arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

マリインスキー・バレエ団「白鳥の湖」:マリインスキー祭りでありスメカロフ祭りであり

さて、白鳥の湖。 12月5日のマチソワをしてきました。

マチネはあくまでスメカロフのロットバルト狙い。 2015年スメカロフ祭りのラストステージです。 そしてソワレはロパ様ことロパートキナのおそらく最後の白鳥全幕です。

ですから私的にはマチソワとも、非常に締め的な意味も含め、大事な日でした。 結果はどうであれ、ともかく「ソワレがあってよかった」と思っております。

●12月5日マチネ:抑えて抑えてロットバルト

マチネ。 本来ブログ執筆をスルーしてもいいくらいなのですが、スメカロフが絡んでるとそうもいかない。 私的には待ち焦がれ恋い焦がれた(笑)人なだけに(^^;

パリッシュとスコリクって、実は最初から期待していませんでした。 そういう意味では「期待通り」ではあったんですが、それにしてもここまで寒いとはなぁ…。

ともかく肝心の主演2人の息が全然あっていないし、心通っていないし、実に冷え切った白鳥で。

事前の動画見る限りでは1人で踊って演技してて全然協調性や調和の感じられないパリッシュ。 1幕で王子1人で場を仕切っているうちは、ぺかっと頭に電球灯っているような輝きがあって「お、意外といけるの?」なんて思ったんですけど。

2幕(マリインスキーではここも1幕)でそれまで頭に灯っていた電球が急に切れたかのように、「真ん中を踊る人」というオーラが消滅。

スコリクが美しかったのは驚きで嬉しい誤算というのか。 3年前に見たときはびくびくしてて怯えたウサギのようで転倒もあったりで、それで今回も大丈夫かなー?と思っていたんですが、3年経って貫禄が付いていて、何より身体のラインがすーごく美しい。 誰よりも細い足や綺麗にしなる身体は儚げなオデットのイメージそのもの。 薄幸そうな雰囲気がまたいいですね。

ですが王子と組んだとたん、鉄仮面。 もちろんニパニパ笑う役じゃないですが、ともかく王子に対する心の動きが全然見えず、王子も1人で演技していてちっとも心が通い合っていない。 サポートもきれいに見えないし、そもそも踊りの息も全然合ってない。 コミュニケーション取ろうという意思があるのだろうか、この2人には?? しまいにはスコリクがその華奢な風体共々、心のないマネキン人形のように見えてきてしまう。 なにこの冷えきった2幕……。 寒い。 寒すぎる……。

そしてお目当てのスメカロフ・ロットバルト。 王子と姫がコレではあのキレッキレのでっかい演技を炸裂させようにもできんでしょうねぇ。 てかもちろん純正クラシックの白鳥ですから、あのどでかいスメカロフ・スタイルまんま、というわけにはいかないでしょう。 「舞台」の調和をとって、「舞台」をまとまりのあるものに仕上げなきゃならないわけですから。 ロットバルト1人炸裂したってお話変わっちゃう(今回の場合はその方がよかったかもだけど)。 ジャンプは鋭いものの、抑えめのロットバルト。 ってかパリッシュ、ロットバルトの存在に驚くくらいの演技、普通にしろよ……。

ともかく。 結局2幕で愛は生まれませんから、この時点でお話は崩壊。 終わった……。 すごい脱力感……。 アニキ、これらに倒されなきゃならんのか……。 大変すぎる……。 泣ける……。

3幕(マリインスキー的には2幕)。 もうロットバルトの存在感をひたすら楽しみました。 オペラオンでガン見。

スメカロフ、でかい身体をぐぐっと沈め、時にはマントを鋭く翻して場を支配。 白鳥の時にスコリクがマネキンに見えてしまったせいもあって、まるで黒鳥はロットバルトに魂を吹き込まれた傀儡が踊っているかのよう。 楽しい。 つーか、黒鳥オディールが白鳥とは打って変わって生き生きとして楽しそうなんですが…。

オディールの動きにあわせてマントを翻し、操るようなロットバルトがいいです。 それに比べて王子と黒鳥の息の合わなさ。 ええ?と一瞬お見合いみたいなとこもあったりで、何なんだ、どんだけかみ合わないんだこの2人。

王子の求婚。 マントに隠された黒鳥に、まるでロットバルトが妖気注入しているかのよう。 そして「ひゃっはー!騙されたー!」のシーン。 このときのスコリクの表情がまあなんとも、「あんた、どんだけ王子役嫌い!?」と、思わず穿ち突っ込み入れたくなるくらいの表情で……(苦笑)

して最終幕。 そもそも2幕で愛が成立してませんから、謝罪と和解、愛の勝利なんて無茶言うなと。

スコリクはまた無表情なマネキンになってしまい、王子は1人で踊ってる。 アニキ……お疲れさま、としかもうこの時点では言うしかない。 あとはお約束通り踊るだけ。 スメカロフ、上手に羽むしられ、のたうち回って死にましたが、私はあとはもう幕が降りるまでひたすらロットバルトの死骸を凝視しておりました。

いっそのことロットバルトバワー炸裂させて、「死んでも結ばれないバージョン」くらい作り変えてくれてもよかったんじゃなかろうか。 即興で。 まさかこのクラスのカンパニーで、こんな白鳥を見ることになるとは思わなかったわ。

カーテンコールで、むしられた片腕はずーっと後ろ手にして、両手を上げて挨拶をすることはなかったスメカロフ、さすがです。 こういうアニキが大好きです。 ホレ直します。

最後にやはり思うんですが、パリッシュ、マリインスキー的には引き抜いた以上、メンツにかけても育ってもらわなきゃならんでしょうから、それゆえのオシオシアゲアゲ(と思わざるを得ない)なんでしょうが、いいのかね、これで???

