変でした。

●カーテンコール、千秋楽スペシャ

カーテンコールは千秋楽スペシャル。 特別にアラジンの友人、江本さんのカーテンコールもありました。 嬉しいです!やってくれた!

実は今回アラジンのリハーサル見学会のご相伴に預かったのですが、その際の質疑応答で「引退する人、登録に移行する人が特別にカーテンコールに出ることはないのか?」という質問をしたんですね。 海外とかよそのバレエ団でも、引退する人がカテコに出ることはあるし、新国さんはいつも気が付いたら人がいなくなってる。 それはダンサーさんに対してもあんまりだし、応援してきたファンにしても、サヨナラ&感謝の拍手さえできない、と。

それを聞き入れてくれたのだとすれば、感謝に耐えません。 江本さんを拍手で送りだすことができて嬉しかったし、江本さんも嬉しそうで、緞帳前ではお獅子の頭がぴょこっと顔を出すパフォーマンスまでしてくれて、また泣けました。 この日のカーテンコールは絶対に忘れません。

江本さん、マイレン、お疲れさまでした。 開幕はロミジュリが控えているので、ぜひまた熱い演技やリズム感に溢れた踊りが見られればと思います。

そしてアラジン、つくづく素晴らしい作品だと、改めて思います。 間違いなく新国の宝物ですし、お蔵入りにする理由は何一つありません。 「男子ダンサーなら、アラジンかジーンは踊りたい」 そう世の男の子ダンサーに思わせるくらいの作品に育ててほしいと思います、再演を重ねて。

[caption id="attachment_354" align="alignright" width="321"]「アラジン」のスペシャルドリンク、いただきました。マンゴー風味 「アラジン」のスペシャルドリンク、いただきました。マンゴー風味[/caption]