arT’vel -Review- : art × Travel/旅×アート レビュー

ライターKababon(旅行、旅行業、舞台芸術);旅と舞台(主にバレエ、音楽)についての覚え書き

清里という町:ポール・ラッシュという人

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去る8月8日、清里萌木の村のランドマーク的レストラン「ROCK」が火災で全焼、という衝撃的なニュースが飛び込んできました。 このブログの原稿を書いている途中のことだったので、本当に驚いています。 ここ数年、「清里フィールドバレエ」を見るため通ううち、この「ROCK」が萌木の村のみならず、清里の「人が集まれる場所」として初めてできた店だったと聞いていただけに、一日も早い再開を心より応援しています。

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日生劇場ミュージカル「三銃士」:生まれ変わってハイクオリティ

8月6日(午前の部)、急遽日生劇場ファミリーフェスティバル・ミュージカル「三銃士」を見てきました。 →公式ページ

ファミリーフェスティバルですから夏休みのお子様向けなのですが、実にクオリティの高いミュージカル作品で、大人も十分に満足のいくもので、行ってよかったとしみじみ思います。

●「子供向け」だから本気

この日生劇場での「三銃士」、実は5年前の2011年にも上演されました。 が。 そのときは国営放送の子供人気番組の元体操のお兄さん中心で、内容的にもお兄さんの人気CMネタなどが混ざったものでした。 もちろんバラの花をくわえたアラミスや、やたら背が高くてイケメンだったバッキンガム公爵など印象に残る部分はあったりもするのですが、一方で「見るからにはポジティブに見るぞ」と言い聞かせる感もありで、今年はパスの意向だったのです。

が、直前に「役者も入れ替え、脚本も書き直し、音楽も練り直し」という情報を得て、ならば、と出かけていきましたら、びっくり! 5年前と全然違うではないですかー!

nissei2016a実際に出演者も今さんや上原理生君などなど、ミュージカルオタクの知人に言わせると「知らない人はいない、元四季、元ヅカも含めすごい人ばかり」という本気のキャスト。 イラスト表紙の無料ブローシャーがもったいないくらいで、ちゃんとパンフレットで衣装写真付きで見たかったんですけど!という面々です。 実際衣装も5年前に比べかなり頑張っておりましたし。

また夏になるとミュージカルやバレエ、音楽などに「子供向け」というものが俄然増え始めるわけですが、本当に良いものは「子供向け」だからこそ、本気で作ってきます。 どこか別のところでも書きましたが、ドイツの世界的テディベアメーカー「シュタイフ」の創業者、マーガレット・シュタイフさんの「子供の最初の友達だからこそ、本物を」という言葉がありますが、ミュージカルもやはり同じなわけです。 大人の本気、真剣な本物を見せることで、子供にとってより素晴らしい劇場体験、ミュージカル体験になり、将来劇場に通ってくれる層が育つかもしれないわけです。

いずれにしても。 音楽や脚本も前回のものは部分的に生かしながら新しく加え、ストーリーは原作「三銃士」をいっそう深めて練り直されており、しかし子供の劇場体験の場として、ちびっ子が一緒に歌える曲も交えながらの楽しいミュージカルらしいミュージカルとなっていました。 てかちびっ子が歌える「イギリスへ、イギリスへ~♪」の曲、よほどこだわりなのか(笑)

●本気キャストの王道ストーリー

お話は王妃の首飾り事件を交えダつつ、ダルタニャン(小野田龍之介)の立身出世物語り、三銃士との友情が絡む、原作踏襲型王道展開です。

個人的に普段一番接する舞台がバレエなだけに、ミュージカルを見るといつも最初は「皆さん身体太い~」と思うのですが、ダルタニャンはそれにしても丸っこい胴回りで、しかしそれがまた田舎者臭く、だが剣の身のこなしなどは軽快でよく動き、誰にも彼にも、行きずりのリシュリュー猊下(福井貴一)にまで「僕の名は~!」とKY丸出しで自己主張して得々と夢を語る紙一重的に一本気な若者。 実に私のイメージするダルタニャンっぽい。 田舎から乗ってくるのは馬の頭付きキックボードw ツボります。

村人がリシュリューの独裁に恐れおののくナンバーなども入っており、最初からもう5年前と全然違う、ミュージカルらしい展開です。 始まって数分で伝わる役者含め全関係の意気込みと本気。

