arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

新国立劇場バレエ団「眠れる森の美女」(1):新国の力が集結したドラマ

新国立劇場バレエ団「眠れる森の美女」、5月6日ワディム・ムンタギロフ&米沢唯、12日木村優里&井澤駿、13日小野絢子&福岡雄大、の3キャストを見てきました。 2014年の同公演で「また残念なものを……」と思っていたので最初はワディム&唯、絢子&雄大しか取っていなかったのですが、ワディム&唯組の時にリラの精で登場した木村さんが大健闘以上の出来で、これはオーロラも期待できるのではないかと無理して追加しました。 そしてこの木村さんがオーロラも想像をはるかに超えるほどにすばらしかったわけです。

しかも「しょーもないものを」と思っていた眠りですが、再演でダンサーさんたちも解釈が進んだのか、また要所要所のキャスト違いでぜんぜん違う世界観が見えてくる。 実はこの眠り、すごくおもしろく、無駄なシーンもないのだ、という発見もありました。 これはひとえにダンサーさんたちの力です。 踊りとともに物語り世界に引き込む表現力の賜です。 本当に楽しく充実した公演でした。

木村&井澤組は語りたいことが結構ありますので別途として、今回は6日、13日の回を。

 

●5月6日米沢&ムンタギロフ組:総力結集の充実舞台

何度もペアを組んでいる唯ちゃん&ワディムですが、ワディムが実に充実のキラキラっぷりで、また唯ちゃんも安定以上の出来でした。 この2人のペアはやはり非常に合っていますね。 リハーサル期間が短いワディムですが、それぞれ舞台で反射的に対応できる力を個々に有しているからでしょうか。

リラに木村さん、カラボスが本島さんの美女対決。 この木村さんが本島カラボスと堂々と渡り合う貫禄を見せて、冒頭からから引き込まれます。 新人っぽさがぜんぜんないこの役になりきる力量、すごいです。 本島さんは言わずもがなの絶対的美女だし、この美女対決の眼福なこと。

妖精が6人にるこの新国版、妖精で眼を引いたのはその6人目、気品の精を踊った寺井さんです。 非常に上品でまさに「気品」。 しかも大人の魅力を称えている、今の新国では非常に貴重なキャラクターですね。 こういう踊りを見せていただけると、もっと見たいと思う気になります。

輪島さんのカタラビュートは生真面目そうで、「ああ、書類のチェック中に3度も話しかけられたら、そりゃあミスるわ」と、なんだか身につまされるものも感じます。

1幕の4人の王子、井澤君の華やかさにロシアの王子の渡邊さんも麗しく目を引きます。さらに中家さんも加わって、ローズアダージョのサポートは万全の体制。 そしてまた唯ちゃんが(大変なんでしょうが)余裕しゃくしゃくのように踊り切るからすごい。

2幕、森のシーンはいつも以上にコールドがバタバタと足音が響いていたような。 これは新しい人が入ったせいもあるのでしょうか。

3幕のディベルティスマンは猫に中家さんという豪華なキャスト。 しかもなんだか非常にノリノリで、愛ちゃんの白猫ともども笑いを買っていていい出来。 ダンナ小口君は狼で、五月女赤ずきんとワイルド&キレキレの踊りを披露してくれます。

そしてこの日はフロリナと青い鳥になんと絢子&雄大。 無駄に豪華というか、フロリナたちが登場すると盛大な拍手が起こるのは致し方なしなのですが、なんかちょっと違和感を覚えないでもない。 奥田さんとか、もっと他の人にチャンスを与えてもよかったのでは、という感も否めませんが、でもやはりお見事ですし、やはり今や世界の王子となったワディムを迎えての舞台は完璧なものに、という意欲の現れでしょうか。 実に見応えのある舞台でした。

 

●5月13日:小野&福岡組とキャスト違いで見える別世界

鉄板の小野&福岡組。 彼女等のペアが1日しかないというのがかなり疑問ですが、とはいえ絢子姫のオーロラはやはり絶品ですし、安心して観ていられます。

そしてこの日はワディムが来ていた時の公演をデフォルトとするならば、キャスト違いの面白さを通して、世界の広さ、深さが感じられました。 さらに「またしょーもないものを……。新国の三大バレエは呪われているのか」と思ったこの眠りが「ひょっとして面白いのか」と思わせてくれたところもありました(衣装はいろいろ言いたいことはたっぷりありますが)。

キャストはリラが細田さん、カラボスが米沢さんに、王妃に本島さん。 この本島王妃が美しくて美しくて、どうしても目が行ってしまって、しかも輪島王様は王妃が大好きで、こんな美しくて優しい王妃様なら、国民も国を挙げて王女の誕生を祝ってしまうだろうという、つまりプロローグのオーロラの誕生シーンにめちゃめちゃ説得力が出てくるのです。

