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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「パゴダの王子」(3)千秋楽:新国の未来のためのレパートリー

今更、引き続き。






6月15日、千秋楽です。
あらすじはこちらの特設サイトで。

12日初日のミニトークでビントレー監督が「アラジンやパゴダの王子は、バーミンガムやヒューストンでも上演されたが、この新国のメンバーとともに作り上げたこれらの作品は新国のレパートリーであり、そして観客のみなさんのものだ」と言ってくれました。

この千秋楽、そしてビントレー監督での最後の公演となったこの日の舞台はまさに「ビントレー監督と新国のダンサーが作り上げた」作品に対する、その思いすべてがこもり、あふれていた、そして客席はビントレー監督とダンサーさんへの感謝の年を送り続けて幕を閉じた、感動的な舞台だったと思います。
一つの歴史を見届けたような、そんな気分です。

開演時間5分前に、福田道化が幕の間からひょっと顔を出して、実質上そこからもう舞台は始まっています。
「わー、福田君近いー!」と思うのは、この千秋楽でビントレー監督最後の日に、ちゃんと1階席でお礼の拍手を送りたかったからです。
いやぁ1階、近いわ、ほんとに(笑)

キャストは初日と同じ、小野&福岡の姫と王子に、山本皇帝、湯川エピーヌ。
福田道化に4人の王が八幡、古川、マイレン、貝川さん。
実は後で知って愕然としたのは宮廷官吏の小笠原君、バリの女のさいとう美帆さん、千歳さん、竹田さん等々もこの日が最後。
なんといろいろ思いのこもった舞台であったことか。

とにかく舞台のクオリティは初日以上に素晴らしかったのは、「最後」という気合い・気迫と思いゆえでしょうか。
1幕の妖怪たち、2幕の星、雲、毛ガニにタツノオトシゴ、炎もバリもなにもかも動き一つひとつが普段以上に渾身です。
山本皇帝にひとり付き従う福田道化、一挙手一投足に皇帝への尊敬と愛情があふれていて泣けます。
山本皇帝の高貴さ、気品、存在感と力強さはここにもう極まれり。
3幕のフィナーレに近づくにつれて、こちらももうこみ上げて来るばかりです。

特に最後の最後、フィナーレのあの高らかな、物語を締める祝祭と未来への賛歌のような踊りの一連のシーンは今でも目に焼き付いています。
「いよいよ、とうとう、終わってしまうんだ」という寂しさとともに…。

桃色と浅葱色の新貴族が足をぐるっと振りあげるたびに、衣装の袴がまるで花が咲き乱れるように広がる。
あの音楽に乗せて、次から次へと沸き上がるように咲く大輪の花々は、国の新しい歴史の幕開けを祝う、立て直そうとする人々の歓喜と希望と強い意志のようにも感じられます。
賛歌です。
すばらしいアンサンブルです。

その間を小野&福岡が手を繋いで階段を上がっていき、その途中、階段に座ってる福田道化の頭を福岡王子はぽーん!とたたいていきます、繋いだ手で。
もうここでこういうことする余裕というか、それだけみんな舞台の上で自然に呼吸をしているのか。
微笑ましくてまた泣けます。

降りしきる花吹雪のなかで天を仰ぐ小野さん、福岡君、そして山本さん。

ビントレーさんの時代に大きな歴史を作り上げ、またダンサーとしての新たな道を歩みつつある3人の姿が最後に真ん中にあるのは実に象徴的です。

彼らのこみ上げてくる、おそらく万感の思いがひしひしと伝わってきます。
こんな心がこもり舞台と、おそらく舞台裏にいる方々のすべての感慨が一体となって伝わってくるフィナーレはそうお目にかかれるものではありません。
また観客にとっても実に感慨深いものがあります。

いつまでも拍手していたい。
この感動の時間がこのままずっと続けばいいのにと、どれだけ思ったことか。

でも、幕は降ります。
そししてまた開きます。
「さよなら」と「ありがとう」と「また会いましょう」を言うために。
なによりまた次の舞台を開くために、開けるために。

カテコは妖怪さんたち(とうとう出た!)や、控えのダンサーさんたちをはじめずらりと一同が並び、ビントレー監督に小野さんが花束を贈呈。
1階客席はスタンディングオベーションでした。

ありがとうの言葉しか出ません。
そして新国のダンサーさんたちはいつまでも挑戦を続けて、またすばらしい舞台を見せてほしいと、今切に思います。
ビントレーさんが残してくれたこのパゴダの王子、アラジン、ペンギン・カフェカルミナ・ブラーナなど数々の作品は新国の宝物です。
毎年必ず何かひとつは上演を続けるべき作品だと思います。

そしてこの前向きですばらしいダンサーさんたちが、常に挑戦を続け、力一杯踊れるカンパニーであってほしいと、願ってやみません。
本当に。
祈るような気持ちで、切に思います。