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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「シンデレラ」(2):涙とともにサヨナラの舞台

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新国立劇場バレエ団「シンデレラ」、2016年12月19日、月曜日のド平日午後1時。 なんと学生日のこの日はプリンシパルの長田佳世さんの引退公演でした。 学生日ですからチケットは相当に品薄で、またド平日の日中ということで、どうしたって行けない人も相当にいたでしょう。 結果的に学生日、とはいえプリンシパルの出演が学生日1日だけって、それはどうなのよ、という怒りと疑問の声が相当にあったと思われます(全く持って当然ですし、昨今の新国のダンサー起用問題に大いに関わるところでもあります)。 この日の終演後に行われる握手会は、当日のチケットのない人でも入れるという措置が執られていました。

そして前日からはTwitter上でもダンサーさんたちの「明日は佳世さんの最後の公演です」という告知とともに、「すばらしい舞台で送りだそう」という思いが飛び交います。 当日は無理矢理日程をあけて駆けつけたファンも「絶対に公演を成功させて、(学生日だろうが)盛り上げて長田さんを送り出す!!」という気概がひしひしと伝わってくる、舞台と客席一体となった、そして涙の止まらない公演でした。

●全身全霊で送り出そう!という迫力

以前の湯川麻実子さんの引退公演のときも感じましたが、この新国の団員やファンの、プリンシパルの引退公演にかける熱意は並々ならぬ気概があるようです。 しかも下の客席は学生さん達に占拠されているので、普段の客は3階、4階に陣取っている。 ブラボーや拍手などが上から起こるという不思議な雰囲気です。

学生さん達は初めてのバレエ鑑賞という人がほとんどかと思われますが、やはり反応が鈍い……というよりお行儀が良いのですね(これはこれでとてもいいことではありますし、こういう特別な日にお行儀のいい学生さん達で本当に良かったとも思います)。

姉ズの小口&宝満が初っぱなからハイテンションでとばしています。

長田さんは絶好調。 初めての主演が「シンデレラ」であり、だからこそこの作品で引退したいという強い思いがあって、そして謎の配役のおかげで(くどいようですが)学生日が引退ということになってしまいましたが、しかし「さすが!」としか言いようがない、隅々まで丁寧な、誠実な踊り。 この踊りを見られるなんて、学生さんたちは本当に幸せなことです。 まさに若手に対するお手本、とも言うべきものでこれで引退だなんてもったいない、と拳を握ってしまうほどです。

また四季の精の春の五月女さんが本当に見事! 軽やかで春の芽吹きとうきうきする思いが伝わってくるようで、「そうだよ!春ってこれだよ!」と心の中でビシバシと膝をたたいていました。

御用商人たちもハイテンションでクレイジー。 池田君、本当によいわ~。

いつも以上に気迫のこもったドタバタが繰り広げられ、上の席からは爆笑が起こるのですが、下の方は鈍く、だからこその鑑賞体験なんですが、幕間に「おかしかったら笑っていいんだよ~」と声をかけたくなるほどでした。

[caption id="attachment_944" align="aligncenter" width="314"] 長田さんのメッセージがホワイエに掲示されていました[/caption]

 

 

二幕。

ここでがんばったのが道化の福田兄です。 笑っていいのか、おとなしく座っていなければいけないのか、どう反応し対応すればいいのかわからない1階の学生さん達に向かって拍手アピール。 これで学生さん達の気持ちがほぐれたのか、みなさん拍手で福田兄に応え、これで俄然雰囲気が良くなりました。 福田圭吾、さすがだ! グッジョブだ!!

雰囲気がぐっと良くなったところで菅野王子の登場です。 やせました? すごくスリムですっきり見えます、菅野さん。 今年から若手を指導するバレエマスターも兼任し、王子以外のキャラクターもこなすようになった菅野さん、おそらくシンデレラの王子もこれが最後でしょう。 菅野さんはサポートが安定していて、この人も踊りに誠実です。 そして何より同じロシア系のバレエを学んだだけあってか、踊りのタイプが長田さんととてもよく合います。

王子の4人の友人は木下、中家、渡邊、小柴(飄々、兄さん、リーマン2、フツー)。 初日とはメンバーが変わっていますが、しかし粒を揃えてきてきます、本当に。

マズルカは長田さん最後という気概の分、力みすぎな感じもしましたが、いつにも増して逆「く」の字の高橋ナポレオンもおとぼけテイストの貝川ウェリントンがいい味出しています。

三幕。 いよいよ最後の時が近づいています。 そして長田さんはいっそうキラキラに。

王子と再会し、星が灯るクライマックスはもう涙なしでは見られませんでした。 湯川さんのときは、湯川さんがあまりに幸せそうで楽しそうでニコニコだったので、こちらも笑顔いっぱいで送り出しましたが、長田さんは涙、涙です。

長い長い、涙のカーテンコール。 1階の学生さん達も一緒にスタンディング・オベーションをしてくれて感謝です。 長田さんの最後の贈り物である渾身の踊り、団員の熱意と舞台のすばらしさと客席の熱気が伝わったのでしょうか。 ありがとう、学生さん達。

最後の握手会はやはり並びました。 マンガのように目尻に涙がたまる表情というのを、はじめて見ました。 美しかったです。 でもやはりまだ踊れるなぁと思うだけに残念でなりません。 でも惜しまれ、絶好調のうちに辞めるというのもダンサーの選択肢の一つです。 長田さんには本当に感謝の思いでいっぱいです。 ありがとうございました。

[caption id="attachment_945" align="alignleft" width="310"] 握手会終了後の最後のツーショット。長田さん、ありがとうございました。そして菅野さんも大役、お疲れ様でした[/caption]