このお話ではリシュリューは完全悪役で、その腹心にミレディ(樹里咲穂)がおり、ロシュフォールは省略。 国王ルイ13世芋洗坂係長)は完全リシュリューの操り人形で、操り人形のようなマイムはわかりやすく、また秀逸。 そんな王と国の未来を憂うアンヌ王妃(沼尾みゆき)。 英国と戦争して力を誇示したい猊下と、それを防ぎたい王妃の戦いが、このミュージカルのベースです。 彼女が「国の未来を憂う行動」がお話を動かす展開であって、原作のバッキンガム公爵(宮下雄也)との不倫ではない(笑) 今作は完全アンヌがヒロインです。 国母アンヌ(笑)

猊下にとって邪魔な銃士隊は解散させられる直前。 ダルはミレディにそそのかされて三銃士と決闘することになります。

してその三銃士。 アトス(今拓哉)はミレディとの過去や「燃えないゴミです」といったやさぐれ感などは影も形もない、酔いどれオヤジ系。 今さんは東宝の「三銃士」でルイ13世を演じられていましたね。 冒頭、ダルタニャンの父親役も演じていましたが、これはさり気に原作の「ダルにとってアトスは父親のような存在」というのを踏襲していて、ニヤリとします。

ポルトス(なだぎ武)はこれまたワイルドカード。 ドレッドヘアをバンダナで上にまとめて、まるでモップ。 力持ちというには身体が細身ですが、お笑い担当として笑いを取るのが上手です。 さすがコメディアン。

そしてアラミス(上原理生)。 正統派のザッツ・イケメン!!キタ――(゚∀゚)――!!

坊主との間を行き来する胡散臭い設定は語られてこそいませんが、仮にあの風貌で「聖職者を目指している」なんて言われたら、胡散臭さ炸裂で悶絶無限大になりそうな濃厚な美男子。 実にナルシストっぽくていい感じです(//∇//) 新国立バレエ団の井澤駿君を彷彿させる濃さ&イケメンっぷりで、むっちりミュージカルの方々のなかにあって、スラリとしていてスタイルもよろしい(でも紫サテンハンカチはやめてw)。 よくぞ彼を当ててくれました。 もうこのアラミスキャストだけで日生さんに「ありがとう!!」と言いたいです。 ここ数ヶ月、いろいろ調べ物をする折りに、なにかにつけて彼の名を目にする機会が多かったけど、これはハマる運命だったというわけだね(笑)

●盛り上がった「イギリスへ~♪」

というわけで。 ストーリーは三銃士とダルの決闘からVS親衛隊(国防軍)に。

そこへ割り込むのがリシュリューの手下に追われたコンスタンス(吉川友)。 ダルは一目ぼれ。 乱闘の罪で牢獄にぶち込まれるダル+三銃士ですが、助けに来たのはコンスタンス。 しかも戦争回避のためバッキンガム公爵との密会のボディーガードを頼むためという、結構裏で策士のコンスです。

バッキンガムと王妃の密会は、あくまでもフランスと英国の戦争回避が目的。 やはりヒロイン・アンヌは国母です。 子供たちにとって、お母さんは守ってくれる存在なのだ、無条件に。

アンヌは戦争回避が目的ですが、バッキンはアンヌに未だ惚れている模様。 「英国はフランスに攻め込まない」という約束を取り付ける代わりに、アンヌの大切な首飾りを所望します。 ここで首飾り事件のエピソードに繋がります。

イギリスに持っていかれてしまった首飾りを取り戻すために「イギリスへ イギリスへ~♪」という「みんなで歌おう」ナンバーが展開されるわけで、こうして書いていると歌わなきゃやってられんわー、的展開でもあるんですが。 この「みんなで歌おう」ソングを1部のラスト・休憩に入る前のクライマックスで出演者一同が一列にずらーっ!と並んで華々しくやられると、なにやらとても盛り上がります(笑)

追っ手を交わしてバッキンガム公爵からダイヤの首飾りを返してもらうものの、メイドとして忍び込んだミレディにダイヤは1つ持ち去られた後。 ダルは先に王妃に首飾りを届け、三銃士がミレディからダイヤを奪おうと後を追います。 三銃士に囲まれたミレディ、ダイヤを渡すまいと飲み込んだり、しかし脅され吐き出したりと、なかなか器用ではありますが、最後はバッキンガムに引き渡されオオカミ責め?にあったのか、発狂精神崩壊。 すげぇなバッキン、アンパン顔で歌力は残念だけどどんだけドSなのかとか、いろいろ妄想してしまいますね(笑)

