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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「シンデレラ」(3):米沢組と新人組と「三国鼎立」

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アップしようと思ったら来シーズンのラインナップが発表され、予想はしていたがここまでひどかったかと激しく落胆し、こんなブログなんてもうやってらんねぇ!くらいの怒りと情けなさがこみ上げて、しばらく放置しておりました。 でも言いたいことは言いたいので、あげときます。

そんなわけで、昨今の新国の、謎と変な臭いの漂う動きも含めた来期への怒り、その要因等々はどうしても無視できず、またそろそろファンとしてもいい子になってだけはいられない状態を感じていますので、それゆえかなり厳しいことも容赦なく書きましたが、あしからず。

で。 新国シンデレラ、12月23日の米沢&井澤組、そして24日の柴山&渡邊組。 それぞれに思うところありの舞台でしたが、ここでやはりしみじみ感じたのはベテランの力です。 姉を演じる古川さんがそれぞれの舞台に合わせた立ち位置のいい演技で舞台を作り上げてくれていたように思います。 このバレエの力学はシンデレラと姉ズの「三国鼎立」にありでした(笑) 「三国志」だね(笑) 日程順に行きます。

●シンデレラと姉ズの三つ巴

米沢さんは安定のシンデレラと言うよりほかない落ち着きっぷりで、難物アシュトンだろうが軽々と踊ります。 アシュトンをこともなげに軽々と、というのもこれはこれですごいんですが。 その分演技をいつもと変えてきたのでしょうか、暖炉に薪をくべようとして灰を被るサンドリヨンーーシンデレラの原点の世界を表現しようとしたのでしょう。

姉ズが今回は古川&高橋姉妹。 久々の古川さん、さすがベテラン! 小口&宝満組も良かったんですが、さすが一日(一日どころじゃないですが)の長というのか、やっぱり周りとの呼吸といい流れといい、いちいちスゴイと唸らされます。

この「シンデレラ」という作品は、シンデレラと2人の姉との絶妙なバランス、まるで三国志的鼎の力学バランスで成り立っているんだと、改めて思います。

御用商人団はセカンドキャストで総入れ替え。 宝石商は福田弟君ですが、彼は不気味なキモさが際立ちます(褒めてます)。

仙女の細田さんの美しいこと! 絶対的威厳を湛えた本島さんとは違い、慈愛に溢れた仙女様です。 溜息が出ます(//∇//)

春の精丸尾さんのベテランならではの安定感。 堀口さんは長い手足が映えます、件の謎の新人の秋は後述しますが、その次に出てきた冬の寺田さんがスタイル共々ひときわ美しく見えました。

馬車のシーンはキラッキラ。 小野、長田、そしてこの米沢さんにしても、舞台を引っ張る人は自らが輝き、また舞台の人たちと調和しながら作品を輝かせる力があるんだなぁとしみじみ思います。

二幕。 今回の道化は木下君。 踊りと飄々としたキャラは良いのですが、道化としてはスタイル良すぎ? 贅沢な話ではあります。

王子の友人は奥村、中家、林田、原(ボク、兄さん、あんちゃん、スマイリー)。 プリンシパル昇格の奥村君がここで混ざってきています。

王子の井澤君が怪我明けですが……太ったね? 身体が重そうで調子がイマイチに見えました。 ノリもよろしくなく、一瞬「劣化?」という言葉が頭をよぎったほどです。 彼はいろいろと人一倍精進しないとならない立場でもありますし、身体もしっかり作って欲しいもんです。

とはいえ唯ちゃんはますますこともなげに自分の踊りをこなし、古川&高橋姉妹とハーモニーを奏でながらお話は進みます。

三幕。 舞踏会が楽しかった姉妹とシンデレラが手合わせパンパン!のシーンが好きなのですが、この古川さんがまたいいです。 意地悪……というより、粗忽でがさつなお姉さんたちという感じ。 クライマックスの仙女千晶と星の精達は文句なく美しく、この回もまた満足な公演でした。

して後述分の件の新人ですが、秋の精だけですから何ともいえませんが、それにしても踊りどうこう以前にまずどうしても目につくのがスタイルの悪さ。 ずんぐりむっくりで足が太い、顔がでかい、首も太くて短いから肩の上にアンパンが乗っているよう。 「僕を食べていいよ」と言われても「いや、結構です」と言いたくなる感じで、そもそもバレエでこういう妄想が湧いてくるだけでとてつもなく興ざめです。 仙女とその他の精たちが抜群にスタイルがいいものですから、どうしたって秋だけちんちくりんに見えてしまいます。 バレエは見た目も含めて実力であり芸術、という厳しい世界ですし、だからこそ真ん中を踊る人はパーフェクトあるいは観客に夢を持たせる何かしらの魅力が必要です。 入団規定163センチとか言ってますが、足りてるの? なんでこういうスタイルの悪いのを敢えて取るうえ、ろくにお披露目する前に主演3つも決めるのかな? ここですでに黒い噂はやはり……と思わせる説得力がでてきてしまいます。 来シーズンの「シンデレラ」「眠り」2年連続上演は、観客から金を取った壮大なリハーサルでしょうか。 踊りに関しても頑張ってフラットで見ようと思っても、まとわりつく黒い噂をより肯定するような生臭い印象しか持てませんでした。 つまりこの新人はその名を聞けば腐臭が漂う、そういう印象が舞台を見る前からついてしまっているのです。 舞台に彼女が上がるどころか、プログラムの名前だけで黒い腐臭が登り立っている感じです。 これは清潔感命のバレエダンサーであるにもかかわらずごり押しした、上層部の間違った売り方に責任を負うところが多分にありますが、だからといってそれを差し引いても、素直に受け入れられるキャラではないのが気の毒です。 やれやれです。

