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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「こどものためのバレエ劇場 白鳥の湖」(3):新加入王子を見に行った

7月24日、「こどものためのバレエ劇場 白鳥の湖」こと「こども白鳥」、午前の木村&渡邊組を急遽見てきました。 どうしようかかなり悩んでいた組ですが、当日券が「若干枚数」出たので、朝一でGET。 物事はやはり「肯定」から入らなきゃいかんわ。

[caption id="attachment_383" align="alignright" width="400"]kodomoswantoulouse トゥールーズ。ラングドックもといオクシタニア地方の都[/caption]

気になっていたのは新加入の王子、渡邊峻郁氏です。 モナコで学び、キャピトル・ドゥ・トゥールーズでキャリアを積んで入団、という経歴ですが、「トゥールーズ」というあの赤煉瓦の街、オクシタニアの古都に並々ならぬ思い入れがある自分としては、あの街の、あの劇場で踊っていた人と思うと、やはり気になるわけです。

しかも「三銃士」のポルトスを踊ったと聞いたら、「三銃士」ヲタでもあるゆえに、そりゃあ見たくなるわ。 実はこの渡邊氏が出演したキャピトルの「三銃士」、そうとは知らず見に行く気満々でトゥールーズ遠征の準備をしていたのですが、結局仕事の都合で行けなくなったという、いわくつきの公演なんです。 もし行けてたら「日本人の男の子がポルトスを踊ってた!」と大騒ぎだったかもしれません。 かなり横滑りな思い入れですが、まあヲタってのはそんなもんです(笑)

前置き長くてスイマセン。

というわけで、あ、ありのまま、その日見たことを話すぜ。

このこども白鳥は王子が真ん中で立っている状態で幕が開き、お話が始まります。 子供向けということもありますが、新国本版(牧版)よりよっぽどよくまとまっており、一方で演技や力量のバランス次第で王子の物語になる可能性もあるなと感じました。

して、1幕。 件の渡邊王子の第一印象は新国のベテランプリンシパル、リーマン菅野さんを彷彿させる、リーマン2とったタイプ。 王子の髪型、横分けのせいもあるからでしょうが、キラキラ派手なタイプではない。 やはり誠実そうで、職務に忠実なリーマンタイプというのが一番しっくりきます。 身長は想像していた以上に高いですね。

王子の成人式から道化、家庭教師とのやり取りといった小芝居は自然にこなしている。 海外で修業した人は、やはりてらいなく感情表現ができるのでしょうか。 小野寺道化が王子に寄り添う感じで、2人の息が思った以上に合っているようにも見えます。 ヴァリエーションの踊りも丁寧だし、跳躍も高い。 弓を持って退場する一瞬の間など、彼なりに王子像を作って考えてきています。 そういえばすぐ近くの席に、渡邊氏新国デビューを大々的に報じた福島の新聞の切り抜きを大事そうに眺めていたお婆ちゃんがいましたが、ひょっとして郷里から応援団が来ているのでしょうか? そうだとすれば、この公演はかなり気合いが入っていたことでしょう。

2幕、湖。 kodomohakuchou1オデットは木村優里ですが、白鳥のコールドを背にして立つオデットだけがまるでJKというよりJCというより、マジで幼児に見えて唖然。 彼女は手足は長く、小顔でスラリとして身長もあり、非常に恵まれたスタイルのはずなのに、また日本の女子のバレエダンサーは総じて皆さん細いのですが、それにしたってここまで幼児に見えるとは……。 一体どれだけ内面子供なんだろう???? これじゃあ恋愛以前に、結婚年齢にも達してない姫です。 お話はこの時点で終わった(笑)

踊りは必死に丁寧ではありますが、おそらく大原監督の指導通りのまま踊っているのでしょう。 見ていて、大原監督の個性的な指導声がすこぶる容易に想像できました。 ともかく彼女は舞台経験がまだまだ圧倒的に少ないので、それを考えれば、特に度胸にはとんでもなくすごいものがあると思いますが。

まあそんなわけで、予想はしていましたが、女性主演に表現力・演技力と意思疎通能力が絶対的に未熟以前に皆無と思えるほど(てか、これじゃあ物語バレエの主演は無理だし、「シンデレラ」でキャスティングされなかったのも納得。無論ほかの2年目&新人にどれだけ力量があるのかわかりませんが)。 頭使わなくても、ナレーションが全部語ってくれてる「こども白鳥」でよかったねぇ、と激しく思いました。 しかしド新人とはいえ、新国の看板背負って、絢子姫や唯ちゃん、長田さんと名を並べて主演として舞台に立つ以上、きれいに踊る「だけ」の、発表会レベルの舞台は勘弁願いたいし、まずちゃんと頭を使ってほしいもんです。 恵まれた容姿など、ポテンシャルは秘めているのでしょうから。