最後はリシュリューの悪事も暴かれ、銃士隊も復活、アンヌの名誉も守られ、ダルは銃士隊に入隊を認められ、フランスと英国は和平を結ぶというハッピーエンドです。

というわけで、猊下が生粋の悪役になってしまうのは致し方なしか。 でも私的にはアラミスが正統派に顔も演技も濃いイケメンで、とにかくめっちゃめちゃかっこよかったので、それだけでも相当に十分満足です(紫ハンカチのアクションは、別の日は上手くいったのかな)。

最後は青い銃士隊の制服マントも登場し、やったら4人が「ひとりはみんなのためにー!」と剣を合わせてくれるのには、やっぱり銃士ファンは萌えあがります(笑)

ここまでハイクオリティになっていたと知っていたら、千秋楽含め2回くらい見たかった日生版「三銃士」でした。 このキャストで、ぜひ夏の定番にしていただきたいものです。

ありがとうございました。

[caption id="attachment_629" align="alignleft" width="400"]ダルタニャンの故郷、ルピアック村の夏。一面のひまわり ダルタニャンの故郷、ルピアック村の夏。一面のひまわり[/caption]

 

 

 

 

 

 

 

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【Photo】宜蘭・国立伝統芸術中心活動通:布袋劇なる伝統芸能の進化形を見た!

「なんだ、この宝塚みたいなお耽美な人形たちは!(//∇//)」

びっくりして、しかし目が釘付けになったのが宜蘭市国立伝統芸術中心活動通(宜蘭国立伝統芸術センター)内にある布袋劇「霹靂」シリーズの専門ショップです。

そもそもの目的は国立伝統芸術中心活動通(宜蘭国立伝統芸術センター)の視察。 宜蘭のある蘭陽一帯の古い家屋、建造物を一部移築しながら、1900年代初頭の街並みを再現した、いわゆるテーマパークで、レンガ造りに黒い瓦を合わせた中華に洋風装飾をミックスした擬洋風装飾の建物が並ぶ通りでは、時間になるとパレードも行われます。

センター内には文昌祠、展示館、戯劇館、伝習街、民芸街、臨水街が造られており、筆屋、履物屋、小物屋、お茶屋などがあるのですが、その一角に「霹靂」シリーズの専門店がありました。

布袋劇は、もともと台湾の民俗伝統芸能。 頭と手足が木で、胴体は布製であることから「布袋」劇、と呼ばれたそうです。 日本の文楽や田楽、農村歌舞伎のように、村々で上演されていた人形劇で、中国南部から伝わり、台湾で独自の進化を遂げた布袋劇は戦後テレビシリーズが放映されるようになります。 そして1980年代に、耽美な造形、映像技術を駆使して作り上げられたのが「霹靂」シリーズ。 台湾の人気番組として今なおライヴでも上演され、同人誌やグッズ、コスプレなども行われているそう(笑) 日本の同人界とほぼ同じことが行われているようです。

この国立伝統芸術中心活動通(宜蘭国立伝統芸術センター)の伝統的なスタイルの野外ステージでも、同人によるコスプレなど、イベントが行われいているようで。

ちなみに2016年、今年7月から放送されている布袋劇「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」はこの霹靂スタッフと日本のゲームメーカーの共同制作。 最強のタッグのような気がします。 この映像のすごさはぜひ一度ご覧あれ。 伝統芸能が進化した姿です。 ↓ https://youtu.be/_5IjA8NvWiQ

個人的には宝塚が舞台化してもおかしくないと思っていますが(笑)

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第27回清里フィールドバレエ「白鳥の湖」:2幕からでも幻想舞台

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7月30日、今年も萌木の村で行われる清里フィールドバレエに行ってまいりました。

野外舞台で行われるこのバレエ、舞台が天然のセットで実に幻想的で、一度見ると本当にクセになります。 美術監督(?)がある意味「自然」ですから、二度と同じセットはありませんし、照明も月夜だったり星空だったり。 効果に夜霧がつくこともあれば、夜風がさわさわと木々をゆらすこともあります。 雨に泣かされることもありますが、それでも天然の森や山を背景に繰り広げられる物語世界は格別のものがあります。