本島王妃が美しい分、千晶リラをはじめ妖精一堂は「妖精たち」であって、絶対的善悪という存在とは違います。 でも心優しき慈愛に満ちた千晶リラを筆頭に、妖精たちに守られているおとぎの国、という感じがしてこれはこれで非常に良いのです。 唯カラボスは本島カラボスの絶対的な存在感に比べると線が細く小さいのですが、その分小悪魔的な味があり、これはこれでいいバランス。 何よりマイムが大きく、高笑いが響き渡る感じですごい迫力です(笑)

1幕、プロローグの幸せの余韻がただでさえキラキラの絢子姫に、一層輝きを持たせます。 これ4人の王子でなくたってホレちゃうでしょう、どうしたって。

2幕、森の幻影シーンの絢子姫はこの世の者ではない幽玄さ。 そして千晶リラと唯ボスの戦いは女性同士だからわかる戦いの形です。 手下の男共をフル活用で大きく見せるカラボスに、王子を逃がしながら立ち向かうリラ。 これ、片方が男性なら対等バトルにはならないでしょう。 そしてカラボスはオーロラを求め探してきた王子の真実の気持ち、いわば愛で追いやられてしまうのですね。 そうか、カラボスは消滅しなくてもいいんだ、と今更ながら気付きます。 リラとカラボスがコインの裏表だとすれば、カラボスが消滅するはずなどあるわけないのですね。 常に人はコインの表――リラ側を向けておく努力をしなければならないのだなぁと。

ですから目覚めのシーンは一層美しい。 目の前の王子が次第に現実味を帯びてくる、オーロラの微妙な感情がイトオシイです。 そうか、長い「眠り」の舞台だけど、無駄なものはないのだ、と思わせてくれるのです。

そして3幕大団円。 プロローグからおっちょこちょいな感じでハラハラしてしまう小口カタラビュートのドヤ顔が、ここぞとばかりにドヤっていてうれしくなっちゃいます(笑) 猫も赤ずきん&オオカミも、親指トムもプロローグの妖精たちも本当に素敵でした。 奥村君を宝石で、なんのわだかまりもなく心の底から目いっぱい楽しめたのも幸せです。 本当に、奥村君をもっと見たいです(泣)

とにかく前回疑問符だらけだった「眠り」が実に見事と感じさせられました。 来シーズンも「眠り」がありますが、このクオリティならまた見てもいいなと。

 

  ついでにちょっと吐き出しておきます。 あくまで個人の感想です。 最終日13日のフロリナに感動された方は、どうかこのままお帰り下さいませ<m(__)m>

  井澤君の青い鳥は普通に良かったのですが、フロリナの時だけ現実に返り、とてつもなくシラけました。 フロリナの柴山さんはきっちりきれいに踊る努力・根性はあると思いますし、それはそれで大事なことですが、反面彼女は表現に関するセンス、想像力、創造力、表現力等々が皆無なのでは。 「シンデレラ」の主演の時はハナから演技力などまるきり期待していなかったので、「良く踊り切ったなぁ」と思いましたが、そのあとの「ヴァレンタイン・ガラ」のドン・キが呆れるほど最低で、下向きの意味で愕然としました。 誰が踊ったってそこそこ盛り上がるこの演目を、なんの抑揚も表現も感情もなくキレイに踊った「だけ」という、呆れんばかりのセンスと表現力のなさ。 それも遺伝子にそういったセンス等々がまるっと組み込まれていないのでは?という、絶望的に残念なレベルです。 思えば「シンデレラ」の時も、時折「( ゚Д゚)ハァ!?!?」と思うようなトンチンカンなマイムをしてはいたのですが、そもそものセンスがなかったからか、と今更ながら思います。 あー、褒めて損した。 昔のフィギュアスケートで言うなら、コンパルソリーは満点近いが、芸術点が最低、というタイプですね。

この人、根本的なメンタルがプロではなく、発表会のお嬢様のままなんじゃないでしょうか。 賢いようですから理屈では理解しているとは思えど、身心に染みついた部分に相当根深いものを感じます。

この日も「結婚式をお祝いに来た王女様」には見えませんでした。 お教室の発表会のまんまで、「頑張っている私です」とばかりに努力の成果を「発表」されるから、お話の空気がそこでぶった切れるのです。

プロの舞台で見せるべきは「頑張っている成果」ではなく、バレエ団として創り上げるお話の世界です。 あれだけチャンスをもらっていながらいつまでも発表会のお嬢様気分でやられると、客としてはだんだん腹が立ってきます。 しかもそもそも花もなく地味で、別段秀でたスタイルがあるわけでもなく、ハッとするほど美人でもなく、主役に置かずにはいられないほど可愛いわけでもない。 センスや感性は正直努力でどうにかできるものではありません。 分相応の場所で踊るのが彼女のためだと思いますし、このままセンスのない、努力の発表会を見せ続けられては客としても辛いし、どんどん怒りだけが溜まってしまいます(てかもう相当溜まってます)。 バレエはそういう残酷さとシビアな現実の上に立つ芸術です。 だから真ん中に立つ人は特別ですし、特別と思えない人のゴリ押し、ねじ込みは舞台を壊すのですよね。

というわけで、5月12日の木村&井澤組は別途改めて。