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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

日生劇場ミュージカル「三銃士」:生まれ変わってハイクオリティ

8月6日(午前の部)、急遽日生劇場ファミリーフェスティバル・ミュージカル「三銃士」を見てきました。 →公式ページ

ファミリーフェスティバルですから夏休みのお子様向けなのですが、実にクオリティの高いミュージカル作品で、大人も十分に満足のいくもので、行ってよかったとしみじみ思います。

●「子供向け」だから本気

この日生劇場での「三銃士」、実は5年前の2011年にも上演されました。 が。 そのときは国営放送の子供人気番組の元体操のお兄さん中心で、内容的にもお兄さんの人気CMネタなどが混ざったものでした。 もちろんバラの花をくわえたアラミスや、やたら背が高くてイケメンだったバッキンガム公爵など印象に残る部分はあったりもするのですが、一方で「見るからにはポジティブに見るぞ」と言い聞かせる感もありで、今年はパスの意向だったのです。

が、直前に「役者も入れ替え、脚本も書き直し、音楽も練り直し」という情報を得て、ならば、と出かけていきましたら、びっくり! 5年前と全然違うではないですかー!

nissei2016a実際に出演者も今さんや上原理生君などなど、ミュージカルオタクの知人に言わせると「知らない人はいない、元四季、元ヅカも含めすごい人ばかり」という本気のキャスト。 イラスト表紙の無料ブローシャーがもったいないくらいで、ちゃんとパンフレットで衣装写真付きで見たかったんですけど!という面々です。 実際衣装も5年前に比べかなり頑張っておりましたし。

また夏になるとミュージカルやバレエ、音楽などに「子供向け」というものが俄然増え始めるわけですが、本当に良いものは「子供向け」だからこそ、本気で作ってきます。 どこか別のところでも書きましたが、ドイツの世界的テディベアメーカー「シュタイフ」の創業者、マーガレット・シュタイフさんの「子供の最初の友達だからこそ、本物を」という言葉がありますが、ミュージカルもやはり同じなわけです。 大人の本気、真剣な本物を見せることで、子供にとってより素晴らしい劇場体験、ミュージカル体験になり、将来劇場に通ってくれる層が育つかもしれないわけです。

いずれにしても。 音楽や脚本も前回のものは部分的に生かしながら新しく加え、ストーリーは原作「三銃士」をいっそう深めて練り直されており、しかし子供の劇場体験の場として、ちびっ子が一緒に歌える曲も交えながらの楽しいミュージカルらしいミュージカルとなっていました。 てかちびっ子が歌える「イギリスへ、イギリスへ~♪」の曲、よほどこだわりなのか(笑)

●本気キャストの王道ストーリー

お話は王妃の首飾り事件を交えダつつ、ダルタニャン(小野田龍之介)の立身出世物語り、三銃士との友情が絡む、原作踏襲型王道展開です。

個人的に普段一番接する舞台がバレエなだけに、ミュージカルを見るといつも最初は「皆さん身体太い~」と思うのですが、ダルタニャンはそれにしても丸っこい胴回りで、しかしそれがまた田舎者臭く、だが剣の身のこなしなどは軽快でよく動き、誰にも彼にも、行きずりのリシュリュー猊下(福井貴一)にまで「僕の名は~!」とKY丸出しで自己主張して得々と夢を語る紙一重的に一本気な若者。 実に私のイメージするダルタニャンっぽい。 田舎から乗ってくるのは馬の頭付きキックボードw ツボります。

村人がリシュリューの独裁に恐れおののくナンバーなども入っており、最初からもう5年前と全然違う、ミュージカルらしい展開です。 始まって数分で伝わる役者含め全関係の意気込みと本気。

このお話ではリシュリューは完全悪役で、その腹心にミレディ(樹里咲穂)がおり、ロシュフォールは省略。 国王ルイ13世芋洗坂係長)は完全リシュリューの操り人形で、操り人形のようなマイムはわかりやすく、また秀逸。 そんな王と国の未来を憂うアンヌ王妃(沼尾みゆき)。 英国と戦争して力を誇示したい猊下と、それを防ぎたい王妃の戦いが、このミュージカルのベースです。 彼女が「国の未来を憂う行動」がお話を動かす展開であって、原作のバッキンガム公爵(宮下雄也)との不倫ではない(笑) 今作は完全アンヌがヒロインです。 国母アンヌ(笑)

猊下にとって邪魔な銃士隊は解散させられる直前。 ダルはミレディにそそのかされて三銃士と決闘することになります。

してその三銃士。 アトス(今拓哉)はミレディとの過去や「燃えないゴミです」といったやさぐれ感などは影も形もない、酔いどれオヤジ系。 今さんは東宝の「三銃士」でルイ13世を演じられていましたね。 冒頭、ダルタニャンの父親役も演じていましたが、これはさり気に原作の「ダルにとってアトスは父親のような存在」というのを踏襲していて、ニヤリとします。

ポルトス(なだぎ武)はこれまたワイルドカード。 ドレッドヘアをバンダナで上にまとめて、まるでモップ。 力持ちというには身体が細身ですが、お笑い担当として笑いを取るのが上手です。 さすがコメディアン。

そしてアラミス(上原理生)。 正統派のザッツ・イケメン!!キタ――(゚∀゚)――!!