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新国立劇場バレエ団「こどものためのバレエ劇場 白鳥の湖」(3):新加入王子を見に行った

7月24日、「こどものためのバレエ劇場 白鳥の湖」こと「こども白鳥」、午前の木村&渡邊組を急遽見てきました。 どうしようかかなり悩んでいた組ですが、当日券が「若干枚数」出たので、朝一でGET。 物事はやはり「肯定」から入らなきゃいかんわ。

[caption id="attachment_383" align="alignright" width="400"]kodomoswantoulouse トゥールーズ。ラングドックもといオクシタニア地方の都[/caption]

気になっていたのは新加入の王子、渡邊峻郁氏です。 モナコで学び、キャピトル・ドゥ・トゥールーズでキャリアを積んで入団、という経歴ですが、「トゥールーズ」というあの赤煉瓦の街、オクシタニアの古都に並々ならぬ思い入れがある自分としては、あの街の、あの劇場で踊っていた人と思うと、やはり気になるわけです。

しかも「三銃士」のポルトスを踊ったと聞いたら、「三銃士」ヲタでもあるゆえに、そりゃあ見たくなるわ。 実はこの渡邊氏が出演したキャピトルの「三銃士」、そうとは知らず見に行く気満々でトゥールーズ遠征の準備をしていたのですが、結局仕事の都合で行けなくなったという、いわくつきの公演なんです。 もし行けてたら「日本人の男の子がポルトスを踊ってた!」と大騒ぎだったかもしれません。 かなり横滑りな思い入れですが、まあヲタってのはそんなもんです(笑)

前置き長くてスイマセン。

というわけで、あ、ありのまま、その日見たことを話すぜ。

このこども白鳥は王子が真ん中で立っている状態で幕が開き、お話が始まります。 子供向けということもありますが、新国本版(牧版)よりよっぽどよくまとまっており、一方で演技や力量のバランス次第で王子の物語になる可能性もあるなと感じました。

して、1幕。 件の渡邊王子の第一印象は新国のベテランプリンシパル、リーマン菅野さんを彷彿させる、リーマン2とったタイプ。 王子の髪型、横分けのせいもあるからでしょうが、キラキラ派手なタイプではない。 やはり誠実そうで、職務に忠実なリーマンタイプというのが一番しっくりきます。 身長は想像していた以上に高いですね。

王子の成人式から道化、家庭教師とのやり取りといった小芝居は自然にこなしている。 海外で修業した人は、やはりてらいなく感情表現ができるのでしょうか。 小野寺道化が王子に寄り添う感じで、2人の息が思った以上に合っているようにも見えます。 ヴァリエーションの踊りも丁寧だし、跳躍も高い。 弓を持って退場する一瞬の間など、彼なりに王子像を作って考えてきています。 そういえばすぐ近くの席に、渡邊氏新国デビューを大々的に報じた福島の新聞の切り抜きを大事そうに眺めていたお婆ちゃんがいましたが、ひょっとして郷里から応援団が来ているのでしょうか? そうだとすれば、この公演はかなり気合いが入っていたことでしょう。

2幕、湖。 kodomohakuchou1オデットは木村優里ですが、白鳥のコールドを背にして立つオデットだけがまるでJKというよりJCというより、マジで幼児に見えて唖然。 彼女は手足は長く、小顔でスラリとして身長もあり、非常に恵まれたスタイルのはずなのに、また日本の女子のバレエダンサーは総じて皆さん細いのですが、それにしたってここまで幼児に見えるとは……。 一体どれだけ内面子供なんだろう???? これじゃあ恋愛以前に、結婚年齢にも達してない姫です。 お話はこの時点で終わった(笑)

踊りは必死に丁寧ではありますが、おそらく大原監督の指導通りのまま踊っているのでしょう。 見ていて、大原監督の個性的な指導声がすこぶる容易に想像できました。 ともかく彼女は舞台経験がまだまだ圧倒的に少ないので、それを考えれば、特に度胸にはとんでもなくすごいものがあると思いますが。

