arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

サイトウキネン2011(1):「中国の不思議な役人」「青髭公の城」「兵士の物語」

松本に来ています。
サイトウキネン。
超大奮発。

でも昨年今年のバレエ&オペラプログラムが「中国の不思議な役人」「青髭公の城」、さらに「兵士の物語」なる実験劇をやると聞いてから、もう来たくて見たくてならなかったですね。
てか、サイトウキネンって、こういう前衛的なもの、実験的なものをやるフェスティバルだったのか?というのが驚き。
失礼ながら、松本という地方都市で、こういう異色系のものがペイできるのか…?という疑問もありましたが、チケットは瞬殺だったし、行ってみたら満席だったし。
小澤さんは残念ながら体調思わしくなく降板でしたが、今回見た公演はどれも面白くて、行って良かったなぁと思います。

で、「中国の不思議な役人」「青髭公の城」「兵士の物語」。

中国の不思議な役人」「青髭公の城」はバルトークのマイム劇とオペラ。
今回は「中国…」は新潟のコンテンポラリーバレエ団Noism、「青髭…」はオペラ歌手&Noismコラボの、バレエ&オペラという感じの、いずれもモダンな演出によるものです。

「兵士の物語」は音楽劇というか、劇と音楽のコラボ?
曲はストラヴィンスキー、ストーリーはフランス人のラミューズ。
今回日本版はサイトウキネン・オリジナルで、主演は石丸幹二さん、語りが福井貴一さんという元四季コンビ。
悪魔役は演出も手がけた串田和美さん、プリンセスが麻生花帆さん。

それぞれの感想はまた別途。
今回は2日間の総括をまずしてみようかと思います。

というのも、この3作品、共通点が多いようでないようで、でもやはり多いのかなと思うわけです。

いずれも作られたのは第一次大戦後。
ロシアはともかく、フランスはドイツ国境が焦土と化し、オーストリア=ハンガリー帝国は崩壊し、経済は大悪化という、混沌の時期だったわけです。

市民文化が花開き新しい芸術文化やガラス&鉄骨建築の新しい芸術文化は20世紀の声と共に、民族主義や、国の体制弱体化にともない退廃へと向かい、とうとう第一次世界大戦を迎えてしまったわけです。

そうした経過を経て生まれた作品は、やはり明るいわけでもない。
諦念のような愛、知り過ぎた不幸、「一つの幸せで満足せよ」という無欲。
希望や未来を遮るのは、「役人」の影たる力であり、血や涙であったり、常に心を脅かす「悪魔」――つまり、抗うことのできない、というか常に「人間」が戦い続ける「闇」だったりするわけです。

でもそうしたなかで、ささやかな「希望」はやはりあるような気がします。
それはそれぞれの作品についてのレビューに送りますが。

ともかく今回思ったのは、そんな作品群をこの震災を経て混沌とした無言の不安を抱える、このタイミングで上演する巡り合わせ、というか芸術家の嗅覚がまたすごいと思わせられたこと。
そして、こうしたテーマに果敢に立ち向かい、見る者を引き付けるものに仕上げたところに感服しますし、敢えてこうしたことをやろうとしたサイトウキネン&小澤さんに、やはり敬意を表したくなります。

てかNoismだって、噂には聞いていて、一度見てみたいと思い、このほど実現したわけですが、たけど、これほど踊れて表現力のある集団だとは思いませんでした。
日本のコンテンポラリーも侮れない。
先日のオールニッポンバレエガラでも思いましたが、これだけ踊れて表現できる日本人が、実に多いと思い知らされ、頼もしく思う昨今です。

こうした「一歩先」を見据えた、また挑戦的なプログラムを上演する芸術フェスティバルがあるというのはすごいし、そこに「サイトウキネン」の価値の一つがあるのかなとも思います。

ただ、気になるのはタクシーの運ちゃんが言ってた「小澤さんが病気して以来、規模が縮小されている」「芸術劇場建設時に市民は大反対し、建設した市長は落選した」ということ。

確かにすごいホールで、これが東京文化会館だったらどんなにいだろう、と思います。
ホントにすごいよ、このホールは。
でも一方でロックコンサート等々の多目的シアターには使えないだろうな。
かなり使用ジャンルを選ぶホールです。
果たして建設費は松本&長野県だけで回収できるのだろうか?とは、余計なお世話ですが、私も感じました。

またどうも外で思うほど、サイトウキネンって市民的には根付いていないのでしょうかね??
もっと町中「サイトウキネン」かと思ってたのですが、全然普通。
実際街を歩いていても「観光客がお金落としてくれるから、あってもいいよ」的な雰囲気は否めませんでした。
これで松本に芸大や音大があれば、もうすこし盛り上がりも違っていたでしょうに。

非常に面白かっただけに、なんとなく先行き大丈夫なのかな…??という疑問も頭をよぎった松本滞在でした。
こうした挑戦的なプログラムを、最高のスタッフ&クオリティで見られるなら、また来年も来たい…と思いますがどうなのかな??
こういうフェスティバル、あってもいいと思うのですが。