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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「眠れる森の美女」(2):見直した! 超大健闘フレッシュペア

さてさて、5月12日の木村&井澤組の「眠れる森の美女」の感想です。

急遽見に行ったこの新人ペア、木村&井澤組ですが、これはひょっとしたら1人のダンサーの歴史的な舞台になるやもしれない、それくらい衝撃的なもので、「木村優里」の存在感を世に確実に印象付けたのではないでしょうか。

本来行く予定でなかったこの日に行こうと思ったのは、やはりその前の、木村さんのリラの精の出来映えが見事だったからです。

金曜の夜という、抜けにくい日でしたが、「でも行かなければ後悔する」という直感に従い、結果プロローグは間に合わなかったのですが、1幕オーロラの登場から参戦しました。

行ってよかったです、本当に。 こういう直感はホントに当たるわー。 これを見逃したらと思うと、地団太踏んで悔しがるところでした。 金曜の夜という不利な状況の中で、でも座席はほぼほぼ入っている感じ。 これなら上出来という入りで、大したものです。

木村さんはもちろん全てがパーフェクトであるはずもなく、今後の課題ももちろんあるのですが、彼女のすごいところは(ちょっと癖はあるけど)丁寧な踊り、確たる技術に加え、何よりも「オーロラとして踊る」というその表現力、そして2幕に至っては小野・米沢両先輩とは違うアプローチをしてきたところです。 物語、世界を創り出す力もあるのかもしれませんし、プロのバレエ団の一員として、舞台に上がったら何を成すべきかをちゃんとわかっている。 これはとても大切なことです。

思えば木村さんは新国入団前に「くるみ」のルースカヤに抜擢され、ブイブイ回りまくった勢いと、また当時は今なお疑問符だらけのゴリ押しねじ込み配役が始まった頃というのもあり、こういう劇場側のヘタクソな出し方もあって、彼女のことは一歩どころか相当引いて見ていました。 「子どものための白鳥の湖」にしても、渡邉王子が良かった分、周りから浮いて一人で踊るところにも「やっぱりなぁ……」感があったのですが、「ロミオとジュリエット」のロザラインの視線や存在感、そして「ヴァレンタイン・ガラ」の黒鳥のPDDの、まるで全幕を見ているような物語を作りだす表現力で、注視せずにはいられなくなりました。

最初のごり押し以後、(運営側が?)少し大人しくなったのもよかったのかもですが、元々恵まれた容姿で、かつ実力がちゃんとある子はいつかは出てくるし、チャンスにしっかり応える力量が彼女にあったんだろうと思います。 しかも木村さんのすごいところはオーロラという難物をこなしながら、リラの精という大役もしっかり踊り、演じ切ったところです。 いやはや、恐れ入りました……!

 

●感涙もののローズアダージョ

さて、木村さんのオーロラは1幕からの鑑賞ですが。 キラキラ登場した最初の印象が「実の母娘ですか!?」でした(笑) 本島王妃の本当の娘みたいなんですわ。 互いに美しい2人、美女の系統が似ているんでしょうかね。 ここまで母娘に見える王妃とオーロラがいたかよ!と。 これはプロローグから見たかったわー。

大切に育てられた16歳の姫、両親の顔を見て笑う表情、(すでにメロメロであろう)4人の王子を見たときのとまどいや恥じらい。 全て自然で唖然とします。 そういや4人の王子の浜崎氏、前は歌舞伎町のホストみたいだったんですが、最近毒素が抜けたのか、普通に背の高い兄ちゃんになってしまいましたね。 馴染むのはいいんですが、普通になっちゃあ面白くないなぁ。

それはともかく。 ローズアダージョもまあなんと可憐。 「全幕1つ分を踊るくらい疲れる」このローズゆえ、さすがに最後の方はスタミナ切れの様子でしたが、笑顔を崩さずに「オーロラとして」踊り切ろうとする姿に、「がんばれがんばれ!」と心の中で自然と叫んでいました。 見上げたプロ根性です。 踊り切った時はホントに泣きそうで、木村さんを見てこんな気持ちになるなんて!と自分自身もびっくりでした。

 