●とてつもなく努力してきたのはすごく認める

さて12月24日、柴山&渡邊組です。 正直柴山さんの主演は私はどうも納得がいかず、舞台を見た今でも疑問です。 きっちり丁寧に踊ろうという誠実さは彼女の長所だと思います。 しかし先の腐臭の新人ではありませんが、主役に抜擢される「なるほど!」と思わせる説得力が感じられないのです。 柴山さんは踊りは誠実丁寧であろうとしていますが、とにかく地味で暗くて華がない。 ソリストできちきちと役目をこなす位置づけならとても向いている気がしますが、主演にはやはり首を傾げてしまいます。

しかも初日に彼女が踊った春の精、動きが重いしモビルスーツ着てズンドコ節を踊っているようでげんなりしましたし、やっぱり彼女の周りだけ暗い。 四季の精が4人並んでいても、柴山さんのところだけ電球が切れているみたい。 輝くどころかそこだけ暗いなんて、ある意味これも個性かもしれませんがバレエ向きの個性ではないわなー……、とこの日のチケを買ったことを後悔し、前日まで気分が萎えていました。

しかし当日、相当に努力して練習を積んできたんでしょう。 演技力は論外で、踊りきるのが精一杯な必死感はありましたが、丁寧にひとつひとつやろうという気持ちや努力と集中力、根性のすさまじさはわかりましたし、その点は本当に素直に、感じ入りました。 ここまで努力するなら春ももう少しなんとかならんのかよ、とは思いましたが、シンデレラだけで精一杯だったんでしょう。 変な大人の力学臭がなければ、もっと素直に誉めたいところです。

でもやはり地味で暗い地味子さん(もうそういう個性でしょう、これは)。 四季の精、星の精がでてきて舞台に人が増えれば増えるほど埋もれてしまい、どこにいるのかわからなくなる。 しかも彼女もちんまい(163cmないんじゃないの?) 華やかなライトの下の豆電球というのか、彼女の周りは常にスミアミ60%がかかっているようにワントーン暗く、カボチャの馬車に乗ってもキラキラ見えないシンデレラははじめて見ました。

また結局シンデレラ以外の方々がスタイルがよくて美しすぎるんです。 仙女の木村さんはもともと容姿がいいうえ、デビューの頃は一人で踊ってどうすんのと思っていましたが、経験を重ねてなんとなく周りと溶け込んできた感じもします。 五月女、飯野、細田、寺田の四季の精はそれぞれにキャラが出ていて、しかし出すぎず、のポジションをわきまえていますが、それにしても主演が地味なんでどうしてもそれぞれが華やか。 五月女さんも小柄な人ではありますが、彼女の職人芸の踊りはその小柄さを感じさせません。 加えてスタイルがよい美人揃いの星の精がゴージャスでキラキラ(今回はとくに原田舞子さんがよく目に付きました)。 このキラキラコールドに対抗できる新国の主演はどれだけ大変なことかというのを、改めて思いました。

こういう主演が頼りない中で、舞台を引っ張ったのが古川&高橋の姉妹です。 もうこの回は姉ズ2人に尽きますね。 先ほど「シンデレラと姉ズの力学は三国鼎立」といいましたが、この古川&高橋がしっかり力を出し、主役を立てながら演じてくれたからこそ、舞台が成立したのだと思います。 そういう意味では新人とベテランの力がうまくかみ合った舞台だったともいえます。

リーマン2号こと渡邊王子は子供白鳥で王子を踊っていましたが、本公演ではこれがデビューです。 サポートもしっかりしていて誠実さを匂わせるキャラで、キャピトル・トゥールーズで経験を積んできただけあるなぁと思わせられれますし、この人はまた見たくなります。 主演ともども2人で練習積んで、コミュニケーションを重ねてきた感じも伺えました。

道化は木下君、王子の友人は奥村、中家、林田、原(ボク、兄さん、あんちゃん、スマイリー)と23日と同じキャストです。 林田君がこの回はしっかり踊れて、おねーさん一安心です(笑)

そして三幕、フィナーレへ。 とにかく(怪しいところは多々あれど)転倒もなく、踊り終えてよかったなぁという、これに尽きます。 プロの公演というよりはやはり発表会を終えた、という印象ではありますが。

とにかく昨今の新国のキャストは謎が多く、すっきり気持ちよく見られないというのはダンサーにとっても客にとっても大変不幸なことです。 結局舞台芸術、バレエという芸術をわかっていない上層部(そして外部)が現場に口を出して牛耳っているのではないかと、観客が穿ってしまわざるを得ない謎の動きが多すぎます。 こういうことが続くと、ずっと応援してきた側としても気力との勝負となりそうで(そしてもうなりつつありますが)、それが一番恐ろしいです。

そして来期のラインナップは劇場に通おうというなけなしの気力さえ失わせる、先祖帰りも甚だしい素人臭漂うものです。 三大バレエ全部にコンテが一つもない古典ずらりのラインナップなんて、なにこのダサさ。 バレエ団としての20年の歴史をすべて無に返してリセットするような演目ばかりが並び、せっかく揃えた男子が生きるものが一つもない。 ニューイヤーガラに至ってはとうとう男演目もなくなり、どこのお教室の発表会ですか?と聞きたいほどです。 昨今の気の利いたお教室の方がコンテを入れ込んでくる分まだマシかもしれません。

もっと国立カンパニーとしてのプライドを持って、真摯に芸術に当たっていただきたい(と言うのも虚しくてがっくりくるのですが)。 ダンサーさんたちはすばらしいだけに、気持ちよく応援できる運営を切に願います、ほんとに。