まあそんなわけで、予想はしていましたが、女性主演に表現力・演技力と意思疎通能力が絶対的に未熟以前に皆無と思えるほど(てか、これじゃあ物語バレエの主演は無理だし、「シンデレラ」でキャスティングされなかったのも納得。無論ほかの2年目&新人にどれだけ力量があるのかわかりませんが)。 頭使わなくても、ナレーションが全部語ってくれてる「こども白鳥」でよかったねぇ、と激しく思いました。 しかしド新人とはいえ、新国の看板背負って、絢子姫や唯ちゃん、長田さんと名を並べて主演として舞台に立つ以上、きれいに踊る「だけ」の、発表会レベルの舞台は勘弁願いたいし、まずちゃんと頭を使ってほしいもんです。 恵まれた容姿など、ポテンシャルは秘めているのでしょうから。

一方2幕の渡邊王子ですが、これがまた福岡、井澤とは全然違うアプローチや表情を時折見せ、彼なりに王子の心の動きを表現しようとしているのがわかる。 オデットと湖で出会い、心がときめき「初めて恋を知る」気持ちが動きや視線で伝わってきます(相手が幼児で気の毒すぎるほど)。

パートナーが未熟なため表現の面では気持ちが通い合う以前の問題ですが、渡邊王子はとにかく職務に忠実に、(子守りも含め)自分のなすべきことをこなしています。 トゥールーズで西洋人の姉さんたちを持ちあげていたせいもあるのでしょう、リフトが安定しているのが頼もしいです。

4羽の白鳥が五月女、奥田、石山、広瀬の鉄板メンバーなんですが、これが進化していてすごかった! 前から1桁代の席にいたのに、足音がほぼ無音で、逆に「聞こえる?」と耳をそばだててしまうくらい。 口ぽかーんで見入ってしまう見事さで、こんなクオリティの4羽、そうそうお目にかかれないでしょう。 4羽を8回踊るという広瀬さんも、ケガなく7回目をクリア。 よかったよかった。

3幕。 入場した渡邊王子は冠被った本島王妃と同じくらいの背の高さ。 小野寺道化がこの日は本当によいです(口元がちょっと松の末弟に似てるw)。 踊りもキレッキレで、小野寺君ってこんなにすごかったっけ?と思うほど。 ニューカマーの王子にも本島王妃にも、本当によく寄り添い、合わせてきている。 絶妙な立ち位置を心得たプロの仕事です。 とてつもなく褒めてあげたいです。

スペインはこの回はセクシー宝満&不思議なドヤ顔の福田ヒロ君組。 結局池田君を見損ねて残念。 ナポリ男子が渡部義紀君。 この公演、ナポリ男子はほぼ回替わりだったようで、他に誰が踊ったのか気になりますが、でもそういう確率で渡部君が見られたのはラッキー極まりない。 彼はナポリのお姉さま方(五月女、奥田、盆子原)と小芝居をずっと続けていたのがとてもいいです。 朗らかで陽気なナポリの青年楽師、という設定だったのかな? いざ踊る時も「さあ、いきましょうか♪」という雰囲気でお姉さまをリードし、踊り出せばスマイル炸裂で実に軽やかで、いつの間にか顔がほころびます。 先々本当に楽しみでなりません(彼にはいつかアラジンを踊ってほしい)。

黒鳥はやはり教えられたとおりになぞるだけとはいえ、ここは傀儡解釈のできる場面ですから、幼児白鳥よりは見られる。 そしてここぞとばかりにトリプル込みでブイブイ回ってます。

傀儡黒鳥に堕ちた王子を見つめる本島王妃の「あの子、ホントにあの姫でいいのかしら…?」という心配そうな表情と、それを見上げる小野寺道化の、ワンコのような目がツボりました。 新国のこの脇で支える方々の力があってこそ、成り立っている舞台です。 バレエ団の技量・実力って、こういうところで出るんだなぁと、改めて思いました。

4幕。 あとは見どころは王子の戦いの場面でしょう。 姫をたてながらも、完全に王子の成長物語です。 ロットバルトの貝川さんとの戦いもアクションが非常にわかりやすく、動きもよく合い、王子の必死さ、渾身のひとむしり(笑)がよく伝わってきました。

というわけで。 渡邊王子、幼児姫に合わせて殉職せず、自分の力量(の片鱗)を示せたことはお見事でした。 と同時に王子のお相手が絢子姫や唯ちゃん……というより、普通に演技のできるプロだったらなぁと思ってしまいました。 でも彼は新国デビューに加え、子守りという余計な負荷のかかった状態で職務以上のことをしたし、与えられたチャンスを最大限に活かしたと思います。

