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ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

ランス(2):フジタ礼拝堂 ~猫と一緒に眠りたい~


どうもベルギーからフランスに入ったら日差しは強いのに風が冷たく、長袖をはおっていないと肌寒い。
裸足にサンダルでは足先も冷たく、ホテルの部屋でもハダカでうろついていると寒くて風邪をひきそうです。
秋はすぐそこ…という感じの欧州。
早いなぁ…。

で。
ランスの観光名所のひとつ、フジタ礼拝堂も、強い日差しを受けて輝く緑の芝生に、でも風に乗って茶色の枯葉が舞い落ちる…という、秋の気配が感じられるなかでの訪問でした。

 
日本人ツアーはほぼ必ず訪れるというこの礼拝堂には画家のレオナール・フジタ藤田嗣治)が葬られています。

フジタ礼拝堂は数年前にNHKでフジタの特集が放映されて以来、格段に人が増え始めたというランスの観光名所のひとつ。
TVが理由…といえばそうなのですが、でもフジタの作品を管理する故・フジタ夫人もあまり日本のメディアに対して積極的な露出は行っていなかった…というより、むしろ拒んでいたとか。
ようやくメディア露出が始まったのは2006年(←曖昧ゆえ要確認)に夫人が亡くなる、その数年前からだとか。
死を間近に感じた夫人がフジタの偉業を伝える義務を一層感じたからでしょうか。
はたまた「日本に捨てられて」フランス人となったフジタゆえに、日本でのPRはそれなりに…いろいろ思うところや、ひょっとしたら日本洋画壇の妨害なんかもあったのかもしれませんし、あってもおかしくないだろうとも思います。
いずれにしても、ようやく日本でも展覧会が開かれるなどフジタの真価が改めて認められているご時世ゆえに、訪問できてやはり良かったと思うわけです。

しかもこれが想像以上に素晴らしかった。

内部のフレスコ画の数々はフジタ自身が描いたもので、フジタの最後の作品です。
カトリックに改宗したフジタゆえ、テーマはキリストの磔刑図や受胎告知などキリスト教にまつわるもので、右側の一画、尊敬するダ・ヴィンチにあやかり描かれた「最後の晩餐」の下にフジタと奥様が葬られています。

明治生まれのフジタは第一次大戦前にフランスに渡り、かの地の画壇で成功して評価を得ます。
が、第二次大戦時に帰国した折、今度は従軍画家として戦争画を描かされるものの、戦後は「外国帰り」「毛唐と仲良し」という偏見や、海外で成功しているフジタに対する日本洋画壇の羨望や嫉妬などなどのため一級戦犯に祭り上げられ、結果日本に失望し故国を去らざるをえなかった。
この礼拝堂内のフレスコ画には、そんなフジタの人生の思いの数々が詰まっているようで、見ているとなにやら切なくなってきます。

すべて宗教画とはいえ、絵にはそれでもやはり故国・日本の行く末と未来を憂うような“戦後追悼画”と思わせられるものがあり、また登場人物には自身をはじめ奥さんや世話になったパトロン、礼拝堂の設計者などなどが描きこまれています。
込められている想いは身近な、大切な人たちへの感謝の気持ちと「忘れ得ぬ日本」への想いでしょう。

涙ぐましいのはフジタが好きだった猫もちゃんと描かれていることなのです。
入って左側の壁上や正面キリストの膝の上にいる神の子羊が、実は猫なのだとか。
よく見ると縞々模様の、まるでトラ猫柄のような羊で、足もちょっと細く尻尾も羊より長い感じ。
顔も目がキツくて鼻が低く猫っぽい。
ステンドグラスの犬の絵もなんとなく犬というよりは猫っぽい顔で、手は犬のそれではなく猫です。
入口にある子羊のレリーフにもなんとなく縞々があるようで、尻尾も羊にしては長い感じです。


そもそもキリスト教画における「猫」は魔女のシンボルになってしまうのです。
でも猫好きのフジタ、お墓に入っても猫にも見守られていたかった。
大好きな猫を、女房やパトロンなどお世話になった大切な人々とともに、この人生の総括の場に描きこみたかった。
それゆえ、子羊をトラ猫ならぬ「トラ柄羊」としたのだとか。

「そんなまどろっこしいことしないで(猫を)描いてしまえばいいじゃないか」…と単純に行かないのがカトリック
宗教的お堂のなかにキリスト教関係の絵を描く場合、あまり突拍子もないことをするとヴァチカンからクレームが付き、後から「描き直せ」といわれることがあるのだそうです。
そういえばイタリアのシスティナ礼拝堂にあるミケランジェロの「最後の審判」も、最初は全ての登場人物が「ムキムキマッチョのくまなくモロ出し丸裸」だったがために、ミケランジェロの死後、ヴァチカンの検閲でフンドシが付け加えられたのだっけ。

フンドシばかりを描かされた画家はそれゆえ「フンドシ画家」と呼ばれるハメになったのはお気の毒ですが、死後に作品を改悪されたミケランジェロだって草葉の陰で地団駄踏んでるに違いない。
フジタは聖堂内にフレスコ画を描くにあたり、ほかにも樽の上に座ったマリア様を描くこともあって、ヴァチカンに「こんな絵を描きますがよろしいでしょうか?」というお伺いをたてたのだとか。
賢明だったと思います。

またそうまでして猫を描きたい気持ちは…猫好きゆえにとてつもなくよくわかります。
神の与えたもうた癒しの動物、それは猫。
ニャン様万歳。
猫がいるからこの世はシアワセなのです(*^_^*)

そうして無事、フジタは奥さんパトロンや礼拝堂建設で世話になった人たちと神の使いの縞羊猫に見守られながら眠っています。

フジタ礼拝堂は内部は写真撮影禁止なうえ、メディア掲載にいろいろ制約があるので、私程度の一般ブログでもお見せできるのは外観写真のみです。
内部はぜひ現地で見てください。
フジタ礼拝堂の公開は4月から10月まで。
冬場は縞々猫行火でフジタ様はお休み中(え?)ゆえ、個人での拝観はできませんのでご注意を。