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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「ロメオとジュリエット」(2):呼吸ぴったりの奇跡のペア

新国立劇場バレエ団「ロメオとジュリエット」の米沢唯&ワディム・ムンタギロフ組を10月30日と11月5日千秋楽に観ました。 そもそも10月30日の回はロミオ役が井澤君だったのですが、怪我で降板。 急遽全日米沢&ワディム組となったものです。

このロミオ役は以前ロイヤルシネマで見たときに「バルコニーのパドドゥのリハが終わったとき、ロミオ役はピアノの陰で吐いてた」というコメントがあったほどに、過酷なものです。 デビューはバレエ団側のごり押しに首をかしげつつも、着実に実績を重ねてきちんと結果を出している井澤君ですが、この過酷な演目、身体の面でまだついていけない部分があったのかもしれませんね。 早く怪我が治りますように。

10月30日キャスト

それはともかく、唯ちゃんの方はジュリエットは初役。 ワディム自身もロイヤルではそう回をこなしているわけではないといういう意味では、非常にフレッシュなペアでもあります。 そういうこともあってでしょうか、見ていてとても初々しい、初恋の熱い思いがひしひしと伝わってくる舞台でした。

30日は初役故か唯ちゃんに対しては「まだできるだろう、こんなもんじゃないでしょう米沢唯の力は」というものを感じましたが、5日の千秋楽は物語がよどみなく流れていく見事さ。 感動的でした。 以下、千秋楽を中心に。

●和ましく、爽やかに、昭和

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「ジュリエット」としてすばらしく感動的だった絢子姫に対し、米沢&ワディム組はペアとして素晴らしかったです。

ワディムは登場時から輝かしい王子で、俄然目を引きます。 しかも新国との馴染みっぷりが見事で、のびのびしていて、福田あるいは木下マキューシオや奥村ベンヴォーリオとの三馬鹿も見ていて楽しい。

唯ちゃんのジュリエットも登場時は中学生。 5日間連続登場の渡邊パリスは千秋楽もいよいよ貴公子然とした、品行方正な王子で、どんどんジュリエットに恋していきます。

唯ジュリエットもパリスとの出会いでは顔は赤らめはしたのでしょうが、ロミオと出会った瞬間、視線が釘付けになります。 唯ちゃんは視線の強いダンサーさんですが、この日もロミオと出会った瞬間、ピンと視線の糸が張ったよう。 すごい緊張感と吸引力です。 柔らかくも流れるようななかに、あらがえない「力」のようなものを感じさせる2人です。

バルコニーのパドドゥはもう見ているこちらが気恥ずかしくなるような初々しい初恋のときめき(笑) 世界は60~70年代の少女漫画。 セーラー服のヲトメちっく少女が『初恋』抱えて木の陰ならぬバルコニーにもたれ掛かり、恋の夢と期待に胸をときめかせている姿がなぜか頭をよぎります(笑) さすが昭和の唯ちゃん。

ワディムも舞台では輝かしい王子様なのに、素に返ると途端にイモ兄ちゃんなところがあるので、なんというかこのペアはそうした世間ズレしたところまで波長が実に合う。 特に30日は気恥ずかしくなるほどの昭和テイスト全開で、お隣の奥様グループご一同が思わずテレ笑いをこぼすほど。 いやもう、気持ちわかる~(*ノωノ)テレテレでしたよ(笑)

また私は残念ながら今年6月のロイヤル公演は出張で見られなかったのですが、バレ友さんによると「ロイヤルの時よりのびのびしている」ということ。 それもあってか、パドドゥも思い切り踊り合い、和ませてもいただきました。

2幕の結婚式を経て3幕へ。 寝室のパドドゥは互いの離れがたい切ない気持ちが波のうねりのように伝わってくる。 オフバランスのところだって、息の合い方がすごい。

ひとり戦うジュリエット。 パリスを拒絶しながらも、思わず礼をするジュリエットが印象的でした(これは30日のみでしたが)。 パリスは悪くはないんです。 むしろ渡邊パリスは本気でジュリエットに恋していましたし、おそらくロミオとの出会いがなければジュリエットはそのままパリスと結婚して、普通にシアワセだったかもしれません。 でもそれ以上にどうしようもないくらい、ロミオのことが好きでたまらない。 そんな思いが伝わってきましたし、渡邊パリスはいい人なのが分かるだけに、痛々しくて見るのが辛かったです。 だからこそ、別のパリスも見たかったんですよね……痛々しいパリスばかりじゃこっちもキツイ。

