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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「こどものためのバレエ劇場 白鳥の湖」(2):スリリングなドラマ

7月21日、「こどものためのバレエ劇場 白鳥の湖」こと「こども白鳥」、引き続き午後の米沢&井澤組です。

が、中家さんのロットバルトの予定がいきなり降板。kodomohakuchou3 急遽、これまた絶賛売り出し中の小柴君の登場となりました。

して小野さんと並ぶ2枚看板のもう一枚、米沢唯ちゃん。 正統派の絢子姫に対し、唯ちゃんなりの、スリリングでドラマチックなお話でした。

王子の井澤君は2シーズン目を終えるところ。 王子役が板についてきて、演技力も最初に比べると格段に向上しています。 彼は頭を使っていろいろ考えて舞台に挑んでくるようです。

またこども白鳥、一律料金で座席は早い者勝ちゆえ、ここぞとばかりにオペラパレスの1階席で見るわけですが、近いと見えるものが違う。 井澤君はやっぱり王子のオーラがある人だなぁ……と改めて感じます。

 

kodomohakuchou1王妃が仙頭さん。 美しいのですが、午前中のかわいらしく慈愛系&女優の本島王妃に対して氷の能面というのでしょうか。 継母か。

道化が、これも超絶技巧系の役どころの2枚看板ともいえる福田君。 動きがファンキーなのに、細かい気配りがあったりと甲斐甲斐しい道化です。 そして踊りはキレッキレのダイナミックさで魅せてくれました。

さて、米沢白鳥ですが、人外には定評のある唯ちゃん、やっぱり白鳥の鳥加減がいいです。 なんだか本当に鳥らしく、ロットバルトの魔法でもう人間としての記憶もギリギリなんじゃないかと思わせるような白鳥です。 王子と出会って人間らしい気持ちを取り戻したような風にも思えます。

4羽の白鳥は、この回は奥田、広瀬、石山、五月女という見慣れたサイズ、見慣れたダンサーの方々。 こんなに前で見ているのに本当に足音が少なくてびっくり。 どうしたってパカパカ言いそうなところが実に静かで、この組は一種職人集団でもありますね。 広瀬さんが午前、午後と一日2回も4羽の白鳥って、怪我上がりだと思いますが、これを4日間とは! 無事に日程終えられますように…!

ロットバルトの小柴君は、絶賛売り出し中……というより、絶賛修行中というべきでしょうか(笑) スタイルと大きさゆえか、最近非常に機会を与えられている人ではあります。 が、「ドン・キ」の(まさかの)エスパーダから、「アラジン」エメラルドとよくなってきていますが、ロットバルトは難しいのでしょうね。 踊り慣れた貝川さんを午前中に見ただけに、相当に及ばないです。 健闘はしていましたが、中家さんの分まで回数はこなせますから頑張れー。

そういえばこのこども白鳥、オデットのお付きに大きな2羽の白鳥がいるのですが、午前は丸尾さんじゃない方、午後は堀口さんじゃない方がちょっとあんまりというか、ダメというのか見苦しいというか、ずっといる人との差がこんなにでかいのかというクオリティ(新しい人だと思います。名前はわかりません)。 体型もでかいというより、太い。 動きに品がないしバタバタしてて、片足で立ってても膝曲がってるし。 総じて素晴らしい舞台のなかで、このお付き白鳥のぶっとい方だけ、露骨に眉間にしわが寄りました。 新国は男子が充実してきている分、女子の、特に新加入組にそろそろ差がつき始めているような気がします。 1階席でいつも以上に表情がしっかり見える分、見えなくてもいいものまで見えたかも。 白鳥ってごまかしが効かない作品なんだなと、改めて思いました。 白いチュチュは、過酷なまでにすべてをさらけ出しますね……。

とまれ、3幕の黒鳥ですが、この黒鳥唯のワルイこと! いつにも増して小ズルさ炸裂。 目線がいたずら……というよりもう完全にハナから騙してやろうというずるいニヤリな光。 そして純に堕ちていく井澤王子。 冒頭の黒鳥の腕を引く王子がホントに堕ちていく感じ、駆け引きの感じの水際感が非常に出ていて、ドキドキしました。 小柴君も3幕のロットバルトはいい感じです。 マントは湖のロットバルトの羽より扱いやすいんでしょうか。 白鳥のチュチュ同様、黒い羽根と動きのみですべてを表すのは、かなり難しいのかもですね。

グランパドドゥは絶対無比の安定感。 余裕しゃくしゃくのグランフェッテは安心してみていられる……というより、唖然とします、何回見ても。

スペインはこの回は宝満&福田紘也、ナポリが小野寺君に女子が奥田、盆子原、五月女と、これまた見慣れた方々。 宝満君が午前午後と2回出ていましたから、どちらかが池田君だったのでしょうか。 発熱リタイヤで見られなかったのは残念です。 しかし宝満君は黒が似合う、セクシーです。

4幕、やっぱりロットバルトと王子の戦いがわかりやすく、勝利して、ロットバルトがしっかり消滅していくラストはすっきりします。 ハッピーエンドでなくたっていいんですが、でもここまでオトシマエをきっちり描いてくれればハッピーエンドでもいいですね。 本版のラスト、これに変えればいいのに。

そして力尽き、王子に起こされ人間に戻ったことを知る唯オデット。 彼女はこういうドラマの部分もとても丁寧で、物語のラストに余韻を与えてくれます。 スリリングでドラマチックな白鳥でした。

というわけで、新国としては今度は11月「ロミオとジュリエット」までもう舞台がありません。 寂しい~(ノД`)・゜・。

あ、このこども白鳥は高松公演があります。 9月19日(月・祝) http://www.sunport-hall.jp/event/main/2016/swan.html

主演は米沢&井澤組。 高松の皆様、ぜひ期待してくださいませ。

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