一方2幕の渡邊王子ですが、これがまた福岡、井澤とは全然違うアプローチや表情を時折見せ、彼なりに王子の心の動きを表現しようとしているのがわかる。 オデットと湖で出会い、心がときめき「初めて恋を知る」気持ちが動きや視線で伝わってきます(相手が幼児で気の毒すぎるほど)。

パートナーが未熟なため表現の面では気持ちが通い合う以前の問題ですが、渡邊王子はとにかく職務に忠実に、(子守りも含め)自分のなすべきことをこなしています。 トゥールーズで西洋人の姉さんたちを持ちあげていたせいもあるのでしょう、リフトが安定しているのが頼もしいです。

4羽の白鳥が五月女、奥田、石山、広瀬の鉄板メンバーなんですが、これが進化していてすごかった! 前から1桁代の席にいたのに、足音がほぼ無音で、逆に「聞こえる?」と耳をそばだててしまうくらい。 口ぽかーんで見入ってしまう見事さで、こんなクオリティの4羽、そうそうお目にかかれないでしょう。 4羽を8回踊るという広瀬さんも、ケガなく7回目をクリア。 よかったよかった。

3幕。 入場した渡邊王子は冠被った本島王妃と同じくらいの背の高さ。 小野寺道化がこの日は本当によいです(口元がちょっと松の末弟に似てるw)。 踊りもキレッキレで、小野寺君ってこんなにすごかったっけ?と思うほど。 ニューカマーの王子にも本島王妃にも、本当によく寄り添い、合わせてきている。 絶妙な立ち位置を心得たプロの仕事です。 とてつもなく褒めてあげたいです。

スペインはこの回はセクシー宝満&不思議なドヤ顔の福田ヒロ君組。 結局池田君を見損ねて残念。 ナポリ男子が渡部義紀君。 この公演、ナポリ男子はほぼ回替わりだったようで、他に誰が踊ったのか気になりますが、でもそういう確率で渡部君が見られたのはラッキー極まりない。 彼はナポリのお姉さま方(五月女、奥田、盆子原)と小芝居をずっと続けていたのがとてもいいです。 朗らかで陽気なナポリの青年楽師、という設定だったのかな? いざ踊る時も「さあ、いきましょうか♪」という雰囲気でお姉さまをリードし、踊り出せばスマイル炸裂で実に軽やかで、いつの間にか顔がほころびます。 先々本当に楽しみでなりません(彼にはいつかアラジンを踊ってほしい)。

黒鳥はやはり教えられたとおりになぞるだけとはいえ、ここは傀儡解釈のできる場面ですから、幼児白鳥よりは見られる。 そしてここぞとばかりにトリプル込みでブイブイ回ってます。

傀儡黒鳥に堕ちた王子を見つめる本島王妃の「あの子、ホントにあの姫でいいのかしら…?」という心配そうな表情と、それを見上げる小野寺道化の、ワンコのような目がツボりました。 新国のこの脇で支える方々の力があってこそ、成り立っている舞台です。 バレエ団の技量・実力って、こういうところで出るんだなぁと、改めて思いました。

4幕。 あとは見どころは王子の戦いの場面でしょう。 姫をたてながらも、完全に王子の成長物語です。 ロットバルトの貝川さんとの戦いもアクションが非常にわかりやすく、動きもよく合い、王子の必死さ、渾身のひとむしり(笑)がよく伝わってきました。

というわけで。 渡邊王子、幼児姫に合わせて殉職せず、自分の力量(の片鱗)を示せたことはお見事でした。 と同時に王子のお相手が絢子姫や唯ちゃん……というより、普通に演技のできるプロだったらなぁと思ってしまいました。 でも彼は新国デビューに加え、子守りという余計な負荷のかかった状態で職務以上のことをしたし、与えられたチャンスを最大限に活かしたと思います。

新人オデットは、王子と脇や後ろの方々にどれだけ感謝してもしきれない状態であったか、そこから真摯に考えた方がいいのではないでしょうかね。 同じ日の午後にロパートキナやザハロワ、フェリなどが出演した「オールスターガラ」を見て、バレエは行き着くところ超絶技巧ではなく、内面からにじみ出る感情と表現力・演技力だと改めて認識しただけに、つくづくそう思います。

新国来シーズンは開幕「ロミオとジュリエット」。 渡邊氏も今日の出来なら何か役が付きそうです。 新国の目指す踊りと演技の醸す濃厚「物語バレエ」の舞台、実に楽しみでなりません。 開幕11月……遠いけど……。