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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ「ペンギンカフェ」(2):バレエのテーマは無限にて

4月28日「ペンギンカフェ」初日の続きを。

実にバレエのテーマというのは無限です。
ラブロマンスもあれば、悲劇もあるし、家族の話もある。
環境問題も、社会的なメッセージを投げかけることもできる。
「バレエのテーマはこうあるべき」「ラブロマンスじゃなきゃいけない」なんてことはあり得ないし、そもそもそんな定義なんてあるのかどうか。

 


振り付け家が作りたい、訴えたい、面白そうだと思ったものを振り付け、ダンサーがそれを踊って作品になるわけです。
なにを当たり前のことを、といわれるかもですが、今回はしみじみそう思いました。

で、今回多分一番賛否両論分かれるところであろう「E=mc2」。
感じ方は人それぞれなのがバレエ…というより舞台等々、どんな作品にも正しい答えなんてありません。

だからあくまで私の感じたこととして、ダイレクトストレートに申せば、私的にはこの「E=mc2」は、「マンハッタン計画」が入ってこそ、意味のある作品になったなぁと思っています。
これがあったから、濃かった。
続く「ペンギンカフェ2013」も含めて、3作を通してバレエを含め、実にいろいろなことを考えることができましたね。
まあ、こねくり回して考えるのが好きというのもありますが。

バレエって言葉がないぶん、舞台上で演じられるものを観ると同時に、こちらも台詞や状況を補完しつつ、ぶっちゃけ二次創作を同時進行で行ってるおもしろさがあります。
受けると同時に、観る方も創作(想像/創造)してる。
そういうトコが好きです、言葉のない舞台の。

それはさておき。
ともかく「マンハッタン計画」がなかったらこの「E=mc2」という作品はぶっちゃけ「エネルギー」で「質量」で、「光の2乗」だけだったのではなかろうかと。
単に相対性理論に振りをつけただけで、「面白かったね、オケさんは大変だったし、リズムも振り付けも相変わらず鬼だよね」で、終わってしまったのではなかろうかと。

E=mc2の方程式によって生み出された原爆、制御しきれない核エネルギー。
明らかに作品を通して異質な電子音と轟音と白装束のキモノは、E=mc2の負の側面です。
そして暗示しているのはヒロシマナガサキだけではなく、フクシマもだということです。

日本人には絶対に作れないシーンです。

英国人のビントレーさんだからできたことであり、同時に日本の外から見た「日本」はE=mc2の負の側面に翻弄され続けている国だ、ということを改めて思わせられます。
現代社会の、「日本」の現実のひとつです。

また忘れてはならないのは、ビントレーさんはあの3月11日の震災、続く福島の事故を日本で体験し、見た、数少ない外国人でありクリエイターだということです。

その後発表された、震災に喘ぐ日本に送るエールとも取れる作品「パゴダの王子」、福島のバレエ学校を訪れたときのドキュメンタリーなどを見ても、ビントレーさんは少なくとも正面から真剣に、バレエを通して「日本」と向き合ってくれている。
私は「マンハッタン計画」の部分には、そうしたビントレーさんの思いも込められているように思いました。

もちろん「E=mc2」は震災が起こるよりずっと前に作られた作品です。
でも、あえて今、この作品を日本で上演しようとした意味、少なくともメッセージだけは、ビントレーさん云々を差し引いても、受け止めておきたいと思うのです。

ぜひ一度、ビントレーさんのインタビュー動画をご覧いただければと思います。
http://www.nntt.jac.go.jp/release/updata/30000672.html

というわけで、ダンサーさんの話も。
「シンフォニー・イン・C 」「E=mc2」ともども、私的には小野&厚地祭り(笑)でした。
インCのしっとりしたアダージョに、ゆったりとした空中遊泳のような「質量」。
小野&厚地ペアは多分今回初めてだと思うのですが、小野さんがすらっとクリアに上に延びるイメージな分、背の高いスリムさんな厚地さんとは視覚的にもバランスが取れてて、なかなかいいんじゃないかと思ったり(でも厚地さんは意外と胸筋厚いのでびっくり)。
これまでよく見た米沢&厚地は王道少女漫画のイメージで、これはこれで美味しいし萌えるし好きなんですが、なんというか、小野&厚地はバレエの正当派的イメージ。
この二人で古典なんて見てみたいですね。
白鳥なんて面白そうですが、牧バージョン以外でお願いしたいものです。

またインCもといバランシン作品は、やはりびしっと揃うコールドのクオリティの高い新国で見るのは楽しい。
米沢、小野&厚地、未来の王子・奥村君にアニキなマイレンと立て続けにでてくる舞台は実に華やかでゴージャスです。
新国のきちっとした生真面目なキャラにバランシンはよく合う。
ここで観るバランシンは本当に気持ちがいいです。

まあ、新国さんの次の課題はキチッとまとまった優等生から、もうひと殻破ることだろうと勝手に思っていますが(笑)

あと良かったのが「光」の五月女さん。
「光」のパートはなんだかコーラスラインみたいでしたが(笑)
五月女さんは健康的な小麦色風で、エキゾチックな雰囲気も感じられ、若々しくて、おっさん的言い方をするとぴちぴちした動きで、実に健康的で気持ちがいいです。
目の離せない動きとか、彼女のノミも見てみたかったなぁと思ってしまったり。

また前回書き損ねましたが、「ペンギンカフェ2013」のさいとうさん、彼女が真ん中にいる舞台も久々で、これはこれでうれしかったです、顔はカテコでしか見えませんが。
やはり彼女、2度目のペンギンだけあって、役のツボをしっかり心得ていらっしゃる。
動きの一つひとつが軽快で、泣けます。
事前のペンギントークでもしっかり話されてて、すごく好感度大でした(いや、みなさんそれぞれにキャラが出ていて楽しかったのですが)。

奥村君のシマウマも、シマウマというよりは若ゼブラという感じで、今だからネタバレすれば、ゲネプロのとき「(ヨガのポーズで)ころん」(@爆笑リレートーク動画)といきそうで一瞬危うかったんですが、さすが本番では上手に撃たれて、静かに誇り高く死んでいきました…(T_T)

というわけで。
明日3日、セカンドキャストを観てまいります。
米沢ヒツジ、厚地モンキー、古川シマウマさんに小野お母さん等々、楽しみです。

ペンギンカフェ特設サイト
http://www.atre.jp/13penguin/

初日の感想その1→新国立劇場バレエ「ペンギンカフェ」(1):オオウミガラスの見た夢…

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