新人オデットは、王子と脇や後ろの方々にどれだけ感謝してもしきれない状態であったか、そこから真摯に考えた方がいいのではないでしょうかね。 同じ日の午後にロパートキナやザハロワ、フェリなどが出演した「オールスターガラ」を見て、バレエは行き着くところ超絶技巧ではなく、内面からにじみ出る感情と表現力・演技力だと改めて認識しただけに、つくづくそう思います。

新国来シーズンは開幕「ロミオとジュリエット」。 渡邊氏も今日の出来なら何か役が付きそうです。 新国の目指す踊りと演技の醸す濃厚「物語バレエ」の舞台、実に楽しみでなりません。 開幕11月……遠いけど……。

新国立劇場バレエ団「こどものためのバレエ劇場 白鳥の湖」(2):スリリングなドラマ

7月21日、「こどものためのバレエ劇場 白鳥の湖」こと「こども白鳥」、引き続き午後の米沢&井澤組です。

が、中家さんのロットバルトの予定がいきなり降板。kodomohakuchou3 急遽、これまた絶賛売り出し中の小柴君の登場となりました。

して小野さんと並ぶ2枚看板のもう一枚、米沢唯ちゃん。 正統派の絢子姫に対し、唯ちゃんなりの、スリリングでドラマチックなお話でした。

王子の井澤君は2シーズン目を終えるところ。 王子役が板についてきて、演技力も最初に比べると格段に向上しています。 彼は頭を使っていろいろ考えて舞台に挑んでくるようです。

またこども白鳥、一律料金で座席は早い者勝ちゆえ、ここぞとばかりにオペラパレスの1階席で見るわけですが、近いと見えるものが違う。 井澤君はやっぱり王子のオーラがある人だなぁ……と改めて感じます。

 

kodomohakuchou1王妃が仙頭さん。 美しいのですが、午前中のかわいらしく慈愛系&女優の本島王妃に対して氷の能面というのでしょうか。 継母か。

道化が、これも超絶技巧系の役どころの2枚看板ともいえる福田君。 動きがファンキーなのに、細かい気配りがあったりと甲斐甲斐しい道化です。 そして踊りはキレッキレのダイナミックさで魅せてくれました。

さて、米沢白鳥ですが、人外には定評のある唯ちゃん、やっぱり白鳥の鳥加減がいいです。 なんだか本当に鳥らしく、ロットバルトの魔法でもう人間としての記憶もギリギリなんじゃないかと思わせるような白鳥です。 王子と出会って人間らしい気持ちを取り戻したような風にも思えます。

4羽の白鳥は、この回は奥田、広瀬、石山、五月女という見慣れたサイズ、見慣れたダンサーの方々。 こんなに前で見ているのに本当に足音が少なくてびっくり。 どうしたってパカパカ言いそうなところが実に静かで、この組は一種職人集団でもありますね。 広瀬さんが午前、午後と一日2回も4羽の白鳥って、怪我上がりだと思いますが、これを4日間とは! 無事に日程終えられますように…!

ロットバルトの小柴君は、絶賛売り出し中……というより、絶賛修行中というべきでしょうか(笑) スタイルと大きさゆえか、最近非常に機会を与えられている人ではあります。 が、「ドン・キ」の(まさかの)エスパーダから、「アラジン」エメラルドとよくなってきていますが、ロットバルトは難しいのでしょうね。 踊り慣れた貝川さんを午前中に見ただけに、相当に及ばないです。 健闘はしていましたが、中家さんの分まで回数はこなせますから頑張れー。

そういえばこのこども白鳥、オデットのお付きに大きな2羽の白鳥がいるのですが、午前は丸尾さんじゃない方、午後は堀口さんじゃない方がちょっとあんまりというか、ダメというのか見苦しいというか、ずっといる人との差がこんなにでかいのかというクオリティ(新しい人だと思います。名前はわかりません)。 体型もでかいというより、太い。 動きに品がないしバタバタしてて、片足で立ってても膝曲がってるし。 総じて素晴らしい舞台のなかで、このお付き白鳥のぶっとい方だけ、露骨に眉間にしわが寄りました。 新国は男子が充実してきている分、女子の、特に新加入組にそろそろ差がつき始めているような気がします。 1階席でいつも以上に表情がしっかり見える分、見えなくてもいいものまで見えたかも。 白鳥ってごまかしが効かない作品なんだなと、改めて思いました。 白いチュチュは、過酷なまでにすべてをさらけ出しますね……。

