arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「シンデレラ」(1):それぞれが煌めいた光絵巻

f:id:artravel:20180924131249j:plain

新国立劇場バレエ団「シンデレラ」、12月17日、19日、23日、24日を見てきました。 小野&米沢さんのツートップ・クオリティと長田さん引退の涙、予想を覆す新人の努力&頑張りと、いろいろ思うところもたくさんあった公演でした。 年内に全部上げられるかどうかわかりませんが、順を追って。

●それぞれがそれぞれに輝いての一体感

まずは絢子姫。 もう非の打ち所のない輝きっぷり。 存在にときめきます。 彼女が何かをするたびにほほえましく、光の破片がキラキラと飛び散り、幸せで頬が緩みます。

姉ズが今回初役の小口&宝満コンビ。 このペアは2年前の公演で姉妹のアンダーをしていたと聞いており、いつか本公演で見たいと心待ちにしていた、念願叶っての鑑賞です。

待ってました!といわんばかりの独特の個性「小口節」の効いた姉に、女の子のような妹。 宝満君はDTFで振り付け家としての才能はいかんなく発揮していますが、こうした大きな役のデビューは初めてでは? 正体不明なほどに見事に女の子になっており、しかも演技の強い小口君とのバランスがすごくいい。 透明な銅鐸(そんなものがあるのか)のように、打てば心地よい音色を響かせる、呼吸をくみ取る反射神経の良さ。 実にいい姉妹です。 新国のシンデレラの衣装は英国ロイヤルのお古ですが、特に姉ズの妹の衣装は前監督のビントレーさんのタグが付いている、いわばビントレーさんが着ていたものと聞いています。

ビントレーさんが発案した振付家グループの公演の筆頭を突っ走る宝満君がその衣装に袖を通す……運命のようなものを感じ、一層感慨深いものがあります。 伝統ってこうして受け継がれていくのか。

今回はお父さんに輪島さんが参加してくれたのもうれしいところ。 1幕の御用商人のドタバタに燦然と輝いていたのが宝石商の池田君です。 この宝石商、「前髪ウザオ」として2年前に小口君が演じて大笑いを巻き起こしましたが、それに匹敵する池田テイストも加わったすごい商人です。 このポジション、レジェンドになりつつありますね(笑)

そして圧巻だったのが本島仙女です。 でてきた瞬間、貫禄のオーラ。 神々しい圧倒的な、しかしシンデレラと対をなす絶妙な力加減の存在感です。 この美しいこと! 新国の歴史を見ても、本島さんほど素晴らしい仙女はいないのではないでしょうか。 シンデレラと一緒に魔法世界へ引き込まれそうで、目頭が熱くなるような思いです。 これぞベテランの力! 彼女は必要な存在です。 ぜひ続けていただきたいです。

四季の精は春で激しく現実に返りましたが、続く夏(木村さん)、秋(奥田さん)、冬(細田さん)と、次第にパワーアップ。 木村さんはやはり容姿が抜群にいいですし、デビューの頃に比べると(メイクも含め)だいぶ落ち着いてきた感じ。 奥田さんはキビキビとした動きが彼女らしいテイストです。 千晶ちゃんの冬は、彼女の優しく美しいキャラに、今回は氷の冷徹さが加わって、まるで童話の「雪の女王」のよう。 何か一味加わった感も感じられ、その優美さ共々ため息が出ますね。

そして今回圧巻だったのが星の精。 彼女たちが出てきたとたん、ぶわっと泣けるなんて、今までになかったことです。 一番星の広瀬さんを筆頭に、一丸となった美女揃いのコールド。 原田舞子ちゃんはここ最近、とても目を引きますし、若生愛ちゃんもかわいさでキラキラ。 聞けば今まで一番星としてコールドを引っ張ってきた大和雅美さんがいなくなって初めての星の精だったということで、気概もハンパなかったのでしょう(さらにコールドメンバーの成田さんがこの公演で退団、というのを千秋楽で知りました。それもあったのかもしれません)。

絢子姫のカボチャの馬車はもう輝きハンパなく、このシーンだけでもいつまでも目に焼き付けておきたいくらい。 とにかくそれぞれの輝きが織り合わさって描かれた絢爛なキラキラ絵巻。 一幕だけで夢心地です。

2幕舞踏会。 道化の福田兄、細かいところまで気が行き届いているようで実に良いです。 この道化、絢子姫がトークショーで言ってもいましたが「白鳥の道化に比べると格段に難しい」ということですが、新国男子はものともせずに踊ります。

さらに王子の友人が今回は小柴、木下、浜崎、渡邊。 フツー、飄々、ホスト(笑)、リーマンと大きさもさることながら、見た目の個性が明確で、粒が揃ってきた感じがあります。 もともと男子の充実度がここ近年、とてもよろしい新国、いよいよ揃ってきたなぁという印象でした。

そうしたなかで雄大王子、踊りは安定感あり。 やっぱり貫禄は一段違うと思わせられます。 なにより絢子姫が雄大君と踊るとキラキラです。 夢心地のシンデレラをしっかりきれいに見せてくれる。

ナポレオンの高橋君が逆「く」の字でふんぞり返っている姿がほほえましいし、貝川さんのウェリントンはさすが何度もやっているだけあるスカシっぷり。 笑いと美しさの2幕です。

そして3幕のクライマックス 星の精が明かりをともしていく幸せなフィナーレ。 今回はここで涙腺決壊しました。 今までシンデレラで泣いたことなんてありませんが、それほどまでに本島仙女と星の精たちが見事でした。

新国一丸となっての見事なクオリティ。 心温まる感動的な夢世界を、ありがとうございました。