して。 スメカロフ祭りの最後の舞台があまりに寒くて不完全燃焼で、顔でも見ないと収まらないと思い、出待ちなるものをしてみましたがアニキ、ひょっとしたら次の舞台も見るから出てこないかもしれない、と直感し途中で抜けました。 そしてそれは当たりでした。

●12月5日ソワレ:最後のロパ様白鳥と2015スメカロフ祭りの終わり

ロパ様とダニーラの白鳥。 客席にスメカロフ発見! やっぱりいた! 客席からひたすらガン見です。 スーツかっこいい~(^_^) かっこいいスーツ姿に癒された……(泣笑)

舞台開始。 道化はポポフ。 やっぱり脇の面々をロパ様の回に持ってきたのか、トロワのスチョーピンはじめ、オケもコールドも皆安定。 このマリインスキーの白鳥って、見慣れた新国版の大元ゆえ、先のマチネではついつい新国の方々を思い出し、「新国の子たちの方が上手いわー」と思うところもしばしばあっただけに、このソワレは見応え満点です。

なにより舞台に一体感があります。 すべてがまとまっている。 何だこの差は。

湖のシーン。 全力で飛び出すロットバルト。 ああ……うらやましい。 現地ではロパ&ダニーラにスメカロフのロットバルトというキャスティングもあっただけに、なんでこの回にスメカロフを持ってきてくれなかったのかなぁと思うのですが、でもズヴェレフ、やっぱり「クラシック」の動きがきれいだわ……。

スメカロフ、ワガノワ卒とはえ、エイフマンで長い間バリバリと、しかもかなり独特のコンテを踊ってきたから、宰相やティボルトは良くても、純正クラシックの世界はやはり大変だったりするのだろうか?? 「愛の伝説」のような独特のものならあの切れ味やパワフルさはありでも、純正クラシックの白鳥となるとまた違うのかもしれない……といろいろ考えつつ見ておりました。 マリインスキーの中ではスメカロフの踊りの個性は相当に独特だし。 果たして客席のアニキは何を思いながらこの舞台を見ていたのでしょう。

そしてロパ様、美しいです。 透明です。 もう最後の白鳥……と思うと感慨ひとしおですし、テクニカル的にドキっとするところはあっても、その表現と心の揺れは染み入るように伝わってくる。 そしてダニーラとの心のふれあい。 静かな愛が生まれていく瞬間が、切なく儚げで、震えます。

そして黒鳥。 気品ある悪魔、というのでしょうか。 スコリクが操り人形だったのに対し、ロパ様の黒鳥は意志があります。 意志を持ってロットバルト共々王子を落としにくる。 ロットバルトとのアイコンタクトもあり、この辺りがやっぱりロパ様。

王妃を押し退け真ん中に座るズヴェレフ。 動きも大きくダイナミック。 いいなぁ……。

そしてグランフェッテ、やらないと思っていたのにやってくるロパ様です。 うわー。 ロパ様の舞台にこんなに心臓ドキドキしたことはなかったですが、固唾をのんで見守ってしまいました(笑)

最終幕、ちゃんと愛が生まれていますから、謝罪も和解もありです。 切ない。 透明な思いがどんどん昇華していくようで、なんだかじんわりときました。 そしてこれが最後なんだなぁと思うと、またひとしおで。 何度もカーテンコールに出てくるロパ様、孤高の方ではありますが、なんだか優しい笑みを浮かべていて、またじわっときました。

というわけで、今回でスメカロフ祭り……もとい、マリインスキー祭りは終了。 スメカロフがいる、いないにかかわらず、前回の公演に比べて踊りはもとより、(5日マチネを除き)演技的にも深みが出て、マリインスキーという一体感を感じられた素敵な公演でした。

また私的には完全にスメカロフ祭りでしたが、今回のこの「再会」は本当に感無量でした。 自分的本命はやはりココだなぁと、しみじみ思います。

スメカロフの年齢を考えると、今のうちに舞台でもっとバリバリ踊っていただきたいんですが、彼は振付もやっていますし、やはりそのウエイトの方が大きいのか、いずれにしても今回の来日の機会は貴重だったと思います。 本当に今回来てくれたことに、心から感謝。 次回はぜひ自作の振付作品を持ってきてほしいものです (彼の作品は意外と両極端なので、( ゚д゚)ポカーン…でない方をぜひとも)。

そのスメカロフ、現在「青銅の騎士」の復刻改訂版に取り組んでいるそうですが、これもぜひ見たいものです。 サンクト遠征ありかも(笑)