とまれ、3幕の黒鳥ですが、この黒鳥唯のワルイこと! いつにも増して小ズルさ炸裂。 目線がいたずら……というよりもう完全にハナから騙してやろうというずるいニヤリな光。 そして純に堕ちていく井澤王子。 冒頭の黒鳥の腕を引く王子がホントに堕ちていく感じ、駆け引きの感じの水際感が非常に出ていて、ドキドキしました。 小柴君も3幕のロットバルトはいい感じです。 マントは湖のロットバルトの羽より扱いやすいんでしょうか。 白鳥のチュチュ同様、黒い羽根と動きのみですべてを表すのは、かなり難しいのかもですね。

グランパドドゥは絶対無比の安定感。 余裕しゃくしゃくのグランフェッテは安心してみていられる……というより、唖然とします、何回見ても。

スペインはこの回は宝満&福田紘也、ナポリが小野寺君に女子が奥田、盆子原、五月女と、これまた見慣れた方々。 宝満君が午前午後と2回出ていましたから、どちらかが池田君だったのでしょうか。 発熱リタイヤで見られなかったのは残念です。 しかし宝満君は黒が似合う、セクシーです。

4幕、やっぱりロットバルトと王子の戦いがわかりやすく、勝利して、ロットバルトがしっかり消滅していくラストはすっきりします。 ハッピーエンドでなくたっていいんですが、でもここまでオトシマエをきっちり描いてくれればハッピーエンドでもいいですね。 本版のラスト、これに変えればいいのに。

そして力尽き、王子に起こされ人間に戻ったことを知る唯オデット。 彼女はこういうドラマの部分もとても丁寧で、物語のラストに余韻を与えてくれます。 スリリングでドラマチックな白鳥でした。

というわけで、新国としては今度は11月「ロミオとジュリエット」までもう舞台がありません。 寂しい~(ノД`)・゜・。

あ、このこども白鳥は高松公演があります。 9月19日(月・祝) http://www.sunport-hall.jp/event/main/2016/swan.html

主演は米沢&井澤組。 高松の皆様、ぜひ期待してくださいませ。

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新国立劇場バレエ団「こどものためのバレエ劇場 白鳥の湖」(1):コンパクトでも濃厚

7月21日、「こどものためのバレエ劇場 白鳥の湖」こと「こども白鳥」の午前(小野&福岡)&午後(米沢&井澤)を見てきました。

毎夏やっているこどもの劇場体験も含めた時間の短い簡略版バレエですが、あなどるなかれ、なかなか濃厚ですし、なによりダンサーさんの質がいいので、大人も相当に満足できます。 毎年この時期に同じことを書いていますが、クマのぬいぐるみ「シュタイフ」の創設者であるマルガレーテ・シュタイフさんの「こどもの最初の友達だからこそ、最高のものを」という言葉があります。 まさにそれと同様に、子どもにとって貴重なバレエ鑑賞体験だからこそ最高のものを、と思います。 できればフルオケが望ましいのは言わずもがなですが、そうなると家族3人、4人で気軽に行こうと思える価格を超えますから、そこは致し方なしでしょう。

●コンパクトでわかりやすい新制作版

新制作版のこども白鳥、間に休憩20分を挟んで正味1時間半くらいでしょうか。 各幕の始まりにあらすじのナレーションが入ります。

1幕は「ワルツ」の曲が終わるまでに、王子の誕生日から王妃登場と退出、アンニュイな王子が湖へ狩りに出かけるところまで全部やってしまう(笑) 一瞬ですが潔い。 そして王子のソロはしっかり入れている。

2幕はじっくり見せます。 ヴァリエーションは有名な4羽の白鳥だけを残してカットですが、アダージョのところはスローテンポでこれでもか!というくらいじっくりと。

休憩を挟んで3幕の各国系の踊りはスペインとナポリのみ。 1幕でカットされた道化の見せ場がここでは残ります。 その代わり黒鳥のグランパドドゥはしっかり、アップテンポで。

4幕は短縮して嘆きから一気にクライマックス。 新国本版に比べ、ロットバルトの死にざまが納得できるので、むしろ本版より気持ちよく見られ、満足度も高い。

ストーリー的に大事なところはしっかり残っていますし(てかそもそも白鳥の話って端折ればこんなもんw)。 もうあの本版やらなくていいから、白鳥やりたかったら、こども白鳥やっててくれていいくらい。 ちゃんと売れているようですし、実際3階まで客入って土日完売だそうですから。 白鳥の威力はやっぱりすごいですね(笑)