墓場のパドドゥ。 これはやはりただジュリエットがだらーんとしているわけではなく、やはり反り返るところは死体の如く動く、というのがあるわけですが、それがまた見事。

出待ちで聞けば、ワディムとのリハーサルは十分に時間が取れず、墓場のパドドゥシーンに至ってはほぼぶっつけ本番に近い状態だったというから仰天です。 それであの息の合い方!この難作を!? これ運命!?奇跡でしょう、ホントに。

「この人(ワディム)なら大丈夫だと思った」と唯ちゃんは語ってくれましたが、それにしてもすごいパートナーシップです!

これはダンサーとして自立し、積み重ねた経験と舞台感覚をしっかり持つ唯ちゃんだからこそ、ワディムともきちんと踊れたわけで、誰にでもできるというものでは決してありません。 やっぱりそこがプロ。 互いに舞台の上で得た感覚で、その場で物語を作り上げるタイプだからできるのでしょうが、それで醸し出すハーモニーの見事なことったら! ワディム、たまにロンドン行っていいから、新国で唯ちゃんと踊ってください(笑)

いずれにしても新国、こんなにジュリエットを踊れるダンサーが2人もいるというのは、これは本当にすごいことだと思います。 (わかってるのか運営!)

●こちらも味わいある脇の方々

初日絢子さんのところで書き忘れましたが、ファーストキャストのティボルトのお付きが小口君でしたが、No.2という座を存分に駆使している小者っぽさもにじんでいてとてもツボりました。 対してこの回は林田君。 中家ティボルトの従順な部下という感じで、正統派です。

中家ティボルトが菅野さんとはまた違った、こちらもある意味正統派で結構セクシーです。 コワイし。 迫力満点で、存在感もありさすが中家さん。 千秋楽に至っては目を開けて死んでましたのが驚きです。 そういえば中家さん、あっという間に新国に馴染みましたね。 存在に全然違和感ないです。

マキューシオが30日は福田君に対し、5日は木下君。 彼も初役でしたが、お調子者っぽいキャラは出ていました。

ロザラインの木村さんが、ちょっとびっくり。 地なのか演技なのかはよくわかりませんが、高ビーなお嬢様そのもので、ロザラインとしてはかなり出色の出来です(笑) 彼女はロザラインでない日はジュリエットの友人をやっていましたが、でもこれまでの舞台に比べ、俺様主張が減っていた模様。 息を潜めることを覚えたのでしょうか?? それにしても、彼女は手足が長く、やはり容姿はいいです。

ジュリエットの友人ついでに言えば、この一団に次回のシンデレラの主役が2人も入っているとは思えない地味さでした。 もちろんそんな目立っちゃいけないし、自己主張する役どころでもないのですが、それにしても総じてなんというか……なんだかいろいろ混ざりまくった変な集団でした。 細田さんは見慣れていることと、踊りが図抜けて上手なのでどうしたってわかりますし、木村さんもあの容姿は遠目でもわかります。 見慣れない、首の太くて短いまん丸顔の(アンパンマンみたいなの)が謎の新人さんかと思いますが、もしあれがホントにそうだとしたらかなりがっかりですし、もう1人の謎主役は2年はやってるはずなのに、相変わらずどこにいるのかさっぱりわからない没個性の地味子さん。 バレエ舐めんなよとか、大丈夫かよとか、いい加減にせーよとか、いろいろ渦巻き腹立ってくるのでこの辺でやめときます。

気をとりなおして。 マンドリンが今回は30日に小柴君、5日に福田君でしたが、福田君の上手さは格別ですね。 マキューシオにしても、マンドリンにしても、今回の福田君は全公演を通して兄貴的な貫禄がありました。

町の人々を踊るバレエ団の方々も、初日に比べますますパワー全開で、千秋楽は本当に皆さん生き生きとしていました。 特に1幕の広場のシーンは個々がそれぞれに感情を持って踊り、また演技されていて観ていて目頭が熱くなる思いでした。 こういう舞台を見せてくれるダンサーさん達は本当にすごいです。 楽しませていただきました。 ありがとうございます。

というわけで次回はダンサーの振付によるDance to the Future。 こちらは3日間通いますよ。