坊主との間を行き来する胡散臭い設定は語られてこそいませんが、仮にあの風貌で「聖職者を目指している」なんて言われたら、胡散臭さ炸裂で悶絶無限大になりそうな濃厚な美男子。 実にナルシストっぽくていい感じです(//∇//) 新国立バレエ団の井澤駿君を彷彿させる濃さ&イケメンっぷりで、むっちりミュージカルの方々のなかにあって、スラリとしていてスタイルもよろしい(でも紫サテンハンカチはやめてw)。 よくぞ彼を当ててくれました。 もうこのアラミスキャストだけで日生さんに「ありがとう!!」と言いたいです。 ここ数ヶ月、いろいろ調べ物をする折りに、なにかにつけて彼の名を目にする機会が多かったけど、これはハマる運命だったというわけだね(笑)

●盛り上がった「イギリスへ~♪」

というわけで。 ストーリーは三銃士とダルの決闘からVS親衛隊(国防軍)に。

そこへ割り込むのがリシュリューの手下に追われたコンスタンス(吉川友)。 ダルは一目ぼれ。 乱闘の罪で牢獄にぶち込まれるダル+三銃士ですが、助けに来たのはコンスタンス。 しかも戦争回避のためバッキンガム公爵との密会のボディーガードを頼むためという、結構裏で策士のコンスです。

バッキンガムと王妃の密会は、あくまでもフランスと英国の戦争回避が目的。 やはりヒロイン・アンヌは国母です。 子供たちにとって、お母さんは守ってくれる存在なのだ、無条件に。

アンヌは戦争回避が目的ですが、バッキンはアンヌに未だ惚れている模様。 「英国はフランスに攻め込まない」という約束を取り付ける代わりに、アンヌの大切な首飾りを所望します。 ここで首飾り事件のエピソードに繋がります。

イギリスに持っていかれてしまった首飾りを取り戻すために「イギリスへ イギリスへ~♪」という「みんなで歌おう」ナンバーが展開されるわけで、こうして書いていると歌わなきゃやってられんわー、的展開でもあるんですが。 この「みんなで歌おう」ソングを1部のラスト・休憩に入る前のクライマックスで出演者一同が一列にずらーっ!と並んで華々しくやられると、なにやらとても盛り上がります(笑)

追っ手を交わしてバッキンガム公爵からダイヤの首飾りを返してもらうものの、メイドとして忍び込んだミレディにダイヤは1つ持ち去られた後。 ダルは先に王妃に首飾りを届け、三銃士がミレディからダイヤを奪おうと後を追います。 三銃士に囲まれたミレディ、ダイヤを渡すまいと飲み込んだり、しかし脅され吐き出したりと、なかなか器用ではありますが、最後はバッキンガムに引き渡されオオカミ責め?にあったのか、発狂精神崩壊。 すげぇなバッキン、アンパン顔で歌力は残念だけどどんだけドSなのかとか、いろいろ妄想してしまいますね(笑)

最後はリシュリューの悪事も暴かれ、銃士隊も復活、アンヌの名誉も守られ、ダルは銃士隊に入隊を認められ、フランスと英国は和平を結ぶというハッピーエンドです。

というわけで、猊下が生粋の悪役になってしまうのは致し方なしか。 でも私的にはアラミスが正統派に顔も演技も濃いイケメンで、とにかくめっちゃめちゃかっこよかったので、それだけでも相当に十分満足です(紫ハンカチのアクションは、別の日は上手くいったのかな)。

最後は青い銃士隊の制服マントも登場し、やったら4人が「ひとりはみんなのためにー!」と剣を合わせてくれるのには、やっぱり銃士ファンは萌えあがります(笑)

ここまでハイクオリティになっていたと知っていたら、千秋楽含め2回くらい見たかった日生版「三銃士」でした。 このキャストで、ぜひ夏の定番にしていただきたいものです。

ありがとうございました。

[caption id="attachment_629" align="alignleft" width="400"]ダルタニャンの故郷、ルピアック村の夏。一面のひまわり ダルタニャンの故郷、ルピアック村の夏。一面のひまわり[/caption]

 

 

 

 

 

 

 

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