周りのお子さん方も客電落ちた瞬間シーン!と静まり返り、息を飲むように真剣に見入っていたので、こっちもその熱気と真剣さに負けじと見ていました。

●午前:安定と信頼の小野&福岡組

kodomohakuchou1こども版であれ、新制作の初演は看板ペアの小野&福岡が登場。 やはり大事なところを信頼して任せられる2人なのでしょう。 そしてその期待に応える質の高さです。

紗幕が開いて真ん中に王子が立っているところでお話は始まりますが、紗幕の白鳥に王子がダブって見えるのがなかなかいい感じです。

王妃が本島さんで、これがまたかわいらしく美しい。 踊る機会が少なくなっているのが惜しいのですが、しかし立ち居姿の美しさはホントにため息が出ます。

道化の八幡君ですが、彼はアラジンを踊って吹っ切れたのかリセットかかったのか、非常に柔らかく跳躍も高く、品もよく、白鳥の道化役を踊らせたら日本一で、世界に出しても恥ずかしくないだろうというクオリティ。 王子との息もぴったりで、どこかのインタビューで言っていた「静かな王子の感情表現役」という言葉が思い起こされました。

2幕の絢子姫はもう安定の清楚さ、美しさ。 アダージョのシーンはリア充オーラ炸裂で目が潰れそうなくらい、キラキラです。 絢子姫の白鳥はやっぱり2幕がいいです。

この回、見応えあったのが4羽の白鳥。 最初に出てきたときから、いつもと違うぞ?感があったのですが、踊っているのが広瀬さんはともかく寺田、細田といった、本来大きな白鳥の方々。 大きな3羽の白鳥をカットしているがゆえの配役なのでしょうが、ゴージャスなこと! 滅多に見られないものを見ましたわ。 「小さな4羽の白鳥」とは違う、大きな4羽の白鳥ですが、こども版スペシャルですね。 というか、4羽の白鳥、大きさが変わるだけでこんなにも雰囲気が変わるのか…! 面白いことをしてきます、大原監督。

3幕の道化、客席から自然と拍手が起こります。 やっぱりアキミツ君のすごさはお子様だってわかる。

スペインの男性、林田&宝満がまあ色っぽいこと! 林田君はやはりここのところ何か吹っ切れたように楽しそうで、とってもいい味わいです。 宝満君は実はセクシーですよね。 もう少し出番があればいいのに、もったいない。 身長も足の長さも見栄えがするし、日本でこんなスペイン男性が見られるなんて、いい時代が来たもんです(笑)

ナポリは最近絶賛売り出し中の木下君。 彼も軽やかで演技力もあるし、見ていて楽しいダンサー君です。 どっか愛嬌がありますね、彼は。 人を楽しくさせる魅力があるようです。

ロットバルトが貝川さんですが、この白鳥、マリインスキーでやってる版を踏襲しているなら、メイクも特殊メイクにすればいいのになぁといつも思います。 貝川さん、お顔が悪人じゃないから、3幕が怖くないんですよね(下手すりゃ笑っちゃう)。 アラジンのジーンであれだけ正体不明のメイクをする技術がスタッフさんにはあるんでしょうし、ロットバルトもスメカロフ張りに盛ったらどうだいって思うんですが…。

して3幕の王子のヴァリもこの日の雄大君はここしばらくのなかでも出色の出来かなと。 やはり最初にスポットが当たるのが王子なだけに、演技含め存在感がすごくある。 王子の物語なんじゃないかと思ったくらいです。 動きも滞空時間長いし、動きは柔らかいし、しかも着地は猫のように無音。 どこまで進化するんでしょうね、この人は。

4幕、絶望の中でも王子を許し、力尽きるオデット。 きりっと悪魔に挑む王子。 この辺りのバトルはもちろん、また悪魔がちゃんと崖から落ちて死に、消滅の閃光まで放たれるから本版よりわかりやすい。 こういうところがちゃんとしているだけで、全然満足度が違いますね。

しかしキャスト表、こども白鳥とはいえ、せめて4羽の白鳥、スペイン、ナポリくらいは出してほしいもんです。

午後の部はまた別途。