●2つの世界が1つになる、圧巻の2幕

また、このペアらしさがよく出ていたのが2幕です。 そしてこの2幕が実に面白かった。

多分井澤君と話し合ってきたのだろうと思うのですが、とくにこの版の見せ場「目覚めのPDD」、そしてその場面に至る森の幻影のシーンが米沢、小野の両先輩とは違ったアプローチだったのですね。 その解釈が非常に納得できるもので、私が見たかった「幻影」はこれかも!と思わせてくれるものでもありました。

つまり木村&井澤の「森の幻影」は、2つの世界が同時に展開されていたんです。

ひとつは井澤王子視点で、リラにオーロラの幻影を見せられている世界。 そしてもうひとつは、オーロラが夢の中で見ている王子の姿です。 木村オーロラは王子と視線を合わせている。 100年の夢の中で、王子の夢を見ているのでしょう。

オーロラがリラの精の肩に手をかけプロムナードの状態で、王子を含めて周るところでは、リラを挟んで2つの世界が隔てられている感じ。 オーロラと王子、それぞれの世界が何かに包まれ、ふわふわと漂っているかのようで、その共存が実に自然なんです。 だからその後のオーロラの幻影のヴァリエーションの存在も「そうか!」と思わせられる。 夢の中で出会った王子を思い踊る、夢の中のオーロラ自身なんですね。

そして王子がリラに導かれ森へ行き、リラがカラボスと戦っている間にオーロラを目覚めさせる、その瞬間、2つの世界が1つになるのです。 ……鳥肌ものでした。

その後の「目覚め」の美しいこと。 夢で見ていた王子が目の前にいる。 最初はわかりません。 ぼーっとしています。 でもそれが次第に現実なんだとわかり、気持ちがつながっていく……。 そもそもが美男美女のペアですからもう、この高揚感たるや。

なんだかもうこの2幕を見られただけで幸せです。 なんでしょうこの多幸感。

 

●「ジゼル」に期待の大団円

井澤王子はいつものお姉さまたちと踊るのと比べると、ちょっと小ぢんまり感はあれども、2幕の狩りの衣装が似合っていたのが彼だけだったのはさすがです。

3幕結婚式は美しい王妃様とリアル母娘のような美しいオーロラにイケメン王子ですからもう、あとはただ華やかに。 フロリナだけが「私を見てー」のお遊戯会で、そのときだけ主演2人を中心に築いてきたおとぎ話の夢世界がぶった切れましたが。 「お祝いに来た王女」という、お話の登場人物の1人であるべきなのは言うまでもないと思うのですが、同じお教室出身のもう1人の地味な方共々、この2人はそういうところがとにかく全然ダメです。 プロのメンタルじゃないんですね、結局。 こういうのはシラけるんですよ、ホントに。 このお教室根性が、どれだけ舞台を台無しにしていることか。 青い鳥の奥村君は、今回見た3羽のなかでは(あの衣装でも)一番鳥らしく見えました。 何のわだかまりもなく、素直に奥村君を楽しみたいです(泣)

とにかく。 最後までオーロラと王子のおとぎ話の世界を作ろうとした2人に拍手です。 無論、最初にも言った通り木村さんも井澤君もまだ課題はありますし、特に木村さんはやっぱりどこか孤高感があるんですよね、あの若さで……。 オトモダチいるのかな、大丈夫なのかな、と余計なことを考えてしまうほどなんですが、でもある意味そういう「孤高感」もまた、木村さんのキャラなのかもしれませんし、だからこそ、彼女は(恵まれた容姿共々)真ん中が似合うのかなぁ。 ひょっとしたらその孤高感が、いつかプラスに作用する日が来るのでしょうか?? ロパートキナみたいに……????

というわけで。 次の公演は小野、米沢のツートップに木村さんを加えた「ジゼル」です。 聞くところによると、このオーロラをきっかけに木村さんの人気は急上昇中だとか。 しっかりとした舞台を見せてくれ、きちんと努力した人が正しく評価され、相応しい役に付くことは大歓迎です。 「ジゼル」は久々に全キャスト必見です。 楽しみだなぁ~♪